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月記(2023.04)

4月のはなし。

〔写真:OLYMPUS XA2 & lomography800〕



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矢川葵さんとはじめて話してから、5年が経った。マジで?矢川さんの歌を聴くたび、この人が歌えている世界でよかった、と感じる。
この話は何度でもしたいのだけど、5年前にはじめて矢川さんとツーショットチェキなるものを撮ったとき、「あんまりキラキラしたアイドルって感じじゃないけど、末永くよろしくねー」と言われた。あれから5年も経っているわけだけど、結果的に末永くよろしくしていることだけは変わっていないので、すごい人に会ってしまったな、と思い返してはしみじみしてしまう。




おそらく人生ではじめて、朝イチの回で映画を見に行った。「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」。文字で見たときはピンとこなかったのだが、画像を見るとたしかに見覚えがある。話題作というだけあって、インターネットのどこかで目にしていたのだろう。
楽しく観れた。パッと見はジェットコースターのようなエンターテインメント。しかし、その道中では次々と空気中に漂う塵にぶつけられていて、降りたころには普段なら気にも留めないレベルの擦り傷だらけになっている、そんなアトラクションだった。たぶん僕は気に留めずに歩いていけるのだろうけど、全員が無事だとは限らない。それが話題作たる理由なんだろうか。念のため言うと、僕が擦り傷だらけであるということは変わりない。
やや目立つ擦り傷を紹介すると、それは本作の監督が僕とほぼ同世代だった、という点だ。作品全体にどこか既視感があったのは、場所は違えどまさに同時代を生きた監督が、日本をはじめとしたアジア圏のカルチャーを取り入れながら作り上げた映画だったから、と理解できる。日本人ほど日本の文化を知らない、なんて話は子供のころから嫌と言うほと聞いてきたけど、もうこの話は全国津々浦々を何周もして、すっかり異形になってしまった。
補足しておくと、僕が映画を見るのはだいたいが「映画に沼る倶愛」という秘密結社からの紹介がきっかけだ。発起人である月日萌花さんの感想は、映画鑑賞体験として、めちゃくちゃに面白かった。




ITaFES一日目に参加した。

ずぶぬれになりながら音楽を聴いた。まさかthe band apartメンバーをバックに坂本真綾さんが歌う「Be mine!」を聴けるなんて思ってもいなかった。ましてや、その場所が雨の降りしきる河川敷だなんて。隙間から雨が入って、もうずぶ濡れだった。みっともない姿だなぁと思いながら、それがどうしたとも思いながら、最高の家路についた。
この日、図らずも内山結愛さんが紹介していたCAPTAIN HEDGE HOGが出演していた。きっと、あの場にいる人のほとんどは既に知っていて当たり前だったはずだけど、たまたま僕は履修漏れを起こしたまま生きてきた。それでも別にあの場に居てよかったのだし、あの場を楽しんだことをこうしてインターネットに書き残してもいい。
原昌和さんは「お前らほんとバンドやったほうがいいよ。たま~に良いことあるから」と言っていた。ふと見返した10年前のライブDVDでも同じことを言っていた。
the band apartは結成25周年をむかえる。僕が音楽に興味を持ち始めたころから、ずっと続いているバンド。続けることだけが正しさではないし、別に彼らが正しいことをしていると崇めたいわけでもないのだけど、いや、マジで、すごくない?




福岡に行った。アイドルプロジェクト・水槽とクレマチスのお披露目ライブ。甲斐莉乃さん、月日萌花さん、ふたりが歌って踊る姿をまた見ることができた。115さん、波浮すわさん、はじめて知るメンバー。はじめて知る曲。はじめて知る共演者。それらは僕を「旅人」にする。過去から引きずってきた感傷はそれなりにでかかった。きっと感動の涙として表出されたであろうその感傷は、ステージから生まれる「たのしい!!!!」のエネルギーに飲み込まれてしまった。すっかり彼女たちのパフォーマンスにあてられてしまった。初ステージでありながらそれだけのエネルギーを生み出せるということは、たぶん普通じゃない。すごいものを見てしまった。

