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HRテクノロジー・カンファレンス 2022 基調講演 (The Disruption Never Stops -What’s Hot in the HR Technology Market) & 「2023年 人事のトレンド予測」

 2022年9月にラスベガスで行われたHR Technology Conference & Exposition。その中のJosh Bersinによる基調講演のプレゼン資料の中から重要と思われるポイントをピックアップして解説する。さらに「付録」では、「2023年 人事のトレンド予測」レポートの概要を紹介する。
 もっと良い翻訳や解釈があるはずのところ、読者の皆様からのフィードバックに期待する。必要に応じて、順次内容のブラッシュアップをしていく。


人事領域のあらゆる要素が相互接続する

HR Technology Conference & Exposition 2022 -Josh Bersinによる基調講演プレゼン資料 p.10

New Skills Capability Academies(新たなスキル・能力アカデミー)

 スキル体系、スキルライブラリーを構築して、スキルベースで人とジョブとのマッチングを行う。マッチングをAIで行えるようなプラットフォームを活用して、「外から買う」(社外から人材を採用する)だけではなく社内で人材を育てる。

Simplify Job Architecture(ジョブ体系をシンプルにする)

 アジャイルな組織設計が可能になるような新たなモデルを構築する。

Pay, Benefits, Rewards, Wellbeing(給与管理、福利厚生、報償、ウェルビーイング)

 柔軟な報償制度、公平な賃金支払いを実現するような新たな報酬モデルの導入。

Millennial Leadership Pipeline(ミレニアル世代からリーダーを抜擢するためのパイプラインづくり)

 コーチングと人材開発、ストレッチアサインを組み合わせたリーダーシップ育成モデルの構築。

Internal Mobility and Agility(内部異動とアジリティ)

 プロジェクト型の働き方へのシフト、キャリアモデルの構築、内部異動の促進、社内でのギグワーク推奨。

Employee Experience, Retention(従業員体験の向上による優秀人材の維持)

 従業員体験をデザインする。特に、オンボーディングとフィードバックの仕組みを強化する。

Workforce Intelligence and Planning(人員計画の高度化)

 新規事業に合わせて新たな職務(Job Role)が生まれる。時には組織の再構築やM&Aも必要になる。

Gig and Contract Workers(ギグワーカーと契約社員)

 副業、パートタイム労働、ギグワークを、タレントマーケットプレイスの仕組み構築により促進させる。

Employment Brand, Candidates(採用ブランディングによる候補者の惹きつけ)

 定年退職者の増加、出生率の低下に伴って人材獲得競争が激化していく中、また、さまざまな理由で労働市場からの離脱者が多くなっていく中、採用におけるブランド力の向上により優秀な人材を惹きつけて獲得する。

Diverse Hiring and Sourcing(多様性ある人材の獲得)

 学歴、人種、文化的な背景、地理的な問題、性別、等々の壁を取り払って多様性ある人材を獲得する。併せて、知・経験のダイバーシティの促進も重要。

人事の体系的モデル

HR Technology Conference & Exposition 2022 -Josh Bersinによる基調講演プレゼン資料 p.11

早く導入でき、即座に効果があるもの → 【採用】

  • 戦略的な採用

  • 多様性のある人材の獲得

  • 候補者体験の向上

  • 採用ブランディングの向上

  • 大学との連携強化

  • 採用担当者のスキル向上

  • 採用業務の効率化

早く導入できるが、効果を生むまでに時間を要するもの → 【人材維持】

  • 従業員体験の向上

  • 組織文化の醸成

  • 福利厚生の充実(育児支援含む)

  • 働き方の柔軟性実現(例:週休3日制)

  • 同一労働同一賃金の実現(男女間格差の解消を含む)

  • 人間を中心においたリーダーシップの醸成・育成

  • 従業員の声を聴く(内容の分析を含む)

