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(3/3)人はなぜ会社をやめるのか|「大退職時代(The great resignation)」から見えてくる理由

最終更新日:2024年5月23日

第1回では、アメリカでの大退職時代の現状について分析しました。
その後、第2回では、日本国内で起きている大退職時代の現状について分析し、アメリカの現状との相違点を述べました。


本記事では、私たちの考える大退職時代に関する今後の予測とそれに対して企業が取ることのできる対策を、実例を紹介しつつ考察していきたいと思います。


今後の予測

結論からいうと、「ポストコロナもこのトレンドが続くだろう」と考えられます。
なぜなら、大退職時代とは、Harvard Business Reviewが定義付けているように、コロナ禍による短期的なものではなく、時代に合わせて人々の価値観の変化と共に生じている半永久的なトレンドであるからです。
日本国内では、前回の記事より、現状としては離職率の増加はあまり見られないものの、転職希望者数はコロナ禍において増加の傾向が顕著に読み取れます。ここから、潜在的な退職者数が存在することが分かります。

また、今後さらに進むと考えられている少子高齢社会と共に、労働者数も減少の一途をたどり、労働市場の流動化が進むことで、企業側が人材を確保することがますます困難になると考えられるでしょう。

このように、企業同士の人材獲得競争が活発化することで、前回記事の企業の傾向フローからも考えられ得るような、人材不足が呼ぶ更なる人材不足が懸念されます。

企業が取ることのできる対策

それでは、企業側は「大退職時代」に対してどのような対策をとることができるでしょうか。
ここでは、主に三つのアプローチ方法に絞って考察したいと思います。

1つ目は、柔軟性のある働き方を提供することです。

まず、下図のアンケート調査をご覧ください。

〈テレワークの希望率〉

図1 g
出典:https://www.rieti.go.jp/users/iwamoto-koichi/serial/135.html
画像2
出典:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000094.000018339.html
図1
出典:https://kyodonewsprwire.jp/release/202201256507

これらのアンケート結果から、コロナ禍による人々の価値観の変化があり、テレワークという新たな働き方の選択肢が広がったことで、通勤よりもリモートワークを希望する割合が高いことが分かります。
特に、この傾向は流出率の高い女性労働者や若い世代によく見られます。

一方で、未だに日本企業のテレワーク実施率は非常に低く、また全ての会社がテレワークのための環境を十分に整えているとは言えません。
よって、テレワークまたはハイブリッド型の労働環境を整備することが、ワークライフバランスを最重要視する傾向にある労働者にとって、魅力を感じる要因の一つとなると考察できるでしょう。

2つ目は、ミスマッチを防ぐことです。

スクリーンショット 2022-09-01 113621
出典:https://www.jtuc-rengo.or.jp/info/chousa/data/20220428.pdf?12

日本労働組合総連合会の「入社前後のトラブルに関する調査2022」より、新卒入社した会社を離職した人が3割を超している、というデータがあるように国内における新入社員の早期離職率の高さは軽視できません。
この離職率悪化の数値は、就職氷河期と呼ばれるバブル崩壊以降に就職難となった時期から変動なく推移しており、根本的な改革が必要でしょう。

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出典:https://syokulink.com/sinsotu-taisyokuriyuu/

上図のように、新入社員が企業へ抱く期待と実際のマイナスなギャップが主な理由として離職しているケースが多々あります。
もちろん、全てが企業側の責任とも言えませんが、採用活動の時点で企業が完全に情報を提示しないことで、実際に働き始めたときに求職者側が持っている情報とのミスマッチが生じます。

これを防ぐには、求職者が仕事内容についてより具体的なイメージができるように長期インターンを実施したり、アピールポイントを見直し、定着を意識した採用活動をすることが重要だと考えます。
よって、求職者はプラスな面だけでなく仕事を通して直面する試練や、その厳しい道のりを乗り越えた先にあることも予め知れるでしょう。

次に、前回紹介した新卒離職者の三大理由(存在理由、貢献実感、成長予感が現職では感じられない)より、入社後のコミュニケーションにミスマッチが生じていると考えられます。
これを防ぐには、企業側が新入社員に見える形で充分な成長機会を提供するべきだと思います。例えば、新入社員へのフォロー制度、教育制度の見直しや研修プログラムの充実などがあげられます。

新卒採用にお金や労力をかけ続けるよりも、入社後のサポート体制にも着目してアプローチしていくことが新入社員の早期離職を減らし、定着する人材を確保するという点で求められるでしょう。

3つ目は、Well-beingの最大化を図ることです。

Well-beingとは、幸福で肉体的、精神的、社会的すべてにおいて満たされた状態のことを指します。
前回紹介した、主な離職理由の第一位の人間関係や職場環境問題もこれにあたります。国内だけでなく海外でも「大退職時代」の重要な要因として注目されており、今後企業はより積極的に推進していく必要があるでしょう。