同時に、僕は自分に驚いている。水槽とクレマチスのメンバーのうち二人のことは前の活動から知っているわけだし、もう二人のメンバーについても配信やオフイベントで挨拶はしていた。それでも僕は、この四人がどんなライブパフォーマンスをするのか、という肝心な情報をほとんど与えられないまま、福岡へと旅をした。そして、まんまとパフォーマンスを楽しんでしまった。
僕は音楽が好きだし、音楽を好きだったおかげでアイドルを知ることができた。それがどうだろう、どうやら僕は「音楽」という補助輪を外しても旅ができるらしい。この僕がどこに向かって爆走していくのかはわからないが、たぶんこいつは大体のことを面白がりながら突き進む術を掴んでいる。頼もしい。


親不孝通りを歩き、長浜公園で朝ごはんを食べて、本を読んだ。

https://note.com/__yuuaself__/n/n5600e272d2f1

旅の工程を組んだ。西鉄の読みは「せいてつ」ではなく「にしてつ」だと知った。雑餉隈駅に降りた。向井秀徳さんが暮らした町だ。彼が『恥のアーカイヴス』と称した「三栖一明」には、自身による写真付きの地元探訪記が収録されている。そのなかにとある踏切が登場するのだが、特別にその場所を示す情報は記載されていない。僕はその本に書かれている以上の下調べはせず、雑餉隈に降り立ち、そこからバイクで博多に向かう青年の気持ちを想像しながら歩いた。はじめて差し掛かった踏み切りは、まさにその写真の場所だった。
遠くに山が見えた。たしかに博多に比べれば、ずっと田舎だった。平日、真昼間の町を歩いていると、スナックからコブシの効いた歌声が聞こえてきた。雑餉隈駅は改築が進んでいた。駅西側には広い道路がはしっていて、おそらくは線路を高架化して整備されたのだろう。なんとなく、ここ20年くらいの下北沢駅周辺の光景が頭に浮かんだ。




VTuber・不磨わっとさんが引退した。

彼女のデビューは2020年の5月、僕はそれを見ていた。あまりVTuberに関することは書いてこなかったが、当時デビューしたブイアパというグループ、ひいては所属プロダクションである774inc.(現:ななしいんく)の活動はマイペースに継続的に見ていた。そのきっかけはだいたい次のツイートに書いてある。

僕がライブアイドル業界に明るくなっていくのと並行して、VTuber業界も大きく発展を続けてきた。そしておそらく、このふたつの業界には似たエンジンが搭載されていて、それ故に爆発的なパワーを生み出すことができているのだと思う。そしておそらくこの手の議論はたくさん為されていることで、単に僕が探していないだけなのだとも思う。

わっさん(※彼女の愛称のひとつ)の引退は、素直に、寂しかった。最後の配信で、僕は一回だけ数千円分のスパチャを贈った。気の利いたコメントを打つこともできないし、話の流れすべてを深く理解できるほど、彼女の活動に精通しているわけでもない。ただおとなしく彼女の話を聞いていた。
そこでふと気づいたのだが、僕はどうやら彼女の始まりと終わりを見届けた人のひとりになってしまうようだ。僕はこの現象に弱い。歴史として把握するのではなく、体験と時間経過基づく実感を伴った状態で、見送るという現象。「見つけてくれてありがとう」というありきたりな感謝の言葉について、そのありきたりさをもって軽んじることも、その中身をつまびらかに分析しようとすることも、あまり気乗りしない。とにかく僕は寂しかった。ちゃんと寂しかった。大袈裟だと思われてまったく構わない。ただそのぶん、こうして書き残すことを許容してもらえるとありがたい。
いまは彼女が元気に暮らしていることを願うばかりだし、なにかしら目につくところで活動をすることがあるのだとしたら、できる範囲で応援できたらいいな、と思っている。そしてまた、できる範囲で寂しがれたらいいな、と思っている。




僕は「推し」という言葉が苦手だ。「推し活」という言葉はもーっと苦手だ。そんな僕にアルゴリズムさんが教えてくれたのが、「人の推し活を笑うな」というテーマを冠した動画だった。

ななしいんくというプロダクションが、なんだかんだ僕の興味関心がきっかけで辿り着いた結果であるというのは確からしい。行ける範囲で、感じ取れる範囲で、分相応にやっていきたい。




おい、クロスノエシスの話をしなさいよ。分相応に。

心身とは、極めて不便な代物である。






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