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初めて日本酒の酒蔵で働いてみてわかったこと | 環境や待遇、業務内容まとめ版

2022年10月から2023年4月末まで、僕は日本酒の酒蔵で働かせていただきました。

中華の人間がなぜ?という点ですが、経緯は下記にまとめておりますが改めて後ほど簡単にまとめます。

とても貴重な経験をさせてもらったので備忘録として残します。今後酒蔵で働きたい人や酒造りに興味のある方の参考にもなる?かも?しれません。

ただ、あくまで見習いとしてなので、酒造りの真髄とか酵母や菌についての詳しい解説などをするわけではありません。感想文の延長線上と思っていただけたら。(ただ、経験したことを語る上で、説明が必要な専門用語は解説していきます。)

酒蔵で働いた目的について

僕は中国郷土料理店で働いていたことがきっかけで黄酒や白酒に興味を持ち、卒業した今でも情報発信などさまざまな活動をしています。

その中で知ったのは、紹興酒をはじめとした黄酒と日本酒の密接な繋がりです。

本当は、2020年に独立したあと、中国のいろいろな酒の産地を巡ろうと思っていました。しかし、まさかの新型コロナ発生。中国に行くどころか仕事もあったりなかったりで生活するのにいっぱいいっぱいになりました(苦笑)

中国に行けなくなった結果、僕が思ったのは、日本でできることを精一杯やろう!ということ。

そのうちの一つが「日本酒の酒蔵で酒造りを体験すること」なのでした。

まぁ単なる好奇心もありますが、これは自分のやり遂げたいことに向かっていくための、非常に重要なプロセスでもあります。この点は話が長くなるので一旦止めておきます。

どうやって入社したのか?

ハローワークの求人で見つけました。ただ、募集枠は「ラベル貼り」。実はここの前に一社受けたのですが、見事に落ちたんですね。

それによって「何でもいいからとりあえず酒蔵に入ってしまえ!」という思いになって、部署問わず応募しました(笑)入れば何とかなるのかなと。

部署は気にしませんでしたが、自宅から通えるかどうか、は重要でした。僕は家庭の事情もあって、家からあまり遠い場所に勤務することができませんでした。

ここの酒蔵は自宅から電車で1時間弱、駅からも歩いて7〜8分とアクセスは最高に良かったです。駅近は助かりますね。

人事担当の方に面接していただいて、自分のやりたいことや想いを話したら「それ、ラベル貼りだと違うな・・・やりたいことできないよ。醸造の責任者と会ってみる?」という流れになり、結果的に酒造部での採用が決まりました。そう、ラベル貼りに応募したら、本当に何とかなってしまった(笑)

基本的な1日の流れ

僕のいた酒蔵は規則正しくて、労働時間がきっちり決められていました。残業するときは申請しなければなりません。しっかりしてるんだなぁと思いました。

大体、こんな感じでした。

8:00 朝礼(それぞれ今日1日やることを報告)
8:15 ムロで出麹・切り返し・ムロの掃除
10:00 引き込み準備
10:30 米が蒸しあがってムロへ引き込み
11:00 ムロで床もみ
12:00 昼食
13:00 ムロで床もみ
14:00 放冷機や床掃除
15:30 ムロで床もみ・仲作業・ムロの掃除
16:30 全体の掃除
17:00 退勤

※具体的な仕事内容は後ほどまとめます

杜氏や蔵人さんたちは、日によっては朝早く来たり、少し残ることもあります。あとは22〜23時頃に麹の調整をしなければならないので、ローテーションで当番を決めていました。見習いの僕たちはそこはナシでしたね。

環境・待遇

環境はとても恵まれていました。まず、いい人たちばっかり!仕事中は当然ピリっとするときもありますが、一緒に働いていた見習いの人たちも「ここはいい人ばかりだ」と口を揃えて言ってました。

他の部署の方々も僕を知っていてくれるんです。「ああ、あのdonさんかー!」と。僕は初めましてなのでビックリするんですけど、杜氏さんや蔵人さんが「こんな人入ったよー」と他部署の方々に話してくれているみたいでした。もちろん、僕が有名人なわけではありません(笑)

そして、当たり前かもしれませんが、酒好きばっかり!最高です!(笑)

あと、酒蔵では珍しいのかもしれませんが、まかないの出る職場でした(300円)。蔵の施設内にレストランが併設されているので、そこで作ってくれるのです。結構、豪華でした!

これで300円。すごくないですか?