Well-being経営の具体的な導入として、Social Well-being(人間関係)の改善があげられます。
特に多かった上司と部下の関係性について、管理しすぎないリーダーシップスタイル組織のフラット化を実践するによって、従業員の本音を知り、それを反映することに繋がります。
また、Community Well-being(自身のコミュニティの形成)の改善へ向けて、多様性・公平性・受容性の実現のためのDEIトレーニングの強化を積極的に行うことで、心理的安全性の確保に繋がるでしょう。

大退職時代の対策実施例

既に上記の対策を始めている企業があります。
ここでは、いくつか実例をピックアップして紹介したいと思います。

①Yahoo Japanの対策例
2023年1月に、「どこでもオフィス」と呼ばれるリモートワーク制度を設けることを発表しました。
この新たな人事制度により、従業員は日本国内であれば、どこに居住していてもそこから働くことが可能になります。
これにより、居住地域に左右されない優秀な人材の採用・確保や、社員のWell-beingの向上とパフォーマンスの最大化が期待されています。

新しいライフスタイル多様な生き方を選択する自由を与えることは、大退職時代の根底にある人々の価値観の変化に適応した取り組みだといえるでしょう。

②カネテツデリカフーズ株式会社の実施例
水産練り製品の製造・販売している同社では、教育制度の根本的な見直しとして以下の4つを実施しました。

・若手社員が指導員となり、半年間マンツーマンで指導
・毎月、指導計画書を作成し、指導員と所属長からフィードバック
・個々に合わせたフォローアップ研修
・内々定者と入社前に面談し、意思確認やミスマッチの有無を確認

結果として、これらの手厚いフォロー制度により新卒社員の離職率が50%から10%へと減少しました。

③株式会社ソフトウェアプロダクツの実施例
システム開発を行う同社では、従業員の健康が企業にとって重要な資本であるという考えのもと、健康経営支援(健康診断の項目追加・スポーツジムクラブの月会費補助・メンタルヘルス研修など)を行っています。
また、リフレッシュデーと呼ばれる残業しない日の設定や社内コミュニケーションを図るために、社員同士の勉強会や社内サークルへも積極的に支援しています。

結果として、企業のブランディングという面でも寄与しており、数々のメディアで取り上げられるようになったそうです。

まとめと考察

新型コロナウイルス感染症の影響下において、自発的に仕事をやめる従業員が急増している現象「大退職時代:The Great Resignation」について、三回に渡って記事を作成いたしました。

これは、アメリカを発祥としていますが、今では全世界に広がりを見せています。そして、欧米に比べると規模は小さいものの、既存の社会問題とも相まって今後日本にも訪れると予測できるでしょう。

米国との相違点・共通点を分析した上で、私たちが最も注目すべき点は、コロナ禍という不安定な社会情勢において浮き彫りになった、人々にとっての人生における仕事の優先順位や仕事に対する価値観が考え直されていることだと言えます。

みなさんはYOLO(Your Only Live Once)というスラングを聞いたことがありますか?日本語訳すると、「人生一度きり」という意味です。
パンデミックをきっかけに、自分の働き方や生き方を見直した人たちが生み出す経済を「YOLOエコノミー」と呼び、近年話題になっています。
つまり、個人のプライベートな人生を犠牲にして築き上げられた「会社中心」の生活から、「自分と家族中心」の生活または自分が本当にやりたいことに挑戦する人が増えているということです。

大退職時代の根底には、このような意識の高まりが深く関係しています。よって、企業側は賃金や仕事内容を変えるといった表面的なことだけでなく、社員がWell-being自己成長を同時に感じられるような職場づくりをすることが大切なのではないかと考えます。


本記事に関連する内容で、以下のような記事も掲載しています。


参考文献

- 独立行政法人経済産業研究所「第135回「テレワークを浸透させ、個人・企業のパフォーマンスを向上させるにはどうすればいいか(1)」」https://www.rieti.go.jp/users/iwamoto-koichi/serial/135.html

- SELF株式会社「通勤よりもリモートワークの希望者が多数!リモートワークに関するアンケート調査」  https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000094.000018339.html

- 日本生産性本部「テレワーク実施率は過去最低の18.5%、中堅・大企業の実施率低下が影響」 https://kyodonewsprwire.jp/release/202201256507

- YAHOO JAPAN「ヤフー、通勤手段の制限を緩和し、居住地を全国に拡大できるなど、 社員一人ひとりのニーズにあわせて働く場所や環境を選択できる 人事制度「どこでもオフィス」を拡充」  https://about.yahoo.co.jp/pr/release/2022/01/12a/

- Manpower Group「新入社員はなぜ辞める?「早期離職」のメカニズム」https://www.manpowergroup.jp/client/manpowerclip/employ/quittingquickly.html

- 職りんく「新卒社員の退職理由13選|3ヶ月や半年で辞めてしまう理由と転職の実態」https://syokulink.com/sinsotu-taisyokuriyuu/

- 日本労働組合総連合会「入社前後のトラブルに関する調査2022」https://www.jtuc-rengo.or.jp/info/chousa/data/20220428.pdf?12

- 公益財団法人日本生産性本部「若者が定着する職場づくり取組事例集」https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/jireisyuu29_1.pdf