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女性活躍は誰がために

今日は、特段のデータがあるわけでもなく、エッセイチックなものです。

昨今、企業経営において多様性(DEI)のテーマを耳にしない日はありません。

そこで議論されるのが、「なぜ女性が注目されるのか?」ということです。
他にも障がい者や外国人、いろいろな多様性という概念があるなか、なぜ女性なのか。そして男性への逆差別なのではないか。

今回は、この議論、特に「逆差別」について、私見を述べていきます。女性が望んでいないからやるべきではない、実力のない女性を登用すべきではないという議論については、またいつの日か。

これを考えるにあたって、「女性すら平等でないのになにが多様性か。まず女性からはじめよ」みたいな論調は大事ですが浅すぎるので、女性活躍の歴史を紐解いてみましょう。

女性活躍の歴史ー今ですら女性の正社員キャリアは当たり前のものではないー

1970年半ばに遡ると、多くの女性が専業主婦としてのライフコースを選択し、女性が結婚や出産を機に労働市場から退出するような状況でした。
これは企業が長時間労働をできる男性を拘束する代わりに、一家が生活していけるだけの賃金を出すことができるから成立したしくみであるといえます。

1970年代後半以降、サービス残業の比率が高くなったことで短時間勤務の労働者ニーズが高くなってきたことを踏まえ、専業主婦たる女性の労働力の活用が進みました。

未婚女性が結婚までの短期間、基本的な業務(一般職)を指示のもと遂行することに加え、既婚女性がパートとして働くことが一般的になりました。

そのようにして女性が労働市場に進出してきたことから成立したのが、1986年の男女雇用機会均等法です。募集・採用・配置・昇進において、女性を差別しないことが努力義務とされました。

今から35年も前の法律で定められたことは、今も遵守されているとは言い難いような気もしますが・・・

さておき、ここで背後にせまっていたのが、少子化です。少子化の進展の原因を国は、仕事と育児の両立の困難性にあるとおきました(大石・守泉, 2011)。

そこで、差別をまずはやめよう、女性労働者の育児支援をしようという形で、「女性活躍」ははじまりました。

しかしながら1980年代においては、単身赴任が多発した点が家庭と企業社会の関係性の特徴としてあげられます(木本, 2000)。
当時は、長期雇用を前提とした中で教育訓練・人材活用の面から考えて必要不可欠なものであると考えられていました。

転居を伴う移動は、昇進に伴うものとされ、ホワイトカラー労働者にとって避けがたいものでした(工藤・久谷,1994)。
男性が労働者となり仕事方面での役割を担う一方,生活基盤の変化を好まない家庭(妻子)が単身赴任を推進したという側面もあります。

こういう中で女性活躍を進めるとするならば、「女性限定ルート」を用意するほかありません。「一般職」の誕生です。
経験がなくてもできるような基幹的な業務を任せて、キャリア形成を必要としないような労働力を女性差別撤廃の旗印のもと求めた。

ただこれは後世からみれば立派な差別ですね。結局未婚女性の短期間就業と、女性非正規雇用が増加した結果になり、コースの違い・雇用の格差という形で差別は残った。

バブルの崩壊や失われた10年のなかで、年功賃金・終身雇用の見直しに企業は迫られてしまいました。
家族全体の面倒はもうみれないかつ、少子化の問題はさらに大きくなっていた中、上がらない賃金をもってして仕事と家庭の両立を求める(=2人で稼いで生きていってもらう)ようになりました。

そこで成立したのが、育児休業法(1999年育児・介護休業法として改正)です。

そして、1999年の男女共同参画社会基本法が制定されました。
それを受けた2000年の「男女共同参画基本計画」では,「男女の職業生活と家庭・地域生活の両立の支援」を重点目標としてあげています。

仕事と家庭の両立支援と働き方の見直し・多様なライフスタイルに対応した子育て支援策の充実・家庭生活、地域社会への男女の共同参画とわけ基本的方向と具体的施策を示しました。

2003年には男女共同参画推進本部は「2020年までに指導的地位(管理職)に占める女性の割合30%」という目標を掲げました。
「くるみん」の導入がされたのもこのころです。女性の仕事と育児の両立をサポートの一定基準を満たした企業に対し、厚生労働大臣が「子育てサポート企業」として認める制度ですね。

とんでもない企業が認定されていたりしますが、まあ国のやることなのでいいのでしょう。

女性の就業率自体は、ここで改善しました。

男女共同参画白書

就業率は改善しましたが、「正規雇用就業率」は改善しませんでした。日本では正規雇用であるかいなかが、賃金やキャリア形成に大幅に影響を及ぼします。
メンバーシップ型雇用であるからこそ、無限定の職務を遂行し、経験が増えることで、そこに対して高く評価がされるわけですね。

