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(1/3)人はなぜ会社をやめるのか|「大退職時代(The great resignation)」から見えてくる理由

最終更新日:2024年5月13日


 「大退職時代」とは

現在、「大退職時代」という言葉の定義は定まっていません。
英文から直訳したものとして以下のような定義はあるのですが、今回私たちの調査・分析によって、もっと分かりやすい具体的な事象として明示いたします。

「大退職」として示されるこの現象ですが、まずアメリカから始まりました。その後、インドやイギリスなど欧米諸国にも広がっています。

今回の調査背景には、「日本にも広がってくるかもしれない」という問題意識がありました。

たくさんの人が自発的に退職する背景には、意外に早い雇用市場の回復があります。
コロナショックからの経済回復が早い国々では、求人数が増加の傾向にあります。その結果として、雇用市場が売り手市場になっているため、次の転職のために自主的に会社を退職する人が急増しているという可能性があるのです。

日本でも、コロナ関連の制限が徐々に解除され、防疫と経済活動の両立が進む中で、経済回復が少しずつですが回復してきています。だとすれば、日本にも大退職時代が到来する可能性は十分にあるのでしょうか。

ここでは3回に分けて、国内外における大退職時代の現状と分析、そこから私たちが考える今後の予測と企業がとることのできる対策について記載します。

今回は、第1回として、このトレンドの発端である「アメリカでの大退職時代の現状」についてまとめていきます。

大退職時代によって起きるかもしれない弊害

それでは、どうして会社側は「大退職時代」に対して目を光らせなければならないのでしょうか。
その理由として、大勢の人材が流出してしまうことで企業が直面するマイナスの側面が多く存在するから、という点があげられます。
大退職時代によって起きるかもしれない弊害として、以下の4つが特に警戒されている項目です。

①コスト増加

②生産性の低下

③ノウハウの流出

④ブランディングの低下

米国での現状(全体数、地域別、年齢別、性別、職業別)と分析

ここでは、アメリカにおける現在の退職者数の状況をそれぞれ種別に調査したものを分析していきます。

<全体数>月別平均退職者数データ(2009~2021年)
出典:https://hbr.org/2022/03/the-great-resignation-didnt-start-with-the-pandemic

2021年、アメリカでは約4700万人の労働者が仕事を自主的に退職しています。
また、現在、23%のアメリカ人が一年以内の退職を予定しています。その一方で、グラフから過去10年間の退職者数が右肩上がりに増加しています。

これらのことから、この状況はコロナ禍によって引き起こされた短期的な混乱ではなく、長期的トレンドが続いてきた結果であると考えられます。


<地域別>地域別離職率データ(2021年8月)
出典:https://www.businessinsider.com/americans-quitting-jobs-most-map-great-resignation-labor-market-shortage-2021-10

地域別未充足求人率データ(2021年8月)
出典:https://www.tennessean.com/story/news/local/2021/09/14/tennessee-has-confirmed-most-covid-cases-us-based-population-size/8322340002/

ケンタッキー州、アイダホ州、サウスダコタ州、アイオワ州(濃紺で色付けされている地域)で最も高い値の退職者数が見られます。                            また、これらは、「地域別未充足求人率データ」と正の相関にあることがわかります。

これらの州は比較的田舎で、人口数とともに労働者数も少なく、現在募集中の仕事が多く存在しています。人々は他での働き口が十分ある状態だと、自信をもって離職に移る傾向にあることが理由として考えられるでしょう。


<職業別>前四ヶ月における業界別離職率データ(2021年10月~2022年1月)出典:https://gusto.com/company-news/a-real-time-look-at-the-great-resignation-january-2022

宿泊、飲食業界、レジャー、ホスピタリティ業界での離職率が最も多いことが読み取れます。                              これらは日本でいうサービス業であり、低賃金労働や柔軟性のない職場環境などが原因として考えられます。


<性別>男女別離職率データ(2020年2月~2022年2月)
出典:https://gusto.com/company-news/a-real-time-look-at-the-great-resignation-january-2022

女性の方が男性よりも離職している傾向が見られます。
コロナ感染症拡大による学級閉鎖のため、多くの女性が家で子どものケアをする時間が必要になったことが原因とされています。


<年齢別>年齢グループ別離職率データ(2020年2月~2022年2月)
出典:https://gusto.com/company-news/a-real-time-look-at-the-great-resignation-january-2022

若者の離職率増加していることがわかります。
現職が金銭的に不確実であることや、初級職務の需要の減少が原因とされています。
また、高齢労働者の早い段階での引退や退職する傾向にあります。
新型コロナウイルス感染症の重症化リスクへの懸念や、リタイアした後の残りの人生を仕事以外のことに費やしたい、という考えが高まっていることが理由として考えられます。

米国の離職者が挙げている主な離職理由

ここでは、アメリカで自主的に離職した職員がその理由として挙げている項目の上位3つを紹介します。

①Burnout - 燃え尽き症候群

②より良い昇給のため

③Well-being:幸福で肉体的、精神的、社会的すべてにおいて満たされた状態が感じられない

大退職時代というムーブメントが起きた要因

Harvard Business Reviewより、今回の大退職時代のムーブメントが起きた要因として、「引退」「移住」「再考」「再配置」「消極性」があげられています。
これらは、新型コロナウイルスという未知のウイルスが発生・蔓延したことにより、突然、人々の生活環境が大きく変化した結果、浮彫になったと考えられています。

コロナ禍による新しいライフスタイルとともに、人々の価値観は大きく変化しました。そして、人生の優先順位が変化するとともに、お金や仕事以上のものが重要視されるようになりました。
何が起きてもおかしくない、先行きが不透明なこの世界で、仕事のもつ本来の意義や本当にやりたいことについて人々は真剣に考えるようになり、新しい働き方や新しい生き方を求めて退職または離職する人が増加したといえるでしょう。

米国で起きている大退職時代の傾向

アメリカで今、大きな関心を集めている現象である大退職時代(The Great Resignation)において、特に3つのグループの退職/離職の傾向が見受けられます。

①ブルーカラー労働者

②Z世代

③中堅・管理職層


第2回の記事では、日本国内で起きている大退職時代の現状について分析を行い、本記事で明記したアメリカの現状との相違点にも触れていきます。

第2回の記事はこちら

参考文献

- Business Tech「大退職時代に「有能な人材」をつなぎとめるには」 https://biztech-put.com/712/

- Harvard Business Review "The Great Resignation Didn’t Start with the Pandemic" https://hbr.org/2022/03/the-great-resignation-didnt-start-with-the-pandemic

- Business Insider "This map shows which US states have the most people quitting their jobs" https://www.businessinsider.com/americans-quitting-jobs-most-map-great-resignation-labor-market-shortage-2021-10 

- Luke Pardue "A Real-Time Look at ‘The Great Resignation:’ January 2022" https://gusto.com/company-news/a-real-time-look-at-the-great-resignation-january-2022

- Limeade "Majority of Job-Changers in the Great Resignation Were Burned Out, Wanted to Be Valued and Cared For" https://www.prnewswire.com/news-releases/majority-of-job-changers-in-the-great-resignation-were-burned-out-wanted-to-be-valued-and-cared-for-301387771.html

- Adam Friedman "Based on population, Tennessee has the most COVID-19 cases in the United States"
 https://www.tennessean.com/story/news/local/2021/09/14/tennessee-has-confirmed-most-covid-cases-us-based-population-size/8322340002/