一応、僕ら見習いはパートとして働きます。

「給料もいらないので働かせてください!」と粋なことを言いたいところですが、家族の生活費も稼がないといけないし、僕は資産家でも投資家でもなく、コロナの影響で貯金も底をついていたので給与をいただけるのはありがたかったです。ただ、正直いい金額ではありません。なので僕は別の仕事を継続しながら働かせてもらっていました。

時折、酒のフェス的なイベントも開催されて、仕事終わったあとに一度参加しました。すっごい盛り上がっていて、僕らも他の部署の方々を交えて飲みながら語らって・・・楽しい思い出です。

毎日やってほしい!(無理

酒蔵で経験したこと

忘れもしない初出勤日の10月1日。僕はとても緊張していました。

29歳で初めて飲食業に飛び込んだときにも、こんな似たような感覚だったなーなんてことを思い出しながら、酒蔵へ向かいました。

(初心忘るべからず。このときの気持ちも大切に。)

では実際に経験した業務の内容をまとめます。専門用語は自分なりの解釈で解説していますが、飛ばしてもらってもいいかもしれません(笑)

ムロ

僕が一番多く携わった仕事、それは「ムロ」です。

ムロとは麹室のこと。通常、米に種麹を振って揉み込んだり、麹の発酵を順調に促していくため温度管理のできる環境が整っている部屋です。

常時30度くらいに保たれているので、ムワッとしています。寒い日など最初はいいのですが、すぐに暑くなってきて汗ダックダクになります!

ここで行った作業が主に「種切り」「床もみ」「出麹」「切り返し」「仲作業」でした。

種切り(たねきり)とは、蒸した米に種麹を振る作業。非常に重要な工程なので、普段行うのは主に杜氏さんです。でも、嬉しいことに僕も何度か経験させていただきました。(でも、なぜか初体験が純米大吟醸でした・・・プレッシャー・・・)

種麹を振ると、粉状の麹がふわ〜〜っと空間に舞います。そしてそれが米に落ちるまで「動かないで。喋らないで。」という神聖な時間があったりします。

麹を作るためには、蒸した米に麹菌を振りかけて繁殖させなければなりません。そのための作業ですね。

この後、床もみを行います。

床(とこ)もみは、麹菌を振った米を全体的に混ぜる作業です。蒸したあとの米ってモチモチしていて、揉み込むのにかなり力が必要!僕がいた蔵では、蒸し米を100〜170kgくらい麹室へ引き込んでいたのですが、130kg以上になると1人でこなすには大変なレベル。

とはいえ、量が少ないときは1人でやるので、床もみがあるときは全身からパンツまで汗まみれです(笑)しかも中腰で行うので、最初は腰と背中がバッキバキでした。

コツを掴んでからはだいぶ楽になりました。というか、途中からこの作業ががないと仕事した気にならなくなっていました。床もみ中毒ですね。。。

床もみは1日3回やっていました。時間が経過するほど、米はパラパラとしていきます。麹菌がどんどん米の中に食い込んでいる証拠ですね。1日経つと、大きな硬い米の塊になっています。

そこで、切り返しを行います。

切り返しとは、発酵が進んで固まった麹を一度バラバラにする作業。

麹菌が酒造りに必要な酵素を出してもらうために温度調整が重要。発酵を順調に進めるためには、手を入れて温度を下げたり、バラバラにしなければなりません。放っておくとレンガのようにカチカチに固まるらしいです(これって餅麹なんじゃ・・・?)

切り返ししたあとは、平面に均等に伸ばして、布などを被せて寝かせます。これをしてると温度が上がって固まるので、またバラバラにします。これを仲仕事(なかしごと)といいます。またこのあとにも同じような作業を行いますが(仕舞い仕事)これは夜中に蔵人先輩方が1人で蔵に来て、作業してくれていました。

そう、酒造りの期間は、杜氏さんや蔵人さんたちは朝から晩まで働いてましたね。それもローテーションでグルグルと回していましたが、休みの数は少ないし、誰かが体調不良で休みとなると代わりに出勤しなければならなかったり・・・こういう一面も知っておいた方がいいと思います。その代わり、夏場は休みが多めになるようです。

夜中に仕舞い仕事が終わって、朝になると麹が出来上がっています。この麹の発酵をこれ以上進めないために出麹(でこうじ)という作業を行います。

具体的には、固まった麹をまたほぐして、ストッカーに整えてながら入れていきます。

いつも朝イチは出麹から始まることが多かったです。出麹をして、空いた麹室にもうひと塊の麹を切り返すっていう流れでした。

・・・と、イメージしづらいかもしれませんが、ムロ作業はこんな感じです。あとは掃除ですね。ここが一番清潔な環境に保たなければならない場所といっても過言ではありません。初めの頃は「完璧!」と思って杜氏さんにチェックしてもらっても「40点!」と言われて、その厳しさにビックリしたのも今となってはいい思い出です。

蒸し米の放冷作業・引き込み

米は毎日300kg程度から多いときで800kg近い量を蒸します。大きな専用の蒸し器(甑:こしき、といいます)で蒸し、その米は一度冷まさなければなりません。

僕がいた酒蔵では放冷機といって、大きなベルトコンベアみたいなものに米を落として冷ましていました。その冷ました米を大きな布にくるんで、麹室へ運び込みます。これを引き込みといいます。

引き込みは1回の量で15キロ〜20キロ程度を1人で持って行きます。それを何往復もかけて運ぶのです。これもノロノロしていると温度が下がりすぎてしまうのでテキパキと!