導入に時間がかかるが、即座に効果があるもの → 【リスキリング】

  • キャリアパスの構築

  • スキル体系の構築

  • スキル中心の人材開発プログラムの開発

  • 隣接する職務へのキャリアアップ

  • 隣接するスキルの習得

  • 人材の異動(特に内部異動)の促進

  • タレントマーケットプレイスの仕組み構築

導入に時間がかかり、効果を生むまでに時間を要するもの → 【人事の再設計・再構築】

  • 職務分析

  • 職務設計

  • 雇用モデルの再構築

  • ギグワーク、業務委託の促進

  • アウトソーシングの推進

  • 自動化の促進

  • 生産性向上に向けたプラットフォームづくり

Core HRプラットフォームは優れているが、十分なものとは言えない。

HR Technology Conference & Exposition 2022 -Josh Bersinによる基調講演プレゼン資料 p.25
(2019年のDeloitte Human Capital Trends および 2018年8月のJosh Bersinによる独自調査)
  • HRテクノロジー関連のプロジェクトのうち32%は大幅に予算オーバー

  • プロジェクトの53%は実施期限を超過(導入期限に間に合わず)

  • 42%のものは十分な成功とはいえないか、2年経過後に失敗と評価

クラウド型HCMソリューションに対する次のような期待が打ち砕かれる。(期待と実態との乖離が大きい順)

  • 人事機能がもっと戦略的に生まれ変わるはずだった。

  • イノベーションはもっと加速するはずだった。

  • 従業員体験がもっと向上するはずだった。

  • システムに係るトレーニングをもっと減らせるはずだった。

  • TCO(システム所有運用管理コスト)はもっと削減されるはずだった。

  • アップデート(システム更新)はもっと簡単なはずだった。

  • もっと良いデータを取得でき、そこからインサイトを得られるはずだった。

  • リアルタイムデータ更新や取得、利用がもっとできるはずだった。

  • 従業員に関する様々なデータをもっと統合して見ることができるはずだった。

最大の成功要因は、「従業員体験」を優先することであり、業務プロセスやデータ統合の話ではない。

人材マネジメントの「段階」(ビジネスの変革を目指すべき。)

HR Technology Conference & Exposition 2022 -Josh Bersinによる基調講演プレゼン資料 p.26

レベル1 テクノロジーが中心

何らかのシステムの導入、プロセスの自動化、コスト削減にフォーカス。「人」の側面はさほど考慮に入れない。

レベル2 プロセスが中心

業務プロセス、社内手続き、何らかの「処理」にフォーカス。ほとんどの場合がウォーターフォール型のアプローチで行われる。業務の効率化が際重要視されるが、そこには戦略的な視点はない。

レベル3 「成果」が中心

ビジネス上の成果、成功判断基準、戦略のアラインメント(調整)にフォーカス。オペレーショナル・エクセレンス(組織や企業が業務プロセスの最適化や改善を通じて、効率性、生産性、品質、顧客満足度、コスト削減などの業績目標を達成すること)と「戦略の磨き上げ」のバランスが図られる。

レベル4 ビジネスの変革

「人」にフォーカスし、デザイン思考を用い、「従業員のジャーニーマップ」(の全般における『体験』)を重視し、人事部門が有するケイパビリティ(組織能力)にも着目する。オペレーショナル・エクセレンスと「戦略の磨き上げ」のバランスのみならず、「変革」も追求していく。

2023年以降のHRテクノロジー(のあり方)

HR Technology Conference & Exposition 2022 -Josh Bersinによる基調講演プレゼン資料 p.29

これまでと最も異なるのは、Talent Intelligenceの部分が追加されたこと。
タレント・インテリジェンスとは、

  • スキル・データベース(世界通用性のある「スキル」の名称やその意味合い等がリスト化され体系化されたデータベース)

  • ジョブ体系(様々な業種、職種ごとの特徴を反映した「ジョブ定義集」のようなもの)

  • タレント・モビリティ(人材の「異動可能性」や「流動性」を促進するためのソリューション)

  • ジョブ・マッチング(人材とジョブとのマッチングを、スキルの情報をベースに行うための仕組み)

  • キャリア支援(従業員主導で自身の将来のキャリアパスを構築するための支援ツール)

  • メンタリング(従業員のキャリアや学習を支援するために、指導、助言、またはサポートを行うための仕組み)

