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おふくろの味ならぬ、じいさんの味。

複雑な家庭で育ちましたので、お恥ずかしながら私にはおふくろの味というものがありません。

母よりも祖父母が作る料理のほうがどちらかというと印象に残っていて、

「あ、あの茶色い脳ミソみたいなぷりぷりトロトロでおいしかった食べ物は、白子の煮付けだったんだ」とか、大人になってから判明することがたまにあります。

というのも、18歳の頃を境に祖父母とは一切会ってないし、連絡先も知らない、どこにいるのかも、生きているのか亡くなっているのかさえも私は知りません。料理に興味を持ちはじめた頃にはもう、聞ける距離にいなかったのです。


「遊園地に行こう!」と言っていつもの近くの公園につれてくような祖父ですが、幼少期の私にとっては唯一、私を心から愛してくれるあたたかい存在でした。

幼少期の一番つらい時期に、いつも手を差し伸べてくれていたのが祖父です。

祖父は、私が体調を崩すと決まって卵がゆを作ってくれました。

自分で食べられるくせにここぞとばかりに甘えて、「あーん」と食べさせてもらっていたことを思い出すと、今でも少し頬が緩みます。


大人になって一人暮らしをしていたある日、体調を崩した私は「じいさんが作ってくれてた卵がゆ、食べたいな」と、ふと思いました。

卵が入っていたことはわかっていましたが、それ以外の味付けはわかりません。

「うーん、おかゆだから、、塩かな。」

熱でプルプル震えながら、あの味を自分なりに再現してみました。でも、

「あ、全然違うや」

失敗。作り直す力は残っていなかったので、その時はとりあえずそれで済ませました。


次に体調を崩したときのためになんとか思い出しておきたい。そう思った私はあの味の再現をもう一度試みることに。

「普通のおかゆよりも、茶色かったかも」

そう思い、味噌を入れてみました。

「これだ…!」

まさしくあのときの味でした。恋しかったあの味に、15年ぶりに再会できたのです。


それ以来、体調を崩すと決まってこの卵がゆを作ります。実は今日も食べました。

旦那さんが体調を崩したときも作ったりします。

一口食べると、ほほえんだ祖父の顔が浮かび、なんだか頭をぽんぽんとされているようなやさしさに包まれ、体がぽかぽかとあったかくなります。治りが早くなる気もします。


体調を崩した私をそっと支えてくれる味。

おふくろの味ではなくじいさんの味。
これからもずっと大切な味。



きゃらをさんの企画にも参加させていだだいています…!


【本日の合わせてよむよむ📕】


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