酒母や醪に櫂入れ

たまーにやらせていただきました。櫂入れというのは、発酵中の酒母や醪を「櫂(かい)」という長い木の棒のようなもので混ぜる作業です。混ぜないと麹と水が固まっていってしまうので、混ぜることで温度を調整して発酵をバランスよく促していくためのものですね。

詰め口

できあがった酒を瓶詰めする作業です。タンクから瓶に専用の機械で瓶まで繋ぐのですが、その間に火入れもします。

火入れは商品化する上で、日持ちさせるためには重要な工程。ただ、個人的には、火入れを全くしない搾りたての酒を味見させていただいたときの感動、今でも忘れません。

うめぇのです。。。

本当に。。。

蔵人さんたちも言ってました。

「これがあるからやめられない。」

原料処理

これは自分でやったわけではないのですが、一度蔵人さんが作業を全部説明しながら見せてくれたことがありました。

簡単に流れをいうと、からした米を洗って、吸水させて、蒸すまでの作業です。

これ、時間とスピードの勝負。なので、緊張感が漂っています。

米に水をつけて吸水する時間。米を洗う時間。ある程度決まっているのですが、米の種類でまた微妙に変わるみたいで、決まった通りにやってもうまくいかないときがあるのです。

これはもう経験が物を言う世界だなと感じました。

その他掃除や洗濯

ムロのところでも触れましたが、掃除っていう言葉に「なんだ、掃除か」って思われるかもしれませんが日々の大切な作業のひとつです。

酒造りは衛生面にものすごく気を遣います。僕がいたところは、そこそこ大きめ?の規模の酒蔵だったので使用する機械も大きいんです(高所恐怖症がビビるレベル)

例えば毎日巨大な放冷機やその周辺などを洗うのですが、1人でやったら3時間程度かかります。8時間勤務だとして、そのうちの3時間ぐらいって、時間の面からもかなりの労働量だというのが伝わるんじゃないかなと思います。

さらに、蒸した米用や引き込みに使う布、麹室で使う布、雑巾や前掛け、Tシャツなど営業中に洗濯も回していきます。

そうしないと、全体の業務が滞ってしまいます。

なので、掃除や洗濯も立派な仕事のひとつです。酒を造る作業をこなしつつ、合間合間で掃除関連をメンバーみなで済ませていました。


はい。こんなところかな。

これらは僕が経験したことに限定されているだけで、酒造りにはもっといろいろな工程があることを補足しておきます。

今回の経験で得られたこと・感じたこと

僕が酒造り見習いを経験して、学んだこと得られたこと、感じたことをまとめます。

学び①日本酒と黄酒との違い

さまざまな業務に関わるたび、黄酒だったらどうやってるのかなぁ?という比較はいつも頭にありました。

例えば、麹の作り方が全然違います。日本酒の場合は、蒸した米に種麹を振って、しっかり全体を揉みほぐして少し置いて、手を入れてまた置いて、手を入れてまた置いて・・・というのを温度管理しながら行います。

黄酒は、そもそも主原料と異なる原料で麹を作ります。主に小麦ですね。小麦も精麦するわけではなく、玄麦。それを引き割って水と混ぜ合わせて蓋のない木枠に入れ、踏んで固めます。あとは麹室で温度管理しながら保管するという流れ。

道具もそれぞれ異なります。でも仕組みとしては似たようなものだったりしますね。黄酒は木製の圧搾器で上から下に圧をかけますが、僕のいた酒蔵は「ヤブタ」といって横から横に圧をかけて酒を搾る大きな機械を使っていました。でも日本酒も昔は木製の圧搾具を使用していたようです。上から下へ搾るもの。

こんな感じで似ている部分もあれば、全然違う部分もある。面白いなぁと思いながら働かせていただきました。すごく勉強になりました。

学び②酒の知識

この点はまだまだだなと思っていますが・・・。正直、慣れるまでは作業を覚えたりこなすのが精一杯で勉強っていう風には捉えて働けなかったですね。

でも、本で学んだことが仕事感覚で身についていくので、頭で学びつつ、身体全体で覚えていくっていう感じですね。働く前よりは詳しくなった、かな?