という要素から構成される。

「スキル」は人事のあらゆる領域に影響を与える。

HR Technology Conference & Exposition 2022 -Josh Bersinによる基調講演プレゼン資料 p.53

人材獲得

外部から人材を採用するときに、AIを活用してマッチングを行う際にはスキルの情報が基準となる。

また、具体的には次のような場合にスキルがモノサシとして機能する。

  • リファーラル採用(従業員からの紹介)

  • 多様性(特に、コグニティブの側面)を重視した採用

  • アセスメント(適職診断)

  • 面接における行動特性の評価(コンピテンシー面接)

タレント・インテリジェンスの構成要素として、スキル・データベース(世界通用性のある「スキル」の名称やその意味合い等がリスト化され体系化されたデータベース)が必要。

人材の異動・流動化の促進と、キャリア支援

具体的には次のような場合にスキルがモノサシ(あるいは、マッチングの基準)として機能する。

  • ジョブシェアリング(1つの職務を2人以上の従業員が分担して行う)

  • メンタリング(メンバー起点の、個別化されたキャリアアドバイスも含む)

  • キャリア計画(メンバー主導型の、キャリア自律を目指すもの)

  • プロジェクト型の働き方

  • ギグワーク(雇用関係を結ばない単発・短時間の働き方)

タレント・インテリジェンスの構成要素として、スキル・データベース(世界通用性のある「スキル」の名称やその意味合い等がリスト化され体系化されたデータベース)が必要。

企業内研修

具体的には次のような場合にスキルがモノサシ(あるいは、マッチングの基準)として機能する。

  • ラーニングにおけるコンプライアンス(例:法令で定められた資格の更新のために必須の研修を確実に受講させる)

  • 公式[正規]学習(公的な教育機関による学習コンテンツを、それが必要な従業員に確実に提供する)

  • 学習コンテンツの検索(従業員が、自身にとって必要なコンテンツを探す)

  • 学習コンテンツの配信(個々の従業員にとって必要なコンテンツを、的確に配信する(※バラマキ型ではなく))

  • ラーニングの分析(利用コンテンツの傾向、利用率、受講による効果等様々な観点における分析)

  • ラーニング管理(受講履歴、受講者、コンテンツ等、ラーニングに関わる様々な管理。ラーニングコンテンツに対してスキルのタグ付けを行うことも含まれる。)

タレント・インテリジェンスの構成要素として、スキル・データベース(世界通用性のある「スキル」の名称やその意味合い等がリスト化され体系化されたデータベース)が必要。

給与および報奨

給与や報酬、報奨の水準や内容を保有スキルに応じて変動させる仕組みを導入するためには、タレント・インテリジェンスの構成要素として、スキル・データベース(世界通用性のある「スキル」の名称やその意味合い等がリスト化され体系化されたデータベース)が必要。
ここでは、「スキル」の名称やその意味合いに加えて、人材市場におけるトレンドを踏まえた「スキル毎の格付け情報」(スキルの種類と給与水準の情報がマッピングされ、スキル毎の価値を表現したようなもの)も必要。

エンプロイー・エクスペリエンス・プラットフォーム(従業員体験の向上に寄与するソリューション群)

具体的には次のような場合にスキルがモノサシ(あるいは、マッチングの基準)として機能する。
共通点として、従業員一人ひとりに対して個別化された体験が提供されること。

  • 従業員に対する新たな任務・職責や、プロジェクト等のレコメンド

  • キャリア開発プログラムのレコメンド

  • 研修プログラムやラーニングコンテンツのレコメンド

  • メンタリング、コーチング、キャリアアドバイス等

  • ITに関連するサポート

  • その他、人事上の様々なサポート

タレント・インテリジェンスの構成要素として、スキル・データベース(世界通用性のある「スキル」の名称やその意味合い等がリスト化され体系化されたデータベース)が必要。

