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『怪獣8号』のスマホ対応表現スキルがおかしいレベル

ジャンプ+で無料配信連載されている『怪獣8号』というマンガ、スマホでも読んでるのですが、最近2巻が出たのでコミックスも買って再読しました。その時は何気なく読み終えたのですが、少ししてこの漫画は見開きの画面構成がスマホ時代順応しててすごいという話があったのを思い出しました。

これを念頭に、2巻で見開き表現のページを見ていくとですね、第14話がクレイジーです。

該当箇所は第14話の4~5ページ目。スマホで見ているイメージで縦につなぐと、こうなります。個人装備としては桁外れな巨砲の一撃が放たれ、衝撃波を伴いながら街の上を抜けていく。近隣の隊員たちがあるいは風圧に振り返り、あるいは見守る中、弾丸は怪獣を直撃し、大穴を穿つ。魅せる場面ですね。

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コミックスで読むとこの2ページは見開きになっています。そのイメージで横につなぐと、こうなります。個人装備としては桁外れな巨砲の一撃が放たれ、近隣の隊員たちがあるいは風圧に振り返り、あるいは見守る。衝撃波を伴いながら街の上を抜け弾丸は怪獣を直撃し、大穴を穿つ。見開きになった分、非常に迫力が増します。

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分かったでしょうか。違和感を覚えたでしょうか。あるいは何も違和感はなかったでしょうか。1ページずつ読んだ場合と見開きとして2ページ合わせて読んだ場合では、コマを読む順番が変わるのです。1ページずつの場合、衝撃波のコマ→近隣の隊員たちのコマなのですが、見開き2ページだと近隣の隊員たちのコマ→衝撃波(から怪獣につながるぶち抜き)のコマなのです。

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画像左側のようなコマ割りをしている見開きページは存在するのですが、右側のようなタイプは(少なくとも1巻の時点では)存在しません。これは恐らく、右側のタイプのコマ割りは、2ページ見開きで読んでもらうことを半ば前提としたコマ割りだからです。或いは、1ページずつ読むことを想定していないとも言えます。(スマートフォンでマンガを読む時代における「見開き」の表現について:『怪獣8号』の事例 - マンガLOG収蔵庫

これが一巻の時点での認識だったわけですが、二巻のこの場面では右側のようなタイプのコマ割りを入れてきてるわけですね。しかもそれでも「1ページずつ読むことを想定」し、コマを読む順序が変わっても成立し違和感を覚えない形で。見方によって異なるストーリーが現れる一枚絵とか、騙し絵か。これ考えてる時の脳内どうなってるんだ。

「スマートフォンでマンガを読む時代」という話の延長線上で考えるなら、初読はスマートフォンで無料配信読者も多く1ページずつ、再読でコミックスやタブレット/PC画面サイズでの2ページ表示が増え、同時に再読のためのコミックス購入や電子書籍購入/サブスクリプションの有償読者が増えるのではと思います。もしそうだとすると、2ページ表示が増える再読者により迫力のある見開きシーンが提供されるというのは、有償読者が増える再読者により深い満足感を与えるということにもなりそうです。

『怪獣8号』ではこのちょっとおかしいレベルの技巧を含め、1ページずつ読めるのに2ページ開いた形で読むと迫力が違うという工夫が、要所要所で盛り込まれています。こうした工夫は「スマートフォンでマンガを読む時代」のスマホファーストな表現であるだけではなく、「スマホ画面サイズで無料での初読」と「見開き画面サイズで有償での再読」をセットで考えるフリーミアムモデルネイティブな表現でもあるのかな、と思いました。



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