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絵のない絵本⑱ うちのかあちゃんは忍者かもしれない

ぼくには、

母ちゃんそっくりなこわい姉ちゃんと

父ちゃん自慢の大食いな妹がいる。


ぼくは、ごく普通の小学3年生だ。

昨日はイヤなイヤな参観日だったんだけど、ぼくは不思議なことに気がついた。


父ちゃんは大工の仕事がいつも忙しい。

とうぜん、参観日も父ちゃんは忙しい。

母ちゃん一人で3人の授業を見るんだけど、3人もムリだろうから、

ぼくは

「来なくて大丈夫」だと言ったんだ。


本当は、算数の授業を見に来られると困るからだったけど。母ちゃんには言えないな。


でもまぁ、来たとしても姉ちゃんと妹の授業も見るんだから、すぐに教室を出るだろうと思って、えんぴつをクルクルまわしてたんだ。


姉ちゃんか妹の授業を見てからだと思うけど、チャイムがなってから少し遅れて、ぼくの教室に入ってきた。

小さく手をふった母ちゃんをチラッと見たあと、机からそろ~っと姿勢を正した。

少しの時間だ。ちょっと真面目にしてれば大丈夫だな。

そう思っていたんだ。



ぼくの母ちゃんは、

怒ると鬼のようだけど、塩とさとうを間違えたりもする、どんくさい性格で、

ガーデニングを楽しむ、小柄なショートカットヘアーのおばさんだ。


走っているところは見たことがない。

力は強いほうかもしれないけど、跳ぶのもきっとむりだ。

ぼくの縄跳びをほめてくれたときに、「お母さんはそんなふうに跳べないわ。」と言っていた。


なのに、

なのに、

なのに!



昨日の参観日、母ちゃんは

ぼくの教室に来てからチャイムがなるちょっと前までぼくの教室にいた。

チャイムがなるちょっと後から、チャイムがなるちょっと前まで。



学校から帰って、姉ちゃんと妹に母ちゃんが授業を見にきたか聞いたら、ほとんど見てくれてたと言っていた。

姉ちゃんは、途中から最後まで。

妹は、最初から半分くらい。


おかしい。

絶対におかしい。


3人とも、母ちゃんは本当にほとんどの時間見てくれてた。

母ちゃんは、3人ともの授業の中身をちゃんと知っていた。授業を見ていないと分からない質問にも答えられた。


だとすると、

ぼくが思うに、

母ちゃんはおそらく…


忍者だ。



塩とさとうを間違えるのも、忍者だと見抜かれないよう、わざとやっているのかもしれない。

ドロンと消えたり、分身の術を使って、ぼくたち3人の授業見てたのか。



そういえぱ、普段もだ!


忘れ物をすぐに届けてくれるのも、

ぼくたち3人の習い事と買い物と料理を、ほぼ同時にできるのも、

父ちゃんのきったない大量のニッカポッカがいつもサラっとたたんであるのも、


あれもこれも全部、忍者だとしたら納得できる。


ぼくの母ちゃん…

すげーな。



今日の母ちゃんは、どんな術を使うんだろう。



大人になったら、ぼくは母ちゃんみたいな格好いい忍者になるぞ。

体育の授業が楽しみだな。



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