スキル体系というものは想像以上に複雑

HR Technology Conference & Exposition 2022 -Josh Bersinによる基調講演プレゼン資料 p.56

自社のスキル体系、さらにはジョブ体系、組織体系を定義するにあたっては、以下のものをうまく活用して組み合わせていくことになる。

外部からコンテンツとして購入するスキルライブラリー

代表的なベンダー:Lightcast

採用管理システムの中で構築されたスキルモデル

ジョブサーチや候補者追跡を行う中で生成・整備されてきたスキル体系
代表的なベンダー:Eightfold Avature iCIMS

コンテンツベンダーによって構築されたスキルモデル

ラーニングコンテンツ提供事業者がサービス提供を行う中で生成・整備されてきたスキル体系
代表的なベンダー:LinkedIn Skillsoft Udemy

ラーニングソリューション(LXP, LMS)のベンダーによって構築されたスキルモデル

ラーニングエクスペリエンスプラットフォームのサービス提供事業者がサービス提供を行う中、あるいは、そのユーザ企業の従業員のラーニングアクティビティを通じて生成・整備されてきたスキル体系
代表的なベンダー:CornerstoneOnDemand(CSOD)

自社の様々なビジネスファンクション領域で構築された、それぞれの業務上求められるスキルモデル

自社のリーダー層や経営幹部、あるいは営業部門・製造部門・サービス部門等において求められるスキルが体系化されていったもの

タレント・インテリジェンスの進化

HR Technology Conference & Exposition 2022 -Josh Bersinによる基調講演プレゼン資料 p.62

レベル1:業務としての(単なる)レポーティング

(「人事データ分析」と呼ばれた)

人事データの統合
データ統合ツール、ETLツール(社内外に散在するデータを活用しやすくするためにデータの収集(Extract)、加工(Transform)、送出(Load)を行うためのツール)の活用

レベル2:戦略的分析

(「ピープル・アナリティクス」と呼ばれ始めた)

標準レポート・定型レポートの作成、測定指標のダッシュボード化
分析ツールの活用

レベル3:予測分析

(「ピープル・アナリティクス」の成熟)

社外のビジネスデータと社内のビジネスデータの統合
AIとビッグデータの活用

レベル4:タレントインテリジェンス

(「タレントインテリジェンス」への進化)

時系列予測の情報も分析対象とし、判断の助けとする
一般的なデータ以外にも、地理情報、労働市場のデータ、公開データ等も幅広く活用

採用(人材獲得)の進化過程

HR Technology Conference & Exposition 2022 -Josh Bersinによる基調講演プレゼン資料 p.68

 採用(人材獲得)においてもAIの活用が本格化してきてはいるが、やはり「人が中心」の営みといえる。

レベル1:受け身かつ断片化

あくまでも必要に応じて行われる、旧来型の採用活動。
極めて「取引型」(トランザクショナル)。(やるべきことが決まっていて、それに従って淡々とこなすイメージ。)
プロセス重視。
体験(エクスペリエンス)は重視していない。
事業(ビジネス戦略)との結びつきは極めて弱い。

レベル2:標準化かつ構造化

プロセスが明確に定義されている。
採用活動を監督するためのガバナンスが効いている。
採用活動全般におけるライフサイクルを支えるために、その組織内におけるグローバルスタンダードが適用される。
内部異動については、このような仕組みが基本的なアプローチとなる。

