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哀しきモビール

夜の階段の踊り場の
蛍光灯のまたたきに
浮かび上がる紋白蝶

薄明かりに
照らし出された翅脈は
真昼の月の表面のように
冷たく硬く、
白く輝く

いつか、自由だったころの
一瞬を切り取られた姿で
か細い蜘蛛の糸に吊るされ
隙間風に揺れる
哀しきモビール

花から花へ、渡り歩き
仲間に誇った、その翅は
今はただ、一対の
脆く、乾いた
自らの墓標
小さな弦月

それからひと月は過ぎたろうか
風もないある夜に
それまで耐えていた
その亡骸は
わたしの目の前に
ぽとりと墜ちて

そんな か細い蜘蛛の糸を
ひとは、運命と 呼ぶのかもしれない

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