学び③酒造りの経験・苦労を体感できた

ある程度の大変さは予想していたものの、それ以上でした。

ただ、肉体的な大変さは、蔵の規模にもよると思います。さっきも書きましたが僕がいた酒蔵は大きい方?なので、そもそも取り扱う米の量が多いです。

そうなると、米を運ぶ回数や重さ、床もみの大変さ、道具の大きさなど、多くの作業で力が必要になってきます。現場自体のスペースも広いので、必然的に移動量も多くなります。働く人数にもよりますが大きいところになるほど、肉体的には大変なんだろうなと思います。帰りの電車はいつも爆睡してました。

帰るときの空が、本当に綺麗なのです。

もちろん、小さいところだから楽、というわけではありませんので悪しからず。

得られたこと①酒仲間が増えた

現場の方々と仲良くなることができて、また来年もお誘いされました(笑)杜氏さんからも「酒造るときは、手伝うよー」と言ってもらいました・・・!素直に嬉しかったですね。

飲み会もちょくちょく開催されました。


仕事終わりにビール片手に語りながら帰ったり。


花見したり。寒かったー!

同じ県内の酒蔵さんとの飲み会があったり、ビールの醸造部もあったのでその方々とも仲良くさせていただいたりもしました。

僕が黄酒のことを話すとすごく興味を持ってもらえるんですよね。やっぱり未知なる酒に対しては、酒好きな方は好奇心が湧くのでしょう。自然と酒トークも熱を帯びました。朝方まで呑んだときもありました。終電寝過ごして、酒蔵の庭で野宿したこともありました(苦笑)

酒蔵は鍵がかかって入れなかったのでその前で野宿した記念写真

楽しかったです!

シーズンも終わって、繋がっていただいた方々とはこれから改めて酒を酌み交わしたいなって思っています。

得られたこと②自信・体力(笑)

体力は、ここまで読んでいただいた方にはまぁなんとなくおわかりいただいたかと思いますがもうひとつ大切なもの、自信。

僕はいつか実現したい夢というか、目標があります。でも、それはすごく大きな夢のように思えてしまって、びびってしまっている面があります(この歳で恥ずかしいのですが)

かといってこのままじっとしていたくもないし、どうしようかなー

と思ってたどり着いた答えが、「自分のやりたいことを実現している人たちの中で働いてみる」でした。これは最初に話した目的の続きにもなりますね。

自分自身が実際に体験してみることで、酒造りが身近なものになると思ったのです。また、達成している人たちと環境を共にすることで、マインドにも変化が生まれるだろうと。

酒造りが身近になったというのは、自分にとっては大きな一歩になったと思います。身近になると、「自分なんかには絶対無理だ」と思えていたことでも、実際にやっている人が近くにいるので、現実味を帯びてきます。

回りくどいですよね。普通なら、バッとまっすぐ突き進んでいくのだと思います。

でも、本当に情けないのですが、かなりの小心者だなと自分でも思います。普通の人にとってしたら0.5歩、0.1歩くらいにしか見えないかもしれませんが、自分にとっては大きな一歩。そう、やっぱり僕は亀なのです(笑)でも、着実に進んでいる。

短期間で酒造りを学びたい人は・・・

最後に、本格的に短期間で酒造りを学びたい人にお伝えしたいことがあります。

これは当たり前のことだとも思いますが、もし本気で最短で学びたいのなら小規模の酒蔵を選んでアタックしましょう。

マイペースな僕にとっては、今回の規模の酒蔵が合っていました。でも、酒造りに携われる業務の範囲や量が限られます(週2〜3という掛け持ちだったので仕方ない部分もありますが)。

小規模のところであれば、もっとトータルかつガッツリ酒造りの経験が積めるんじゃないかなと思います。

最近はクラフトサケがブームとなっていて、小規模の酒蔵は増えていると思います。その中には1人で酒造りを任されて、独立していくための経験を積ませてくれるという酒蔵もあります。

この業界に踏み込んでみて感じたのは、人手を必要としている酒蔵は少なくないということ。なので、チャンスは結構あるんじゃないかと思います。

はい、というわけで、僕の酒造り見習い日記はこれにて終了です。半年前よりは成長できたかな。でも、まだまだまだまだ足りない部分があるし、これからさらに進んでいきます。

読んでくれた方は、いるのでしょうか(笑)ありがとうございます!次は、本作りですねーーーただいま佳境です。こちらも大変な半年間でしたので、ぼちぼち、振り返っていきたいと思います。

9月出版予定。よろしくお願いします!


主に中国酒にまつわる活動に充てさせていただきます。具体的には中国酒関連のイベント開催費や中国酒の研究費、現地への旅費、YouTubeの制作費用などです。お力添えを頂けたら嬉しいです!干杯!