符亀の「喰べたもの」 20210801~20210807

今週インプットしたものをまとめるnote、第四十六回です。

各書影は、「版元ドットコム」様より引用しております。

所用により、日曜日に更新しています。


漫画

ヤンキー君と白杖ガール」(6巻) うおやま

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恐れられながらも本当は心優しいヤンキーと、弱視の少女とのラブコメ。第十八回以来の登場です。

ハンディキャップやすれ違いといった上手くいかないものとしっかり向き合い、ご都合主義を感じさせない程度に優しい世界に着地させる手腕が見事な作品だと思います。この微妙なバランスを壊さずにストーリーを動かすための装置として、主人公の「純情で突っ込んでいくヤンキー」という属性がこうも上手くかみ合うものかと感心しました。もう刊行ペースの遅さぐらいしか弱点がないです。


Fate/Grand Order -Epic of Remnant- 亜種特異点3/亜種並行世界 屍山血河舞台 下総国 英霊剣豪七番勝負」(3、4巻) 渡れい(漫画)、TYPE-MOON (原作)

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タイトルが長い。ソシャゲ版Fate、通称FGOを原作としたコミカライズです。

シナリオ面は原作準拠なため省きますが、戦闘時に召喚して活躍させる英霊(キャラ)を絞って山場の渋滞を省くことで戦闘テンポを上げ、その分テンポを落とせる幕間部分では拠点で主人公(意識だけ舞台の下総に飛び、体は拠点で眠っている設定)を見守るキャラ達というオリジナルパートを挟んで登場するキャラの数を増やす、という工夫は見事だと思いました。推しキャラが出てきた方がうれしいに決まってますからね。

そして一番の魅力はその作画であり、活き活きとした表情から怪物の絶望感、何より英霊剣豪の躍動感に舌を巻くしかありません。こうした美術面は専門外なのですが、ここでは一点、キャラの目について。本作ではかなり目が大きく描かれており、それが表情(特に目の下に線を入れた絶望顔)の演技を鮮やかにしていると思います。しかし本作は変則的ながら時代劇なため壮齢の男性が多く登場し、彼らも同様に描くと幼い印象になってしまいます。かといって彼らだけ目が小さくなると、キャラデザのバランスが崩れてしまう、はずが、本作では大小の目が同時に存在していても違和感が生じにくいです。その理由として、おそらく鼻の情報量でバランスをとっているのではないかと考えました。目が小さいキャラは鼻を細かく、目が大きいキャラは鼻をデフォルメし、これらを足し合わせたときの情報量がほぼ同じになるようにしている。このテクニックは今後のキャラデザで活かせそうなので、覚えておきたいと思います。


午後9時15分の演劇論」(1、2巻) 横山旬

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美術大学の夜間学部にて、(あまりよくない意味で)個性豊かな同級生に振り回されながら制作発表の劇の演出として右往左往する主人公を描いた物語。

本当に主人公の考えがブレまくるのですが、それでも読者のテンションが萎えないのがすごいと思います。創作の熱気への表現力やそれによる画面の暑苦しさもありますが、やはり定期的に主人公が結論を出しているのが大きいのかなと思います。たとえそれが堂々巡りであっても、結論という決算フェイズがあればなんとなく進んでいる感が出てモヤモヤしにくいというのは発見でした。


経堂龍之介の転職」 秋谷弥潮

刑事が相棒の最期の言葉に従い直木賞作家を目指す読み切りです。あらすじがこれで正しいのかはわかりませんがこういう話です。

刑事と小説家との2本軸で進む話ですが、まず片方にもう片方を合流させ、その後クライマックスでその逆をやる、この構成は面白いですね。前者はこの作品の特徴付けをしながら2軸の位置関係を整理してわかりやすくし、その結果次のステップに進ませる。後者は他の伏線も一気に合流させ、さらに「クライマックス感」を高めている。同じ2軸の合流でも、細部を変えると役割も変えられるという点で勉強になりました。


3連休に向けて色々と買い足したため、今週来週はいつもと少し違ったインプットができる/できたのではと思っています。問題はもう3連休も終わりかけなことと、買い足した大半が積まれていることと、来週はいきつけの本屋さんがお盆休みなことですね。


一般書籍

Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?」 原田曜平

10~25歳(おそらく初版発行時の2020年末において)のZ世代と呼ばれる若者の生態について、流行事例と統計情報から探った新書です。なお書影はリンク先にしかなかったので、そちらでどうぞ。

「今の若者」について、アンケート結果や流行事例が数多くまとめられている、今後史料価値が高くなりそうな一冊です。巻末の2019年1月~2020年6月までの「トレンド辞典」も、その視点から見るとより重要性を感じます。

Z世代に関する概観や、「チル」(ガツガツせず、まったりと楽しもうとする価値観)や「ミ―」(わかりやすく目立ちはしないがしっかりとある自意識)に代表される考察をまとめたキーワードも、納得できるものが多かったと思います。個人的には、「免罪符」があれば積極的に発信をしたがるという部分が各SNSで見られる動きに一致しており、腑に落ちた気がしました。

その上で、「Z世代は我々(筆者およびターゲット層であろう読者の)中年とは完全に違う生物である」という結論が前提としてあり、Z世代を「我々」とは完全に異なる相容れない存在としている気がします。「我々」とZ世代の若者の間に同じ点はないのかを探る気はなく、統計情報も違いを探すためにしか用いられていないのが残念に感じました。ターゲット層が「最近の若い奴らはわからん」(と馬鹿にしながらも顧客や部下として生態を把握する必要がある)と感じている中高年であろうことを考えると、これもしょうがなかったのかもしれませんが。

とはいえ、考察対象を完全に自分たちと別物としてとらえて起こされた文章には、極端に書くと「自分たち正しい側と違う、訳の分からない奴らを理解してやろうとする」ような気持ち悪さを感じられるリスクがあると知れたのは収穫でした。そういった断絶感も込みで「今」を感じられる一冊だったと思います。


Web記事

Panasonicとnoteで開催した、『#あの失敗があったから』投稿コンテストの審査結果を発表します!

タイトル中の投稿コンテストの受賞作をあつめたnoteです。受賞作は全て読ませていただきましたが、さすがに数が多いのでコメントは控えます。

今回見事だと思ったのは、このタグについてです。どこかで失敗するとわかっているのでその描写がストレスになりにくく、失敗という「転」が来るまでの「起承」部分も「転」へのワクワクを持ちながら読める。それでいて、ネタバレ感はうすいのも上手いです。このお題設定の上手さが、受賞作の豊作さを生んだのだと思います。


『魂飛ばし』が能動性を取り戻すまで

勉強中に意識を失う癖によって割り算すらできなかった高校生が、志望校に合格できるほどになった経緯をまとめたnoteです。

いくつかのnoteが指摘しているように(というかご本人がtwitterで補足しているように)、これを表面的にマネするのは危ういと思います。ですが、つまづいている場所とそれを克服する方法を考えれば劇的に能力が伸びるかもしれないという事例として、覚えておきたいnoteだと思います。


最近さらに文のまとまりが悪くなり、他の作業のためリライトする時間も取り辛く、悪文が続いてしまっている気がします。いっそ文の型を作れないかを見直してみてもいいのかもしれません。いやダラダラせずに溜まってる作業を潰しきれば全部解決するのですが。ね。

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