レベル3:能動的かつ個別化

個別化された応募者体験に、より一層フォーカス。
採用担当者に対して注意を払う。
採用ブランディングと従業員に対する価値提案につき、多大な投資を行う。

レベル4:クリエイティブかつ「人が中心」

競争優位性維持のための採用。
事業(ビジネス戦略)と密接不可分。
従来の実務慣行も打ち破る、大胆な実験。
テクノロジーの戦略的活用。

タレント・マーケットプレイスは、単なる機能ではなくプラットフォーム

人材の異動(流動性を高める)ことについての圧倒的な需要の高まり

HR Technology Conference & Exposition 2022 -Josh Bersinによる基調講演プレゼン資料 p.72

人材開発、リーダーシップ開発は、より計画的に行う。

  • スキルと経験に基づき

  • 在籍期間や、属性、能力、特性に基づき

  • アセスメントの結果に基づき

人材獲得(採用)、配置は、よりアジャイルに行う。

  • いかなるときにも可変的

  • 本人の興味や保有スキルに基づき

  • 「スキル体系」が役立つ

そして、事業計画上のニーズ、人材開発上のニーズに応じて「ストレッチアサイン」も行いながら人材の異動(流動性)をさらに促進させていく。

タレント・マーケットプレイスが、タレント・マネジメントに取って代わる。

HR Technology Conference & Exposition 2022 -Josh Bersinによる基調講演プレゼン資料 p.73

「新たな従業員体験のあり方」として、タレント・マーケットプレイスは下記の局面で活用される。

  • 採用活動

  • プロジェクトメンバーの登用

  • 人員計画

  • 報奨と報酬

  • 人事考課

  • 後継者計画

  • LXP・LMS(ラーニングシステム)の活用

  • 組織能力の体系化

  • コーチング

  • 人脈形成

兼ね備える機能、役割、情報は以下の通り。

  • 「スキル」を共通言語とした評価やマッチング

  • ジョブやメンターとのマッチング

  • 「スキル」をベースとしたフィードバック

  • 異動パターンの提示

  • 需要のあるジョブ一覧

  • 空きポジションの提示

  • ジョブ体系

  • プロジェクト、コーチ、メンターの一覧

  • 後継者計画

  • ラーニングメニュー

  • オンボーディング

  • ジョブ毎の人材要件

  • キャリアパス

  • アセスメント

付録 「2023年 人事のトレンド予測」レポート

  1. 多様性、高齢化、労働力不足が進む

  2. 業界の融合による、ジョブとキャリアの再定義

  3. 真摯かつ現実的な、「スキル」に関する取り組みの進展

  4. ハイブリッドな働き方のもとでの、「従業員体験」の追求

  5. 「従業員体験」を超えた、「持続可能な人材」への取り組み

  6. 「リーダーシップモデル」の再考

  7. 「パフォーマンス管理」の新たなモデル

  8. 給与・報酬戦略の真摯な見直し

  9. CEOとCHROによる、ウェルビーイングへの関心の高まり

  10. 「生産性」が、「従業員の成功」を測る重要な尺度

  11. コーポレートラーニング(企業研修)の新たな焦点は、「仕事を通じての成長」

  12. 採用担当者の役割がますます重要に

  13. ピープル・アナリティクスがタレント・インテリジェンスへと進化

1. 多様性、高齢化、労働力不足が進む

 多様性は拡大する。多様な労働力の活用のためには多様なニーズを理解する必要がある。多様性ある組織はどうでない組織よりも優れたパフォーマンスを発揮する。彼らはより良いアイディアを生み出し、より強力なスキルを引き寄せる。そして、多様性をよりよく理解する。
 労働力の高齢化が進んでいる。長寿と低い出生率によるもの。寿命が伸びているため、キャリアやジョブの再定義が必要。育児についての柔軟性と、高齢者介護についての福利厚生的な手当も重要。高齢者向けのパートタイム的な働き方やジョブシェアリングも必要。そしてまた高齢化は多様化にもつながる。
 労働人口が減少していく中、従業員を惹きつけ、維持、育成し、新たに雇用する方法の再定義が求められる。キャリアやジョブの再定義にもつながる。

Josh Bersin's Predictions for 2023 の該当箇所を要約

2. 業界の融合による、ジョブとキャリアの再定義

 各企業とも、隣接する業界やビジネスモデルへの変革を目指している。これにより、新たなスキル、新たな役割、新たな組織が必要になる。人材獲得競争はますます激化する。労働人口の減少のみならず、需要の高いスキル(を持った人材)も不足している。企業は、採用、人材維持、リスキリング等を同時並行的に行い、「体系的な人事ソリューション」と呼べるような新たな人事運用モデルを構築する必要がある。
 パンデミック(コロナ禍)とハイブリッドワーク(の普及)のおかげで、企業は「経験に基づいた採用」から「スキルに基づいた採用」に移行した(と北米地区では言われている)。企業は、重要ポジションに就くための「キャリアパス」が描けるように、自分が持っているスキルとジョブやポジションに求められるスキルの両方を可視化していかなければならない。

