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『この世の喜びよ』井戸川射子

マフラー?なのかな
鮮やかな緑

半年に一回のお祭りである芥川賞に乗り遅れて、今更読む。

表紙の印象は"優しさ"だった。
前面に出ている黄色は、一番便利な色だと個人的にずっと思っている。黄色と言われて、明るさや優しさをイメージする人はきっと素直な人だと思う。逆に、危険さや警告をイメージする人は注意深い人だと思う。黄色と一口に言っても色んな濃さがあるから。

表紙の黄色はどちらかと言うとクリーム色と呼ばれる色だ。柔らかくて、室内に入ってくる光みたいに何かを介したようで少し薄い。作品もショッピングモールで展開されるから、そういうことなのかも。でも、表紙からは優しさを感じても内容はそんな明るくないんだよな。

私が驚いたのはその黄色よりも緑との組み合わせだった。
表紙の文字を刻む緑は何の緑だろう。いつもは表紙のことなんて大して考えないのに、今回はなんか気に掛かった。見えやすいように、と緑を選んでいるとしたらちょっと拍子抜けだけど。

今作は、『ここはとても速い川』の時よりも随分難しくなっていた。自分は刺さったか、と言われると頷けない。句点に行く着くまでが相変わらず長くて、抽象度も高いと言うか、芸術的と言うか…井戸川さんの文章だと体感しながら読み進めた。

文体というよりは、展開がごちゃごちゃとしていて自分はその流れにしがみつくように読んで、それはあまり心地の良いものではなかった。自分はまだ作品の面白さを感じる域にいなかったな。
久しぶりに"腑に落ちない作品"と出会った。腑に落ちないっていうのは、つまらなかったとは少し違く、違和感の残る作品、と言う感じ。二回読んでも分からないと思う。そういう作品に時々会う。

井戸川さんの言葉は表情のない感じが好きだ。
冷たく言い放つ、よりも冷たい感じ。

「分かってるよ。そんなんを言ってほしいのが、穂賀さんじゃないだけで」

p.80 l.10

「説教は娘たちにしなよ。早く年を取りたがってる方の娘だったら、分かってもらえる可能性も高いよ」

p.84 l.9〜10

「〜これ、あの子がとってくれたんすよ。クレーンゲームすぐ上手くなって、運動神経いいんですかね」

p.89 9〜10

どうしてクレーンゲームが上手くなりたかったんだろうとか考えると少し泣ける。

芥川賞らしいと言えばらしい作品だったのかもしれない。いつか、この作品が分かる瞬間が来るまで眠らせておこう。

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