働き続けることは一応できるようになった。
ただ、「正社員就業でキャリア形成をする(=活躍する?)」はまだまだ意欲の差を含め、途上である。

労働市場から退出する女性

育児をするから、介護をするから、体が弱いから、労働市場から退出し、ケア労働への移動を促されてきた。

今となっては男性も賃金が高くない中、家庭からみても女性が活躍することは大切であり、これまで多々苦労してきた歴史を鑑みても、人口減少・労働力が不足してくる社会において、「正社員就業」の支援が今後求められていることがわかる。

そもそも両性が同じスタートラインにたっていないのだから、まずはたてるようにする。
もちろん、「男性の家事参加・育児参加」も同じくらい重要であるが、企業や国はまだその重要性に気づいていない。「女性(の労働市場における)活躍」と「男性の家事参加・育児参加」が同一程度のアジェンダになってさえいれば、女性の逆差別理論は育まれなかったのではないだろうか。

企業はオールインする男性(働き手)が働いてくれるにこしたことはない。日本の雇用慣行はいまだ健在で、無限定職務のもと、さまざまなことをやっていただける働かせ放題パックなのだから。
短時間勤務よりかは、労働時間全ツッパしてくれるほうがいいのだから。

もはや人口が絶対増えない中で、そんなことを言っている場合ではない。
これまで散々アジェンダにしてきた「女性」。
ここに注目しておけば、ウケがいい。半数は女性ですし、散々苦難の歴史があったわけですから。

女性がいかに日常的に差別を受けているか想像力が足りないからこそ、逆差別という視点がでてくるのではないか。

進路選択から受難は続く。東京大学の男女比率は2割をうろちょろしている。これが教育格差でなくして、なにが格差なのだろうか。
社会に出る時、出てからも、ハンディキャップを背負ってしまう。

このこと自体は絶対に是正されるべきで、スタートラインから足かせなく歩めるようになって、はじめて逆差別がスタートするのだ。

伝え方としても、女性そのものに注目するというよりかは、ちょっと論点を変えて、雇用慣行に注目するのはどうだろうか。

こうなれば、男性にとってもメリットはあるのではないでしょうか。仕事にオールインしなくてもいいですよ、子供と過ごす時間を増やしてもいいですよ、というふうに、多様な働き方に注目するのだ。

これまで議論してきた通り、働かせ放題・長期硬直的雇用・正社員こそが絶対・キャリア形成とは男性並みの働き方が前提という日本の雇用慣行が分断を生み出している可能性があるのではないでしょうか。

もちろんですが、他国がいいというのを言っているわけではありません。ジョブ型であろうと、アメリカであろうと、女性活躍は途上なのですから。

ただ、いいところをとって男女問わず多様な人材が輝ける多様な選択肢を一旦提示しておくだけでも、まずは一手にならないだろうか。

現に、今一番選択肢が多いのは、高学歴女性でしょう。総合職も、一般職も、専業主婦も、非正規雇用も。なんでも一応選べる。相手次第ではあるけれど。

でも、男性の選択肢は少ない。ここが問題であると言わざるを得ない。男性は、働くだけしか選択肢がない。

さらに、配偶者控除・年収の壁など未だ女性優遇(or 内助の功の評価)と捉えられても仕方ない仕組みは残存している。
80年代には高度成長期モデルから転換すべきだったのに、逆に配偶者特別控除や第3号被保険者制度ができてしまった。今も性別による分業を前提とした家族観がベースで、そのバージョンアップに終始している。

国家公務員がそもそもそういう家庭前提ですしね。
これでは難しい。

男女間で賃金格差がある現状や、上昇婚(男性の学歴>女性の学歴となる婚姻形態)が普通であることを踏まえると、それでは賃金が高い方(男性)が仕事に、そうではないほうが家庭労働に比較優位性をもってしまう。

女性活躍を超えて

本来のダイバーシティは、性別などのカテゴリーで括ったものをもってして、多様性についてぴいぴい言っていればいいというものではないはずです。

ひとくくりに男性・女性といっても、多様な人がいて、多様な良さをもっている。

従来の日本社会は、「無限定正社員」の同質性そのものこそが強みになっていましたが、現在はグローバル化やカスタマーニーズの多様化によって、同質・調和だけが優位性にはならなくなっています。

資本市場だけみて女性活躍に注目するのはいいけれど、多様な働き方や多様な選択肢があれば、結果として広く多くの人、そのなかで男性も女性も活躍できる環境を作れる。

個々の力を最大限に発揮し、多様な人材が協力をし多様な視点を生かす。
そうして、女性活躍を超えて、企業がより発展する。

こういう視点をもって、「女性活躍」「男性の家庭進出」が進むことを、願ってやみません。

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