Josh Bersin's Predictions for 2023 の該当箇所を要約

3. 真摯かつ現実的な、「スキル」に関する取り組みの進展

 企業はよりフラットになり、よりチームおよびプロジェクト指向になって社内の流動性(異動可能性)をより重視するようになっている。「人」と「ジョブ」との関係も変わってきており、ほとんどの企業においては従業員は多くの役割(ジョブロール)を担い、多くのプロジェクトに参画している。それぞれの「ジョブ」には「スキル」が求められる。今日、たとえばソフトウェアエンジニアリングのような領域ではより顕著だが、必要なスキルは数ヶ月ごとに変化する。実際にビジネスの世界に存在する何万とも何十万ともいわれるスキルは、テクノロジーの進展や労働力側の変化に基づいて需要が高まったり低くなったりするものであることを理解する必要がある。
 「スキルベースの組織づくり」を行い、採用、昇進、パフォーマンス向上のための人材育成、後継者計画等の局面で「スキル」に基づいた意思決定をしていく。企業は「スキル」(従業員そのものではなく)にお金を払い、求められている「スキル」を従業員側も把握し、その「スキル」を積極的に身につけていくことが奨励される。
 これは、新たな「ダイナミック(動的)な人材管理」の方法といえる。静的な、従来のコンピテンシー管理とは異なる。

Josh Bersin's Predictions for 2023 の該当箇所を要約

4. ハイブリッドな働き方のもとでの、「従業員体験」の追求

 一部の従業員がオフィスに戻るにつれ、ほとんどの企業は新たなハイブリッドワーク戦略を構築しようとしている。「職場」とは一体何なのか、何のためにあるのかを再定義して、どのような場合に出社すべきかを指示する。「従業員体験」を「職場体験」にまで拡張させ、生産性向上に寄与するようなテクノロジーを積極活用する。また、ハイブリッドワークの実現のためには組織文化の醸成も重要である。マネージャーやチームリーダーは、リモート環境同士でつながるチームに慣れ、これを導き、話を聴き、支援する方法を学ぶ必要がある。そして、「目に見えないメンバー」が実際に働いていることを信頼しなければならない。

Josh Bersin's Predictions for 2023 の該当箇所を要約

5. 「従業員体験」を超えた、「持続可能な人材」への取り組み

 Global Wellness Instituteの調査によると、ウェルビーイング市場は510億ドルを超え、今後も2桁成長すると見込まれている。この傾向により、オンラインコーチング、オンデマンドカウンセリング、フィットネス/エクセサイズアプリ、AIを活用したトレーニング/教育、等の新たな産業を生み出した。今後は「財務上の健全性」にも取り組む必要がある。たとえば、住宅ローンの支払いを心配して仕事に集中できなかったり、低賃金のせいで貧しい食生活や教育を受けられない状況に陥る、ということを解消していく必要がある。
 また、差別禁止、児童保護、セクハラからの自由、休暇取得の尊重などもこの領域に含まれる。
 これらのトピックは、従来はDEI、福利厚生、健康と安全、従業員体験等に分類されてきたが、「人々の持続可能性」という概念で括られるようになってきている。
 職場における公平性、帰属意識やウェルビーイングの促進、を実現するためのプログラムを長期的な投資と捉えて、全てをまとめて「長期的な持続可能性」に繋げていかなければならない。
 「イノベーションと成長の源としての人材」をさらに超えて、人材あるいは従業員を企業の中核資産およびインフラストラクチャとして捉え直す。投資、社会的責任、企業価値向上、リスク軽減のそれぞれの戦略として、「人々の持続可能性」を重視する企業が増えている。

