符亀の「喰べたもの」 20220710~20220716

今週インプットしたものをまとめるnote、第九十五回です。

各書影は、「版元ドットコム」様より引用しております。


漫画

ヤンキー君と白杖ガール」(7~8巻 (完)) うおやま

恐れられながらも本当は心優しいヤンキーと、弱視の少女とのラブコメ。第四十六回以来の登場です。

キャラの立場や目線の違い、それにより生じるすれ違いに、最後まで優しく寄り添い続けた温かい作品でした。素晴らしいのが、そういうテーマでありながら説教臭さや虚構じみた都合の良さはほぼ感じなかったことです。その理由として、キャラが相手の気持ちを受け入れる前に、身もふたもない感情というか「本音」のようなものをギャグとして挿入しているのがあるのかなと思いました。例えば、8巻の「ちょっと疲れたっス」「お重いです……」のようなセリフ群です。これらによりキャラから聖人君子らしい虚構っぽさが消え、作品全体からも悪い意味での「やさしいせかい」感 (現実はこうはならんのよねという諦観) が生まれにくいのかなと思いました。フィクション臭さの脱臭はエンタメにのめりこんでもらうために重要であり、


異世界失格」(7巻) 野田宏(原作)、若松卓宏(作画)

太宰感のある作家が、異世界転生して死に場所を求めるコメディー。第二十一回以来の登場です。アニメ化おめでとうございます。

(ややネタバレあり)
この作品の良さは、まずテンプレから始めて展開を予測させ、それを主人公が煽ってキャラの感情を引き出すことで予想外のオチに着地させる、裏切り方の上手さにあると思います。しかしここ最近のエピソードは、その裏切りさえもテンプレート化してしまったが故か、引き出された感情やそこからの顛末も予想の範疇に収まってしまっていたせいか、気持ちよさが不十分な印象でした。

この巻の話もそんな感じで終わりそうでしたが、そこを「そうじゃないだろう?」と重ねて一回煽り、本作のテンプレートすらぶち壊してくれたのには感動しました。マンネリ化してきた構成を打破し、より予想ができなくなった展開でどう振り回してくれるのか、期待大です。


ホテル・インヒューマンズ」(3巻) 田島青

殺し屋専用のホテルの「甘い」コンシェルジュを主人公とした、殺し屋たちのヒューマンドラマ。第五十六回以来の登場です。

これまでの積み重ねにより、「できるだけキャラを生かそうとするけど死ぬならキレイに殺す」作品だという信頼を築けているのが、この巻前半のエピソードですごく効いていたと思います。人質が救出されてからも脅されている狙撃手と開放された人質とのどちらが死んでもおかしくなく、しかし雑に殺すことはしないし生き残る可能性の方が高いはずだからこそ、各シーンの緊迫感が増幅されてスリリングな読書体験ができました。製作者としては、このスリルを過去の実績という遅効性のものに頼らずに演出できないか考えたいところですが、それは今後の課題にしようと思います。


極主夫道」(10巻) おおのこうすけ

元最凶のヤクザが、専業主夫として活躍する任侠コメディです。第七十七回以来の登場です。

シュールな雰囲気とわかりやすい面白さを両立するため、ツッコむところとスルーするところとのバランスが上手いと思いました。ひたすらツッコミを放棄する回、ツッコミが別のボケになっている回、ツッコんでいたところがいつの間にか受け入れられてオチになる回。どこまでツッコむかを回によって変化させ、マンネリ化を防ぎつつ全体的なシュールさを保っているのではないかと感じました。あっぱれ。


隣の家の女装男子

「昔母親に無理矢理女装させられていた女装男子に数年ぶりに再会した話」 (筆者さんのツイートより) です。

最初の数枚でハッピーエンドが確定しているおかげでなんとか読めるタイプの地獄でした。やりやがったな。


連休のおかげで、積んでいた「ヤンキー君と白杖ガール」を読む気になり、ちゃんとインプットできたのはよかったですね。まあ、まだまだ腐るぐらいに積読が転がっているんですけども。床に。


一般書籍

日本語と論理」 飯田隆

時に非論理的と言われることもある日本語において、確定 (theかaか) や量化といった論理がどのようにはたらいているのかを述べた新書です。

非常に面白い本で、読んでいて何度も衝撃が走りました。先述の日本語は論理的な言語なのかという問いの答えも面白かったですが、助数辞 (「三杯の水」の「杯」の部分) の三分類 (分類辞、単位形成辞、計量辞) や、不定詞 (「どの」など) による量化の性質といった、これまで単純なものだと思っていたことへの解像度が丁寧な説明によってめきめきと上がるのが、とても気持ちいい読書体験でした。

ですが本書に一番うならされたのは、その具体例の上手さに対してでした。この本では、通説や一見正しそうな理論が例文によって一瞬で崩壊する構成が何度か登場します。この「一瞬で」というのがミソで、丁寧な説明でじわじわと理解していくよりも衝撃的な興奮を味わえました。内容に対し読後感に充実感が少ない本はいくつかありますが、このように例によって瞬間火力を上げればその残念さを回避できるというのを、内容面以外にも学ばせてもらいました。


Web記事

数字から見るボードゲーム即売会との向き合い方

来場者数500人未満の小規模なボードゲーム即売会に対して、筆者さんの実績を元にまとめられたnoteです。

具体的な販売数に基づいた持ち込み数の予測方法が有意義であり、貴重な資料だと思います。私は売り切れないよう馬鹿みたいに持ち込む&それができる東京圏のイベントにしかうかがわないかと思いますが、スタンスを変える際には再読します。


『怪獣8号』のスマホ対応表現スキルがおかしいレベル

怪獣8号」の、スマホと紙媒体で見え方が変わるコマ割について述べられたnoteです。

前回でコマ割の話をしたので、その関連として読みました。同様の記事以前にも取り上げていますが、何度も話題に上るぐらいに本作のコマ割は白眉ということなのでしょうね。


『割らなくなった』デザイン

「偽装不倫」 (元記事のリンク先は読めず) の縦読みに最適化された余白の多いデザインについてのnoteです。

これも、上と同じ文脈で読んだ記事です。こちらのnoteは2018年のもので、ここから従来の漫画メディアのスマホ参入により、通常レイアウトながら1ページごとでも見やすいようになった漫画が褒められる時代になったのが面白いです。


埋もれかけた踏切事故 ~A4 2枚の報告書の真相

十分に検証されていなかった踏切事故について調査し、新事実を明らかにした取材記事です。

丹念な取材が素晴らしく、メディアの仕事の偉大さを思い知らされました。同時に、これほどミステリーとして (不謹慎ながら) 面白い内容でも、被害者の人となりを載せないとコンテンツ不足な感じになってしまうことに少し残念な気持ちもあります。


三連休を使って一週間分のズレを取り戻そうかと思ったのですが、結局いつもの時間の更新になってしまいました。不甲斐ないでござる。

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