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2024年8月14日

お盆休みは奈良の実家へ。休みに入った途端、さらにお構い無しに飛び回る。関西に帰るついでに足を伸ばして超アウェイなDJパーティーに紛れたり、新婚ほやほやの友人や教会の大好きな人に会ったりする。

DJパーティーはアラウンド50ぐらいのおじさまDJが勢揃いしていた。客層もおじさまが圧倒的に多かったのだが、(おそらく)オールディーズから今時のバンドによるシティポップ、タイや台湾・韓国のインディーズ、このコミュニティでは十八番らしい気怠いアンビバレントなレコードが流れていた。自ずから音楽をリサーチする意欲が乏しい私にとってはありがたい。誰かの肥えた耳にそそくさとあやかるショートカット・マシーンとは私のことである。なぜか自分で探すと、これぞという音楽を引き当てられない。

その日異様に盛り上がった十八番曲は、流れ始めて数秒でおじさまたちが「おお~~」と声をもらす。その瞬間私の体がぴたっと固まる。そして、その場にいられなくなり即座に退散した。なぜなら「おお~」と言う集団に怖くなったからである。一斉に響く「おお~」は、ひとつのコードである。そのアーティストの活動と作品性を熟知していて、なおかつ流れている曲が秀逸であることがわかるくらい聴き比べていて、この会場には同じ感覚を持つ人たちがいるという暗黙の安心感を察知しているから思い切り言える、「おお~」。私はひとつもわからなかった。「わからない」と思考している時点で、私にとってその曲は揺られる音楽ではなく、「知っておくべき教養」と同じ扱いになってしまう。

DJたちは一様にちょいよれのTシャツを身にまとい、感情のない表情をしていた。使い古したマイレコードバッグとレコードプレイヤーの間を行き来し、観客には一瞥もせず無心でDJブースに立っている。その生気のなさに、「本当に好きなのかな」と思って見てしまう。ところが、どよんとした佇まいと相反するように、ぱきっとしたお洒落なサウンドがひたすら流れ続ける。若い頃から今まで、この人たちは多分何も変わっていないのだろう。かっこいい音楽に出会い続けたいという欲に際限はない。そんな彼らの姿は好きなものに没頭し続ける年季の塊だ。ジャンルは違えど、音楽に生きる友人たちの未来がそこにうっすら見える。それはきっと、満ち足りた楽しい未来に違いない。

おじさまたちのDJパーティーを知ったきっかけは、長年のファンであるギタリストが参加すると宣伝していたからだった。日本人の彼は、韓国のインディーズ界隈では結構有名なのだが、日本ではあまり知られていない。ギタリストとして韓国で数々のライブをこなす一方、日本ではDJイベントばかり出演している。

DJをしている彼を見るのははじめてだった。「よかった、どれも聴きやすくて」と謎にほっとする。いろんな国の音楽を流してくれたが、やはりぐっときたのは韓国産レコードのチョイスである。彼が影響を受けて韓国に渡るきっかけになった、昔の前衛的なバンドの類いは流れなかった。それらは今聴いても尖った音楽にもかかわらず、である。

代わりにレコードラックに立て掛けられたのは、私も知らない若手アーティストのほやほやの音盤ジャケットである。日本か韓国かなんていう国性のない、今時の流行りがすべて融解したような耳馴染みのよい音が鳴っている。過去に執着せず、今を爛々と掘り起こす。そんな無邪気な態度が気持ちよい。だから私は彼が気になってしまう。

韓国の音楽シーンに居続けてきた彼なりの審美眼(聴)で、not K-POPの韓国の今の音楽が日本のどこかで時折流れている。2つの国があるから、そんな彼の音楽活動が成り立っている。彼にしかできない生き方に憧れる。好きな感性を愚直に求め続けるうちに、思いがけずたくさんの枝葉が実った生き方に。

小さな小さな会場だからか、ナチュラルに観客にまじって彼がビールを飲んでいた。あまりにもすぐそこにいるので思い切って声をかけてみる。ステージの下からしか会ったことのない人に。東京からあなたのために来たというと「まじすか!」と驚いていた。そりゃそうか。会場を見た限り、みんな知り合いかのような雰囲気である。私ぐらいの歳で1人で来ている女性は1人もいなかった。私の趣味って孤独...と気づく。でもだからこそ、気兼ねなく憧れのアーティストと話せてハッピーな時間だった。

休みになった嬉しさで飛ばしすぎたのか、病み上がりだった体に無理がいったのか、帰省3日目で再び倦怠感と喉の痛みがぶり返す。久々に会う予定だった高校の同級生との約束を涙をのんでキャンセルし、残りの帰省期間は家でひたすら寝ている。家事もしていない。親に全部委ねて申し訳ないなと思いつつ、なにもしないことの後ろめたさがないお盆休みに一切合切甘える。宿題も、締め切りも、急ぎの仕事もない夏休みなんて人生ではじめてである。

DJパーティーは立派なお庭のある洋館で開かれた。海が綺麗に見わたせるおまけつき。

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