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024 大海を望み、とんびが飛ぶ

 みなさん調子はいかがですか、ぼくは元気です.noteの出だしが「どうもシタシマです」と一辺倒なのが最近の悩みです.youtuberの方たちのようにインパクトの強い挨拶でもあればよいのですが、ああいうものは文字に起こしちゃいけない気がするので、なんとか別の出だしを工夫したいと思います.

 さて、今日は前回に引き続き小説の感想文を書こうと思います.その小説は重松清氏による『とんび』です.父に『水曜の朝、午前三時』を勧めてもらったのとほぼ同じ頃に母に勧められて読んだ小説です.不器用で熱くて真っ直ぐな父と、そんな父とは似つかない真面目な子のお話です.読んで感じたことをいくつか皆さんと共有したいと思います.

「母なる大地」の対の言葉は

 父のヤスさんと、その子どもアキラの半生を描いたこの小説は、アキラの成長の節目節目にクライマックスが来ます.胸に沁みるエピソードがいくつもいくつも出てくるのですが、特に印象深いのは物語の序盤、父子が2人で生きていかなくてはいけなくなった時の和尚からの言葉です.ほぼネタバレになってしまい申し訳ないのですが、この父子はヤスさんの妻であり、アキラの母である美佐子さんを突然失ってしまいます.悲しみに暮れるヤスさんと、幼く何もわからないアキラ.ヤスさんの幼馴染、照雲の父親である海雲和尚が、2人を雪の降る海に連れ出し、父であるヤスさんにこう言います.

おまえは海になれ
なんぼ雪が降っても、それを黙って、知らん顔して呑み込んでいく海にならんといけん

 息子が悲しい時に父まで悲しんでいるようではいけないと、2人で生きてゆく覚悟を持てと、そういう激励の言葉ですが、このとき母なる大地という言葉を思い浮かべました.地母神という呼称があるように、神話に起源があるであろうこの言葉ですが、生まれたときから自分の足下にある地面に、無条件に注がれる母の愛をなぞらえたものと思われます.一方、この小説では、海が父性のメタファーとして登場する.すべてを呑み込む海.気まぐれで時に荒々しく人間に牙をむく海.この物語においては、父親のヤスさんの性格を表すのに、海がぴったりであることがよく分かります.「母なる大地」の対をなす言葉として「父なる海」はとても相性がよいように思いました.

「みんな」で育てる

 こうして母のいない、父と息子2人での生活が始まります.しかし、2人だけではありませんでした.幼馴染の照雲夫妻、行きつけの居酒屋の女将であるたえ子さんなど、まわりには多くの温かい人たちがいました.そしてまた、その人たちも「家族」において、誰かが欠けている人たちでした.そんな町のみんながアキラのことをかわいがります.時には父がどうしても言えないことをそれとなく伝えたり、喧嘩してアキラが家出したときに、父の友人宅に転がり込んだり.いわゆる「家族」の在り方とは少し違った関わりの中で、アキラはどんどん成長します.
 ぼくはこの血縁関係のない人同士の繋がりというものを認めつつも、どこか他人事としてしか考えられないことに読んでいて気が付きました.また同時に、その違和感はぼく自身が両親や祖父母に寵愛されていたからであり、さらにそれがぼくのコンプレックスになっていることにも気が付きました.
 ぼくが一人っ子であることが大きく影響しているのでしょう.どうも、家族以上に強い結びつきがないように感じてならない部分があります.また、ぼくは今までに、二親等以内の親族を亡くしていません.家族を失った経験がありません.それに越したことはないのですが、どうも家族という拠点以外の居場所が、ないように感じてしまう場面がたびたびあります.

 家族の捉え方

 ぼくの大好きなドラマのひとつに、坂元裕二氏の『カルテット』があります.そこでは様々な背景を持つ4人が共同生活をするのですが、途中こんなセリフが出てきます.

私たち、同じシャンプー使ってるじゃないですか.
家族じゃないけどあそこはすずめちゃんの居場所だと思うんです.髪の毛から同じ匂いして、同じお皿使って、同じコップ使って、パンツだってシャツだってまとめて一緒に洗濯機に放り込んでるじゃないですか.そういうのでもいいじゃないですか.

肉親と自分で成り立つ家族しか知らなかった自分にとって、このセリフは今でも強く残っています.こんな関係も家族かと.違和感はないわけではないのですが、すこし腑に落ちたような感じがしました.
 『とんび』でもそうです.ヤスさんがアキラをどんなに強く抱きしめても、母がいないから背中は寒い.けれど、背中に手を当てて温めてくれる人が周りに大勢いる.そのことを海雲和尚は説きます.こういう家族の関係を知らない自分に引け目を感じてしまうほど、美しい描写でした.

 最後に

 『とんび』をよんだ感想を書いたつもりが、焦点が父子でなく和尚にあたってしまうという意味の分からない展開になってしまいました.さらにはドラマも出てきて収拾がつかない状態に、すみません.しかし、『とんび』は家族を考えるのに良く、それ以前に純粋に胸が熱くなる物語でした.小説を読んでいると、物語に没入しつつも、無意識に物語を透かして自分のことを考えてしまいます.これは面白い体験でした.というか、今までもそうだったのだと思いますが、ようやく気が付きました.映画や小説の意義を、同時に考えさせられました.

ではまた.

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