Josh Bersin's Predictions for 2023 の該当箇所を要約

6. 「リーダーシップモデル」の再考

 より成功している企業は今日、階層型ではなくチームで運営されている。これらの企業はよりフラットな組織を目指し、ワークエクスペリエンスも重視して運営されている。
 病院で40人以上の看護師を率いる看護マネージャが、マネジメントモデルとしてわかりやすい。リーダーは人々を「管理」したり「指示」することはあまりなく、人々に力を与え、訓練し、サポートし、調整し、しばしば評価し、うまく動かす。コロナ禍を経て、多くの企業でリーダーシップモデルは、配慮、インスピレーション、共感、柔軟性に重点を置き始めている。これらと、メンバーの成長を促すことによる「生産性向上」とを両立させる必要がある。
 リーダーシップのもう一つの鍵は「傾聴」(あるいはフィードバック)である。信頼の文化の構築により従業員体験を高めることにもつながる。

Josh Bersin's Predictions for 2023 の該当箇所を要約

7. 「パフォーマンス管理」の新たなモデル

 景気の減速を受けて、業績管理が再び注目を集めている。生産性向上のみならず、業績悪化の場合には一時解雇や人員削減も検討しなければならない。
 コロナ禍の最中、多くの企業では、時間を節約してより柔軟な手法を目指し、年次評価のやり方からOKRの導入に移行したり、リーダーが「日々の仕事の流れの中で」メンバーのパフォーマンスを管理できるようなツールを活用し始めた。主要HRテクノロジーベンダーはこの領域に再投資している。
 さらに、タレント・マーケットプレイスの仕組みを導入すると、そのプラットフォーム上でアジャイルな働き方、ジョブシェアリング、社内流動性(異動可能性)、ギグワークが促進されていくだろう。この領域においても、パフォーマンス管理の仕組みの追加実装が必要になっている。年次評価だけではなく、日々の「パフォーマンスの実現」にもフォーカスした評価の仕組みが必要だ。

Josh Bersin's Predictions for 2023 の該当箇所を要約

8. 給与・報酬戦略の真摯な見直し

 ジョブ毎の給与水準に関するデータソースは数多く存在する。全企業の4分の1以上が、給与の公平性実現に取り組んでいる。公正かつ公平な給与・報酬を実現することが人材の惹きつけと維持には不可欠であり、そのプロセスにより従業員との信頼関係を構築できる。
 給与・報酬戦略について議論する際には、人材はコストではなく投資すべき対象と捉えるべきである。報酬の調整によって生産性向上が実現できれば、その見返りは常に絶大である。

Josh Bersin's Predictions for 2023 の該当箇所を要約

9. CEOとCHROによる、ウェルビーイングへの関心の高まり

 福利厚生プログラムが爆発的に普及している一方で、「生産性向上によって福利厚生が生み出させる」のであってその逆ではない、ということを学ぶべきである。従業員に対してもっと働くように押し付けたり福利厚生を贅沢に提供するのではなく、シンプルに、仕事をより楽なものとする時代が来た。
 ウェルビーイングに対するフォーカスポイントは完全に変わった。休暇や保険と並んで提供される「福利厚生」の話ではなく、今や企業成長のための戦略と位置付けられている。CEO, CFO, CHROらは、経済環境とテクノロジーがこれまで以上に急速に変化している今日、スキルを豊富に有しエンゲージメント度合いの高い従業員が最も重要な「サプライチェーン」資産であることを理解している。

Josh Bersin's Predictions for 2023 の該当箇所を要約

10. 「生産性」が、「従業員の成功」を測る重要な尺度

 企業を成長させる方法は2つしかない。より多くの人を雇用するか、各人の生産性を高めるか。これまでは前者のみに重点が置かれ、後者はほとんど重視されてこなかった。株式市場における評価ポイントが売上増であった時代であればまだしも、人材獲得が困難でキャッシュフローが重視される今日においては生産性に着目するしかない。
 また、職場における従業員体験全体についても考慮すべきであるが、その前に、生産性が従業員エンゲージメントを向上させる、という点も重要だ。生産性が高いと感じるとき、人は自分の仕事が好きになる。反対に、時間を無駄にしていると感じると、「静かに」退職したり組織を離れていく。
 本質的に、従業員は、官僚的な手続きに時間を費やすのではなく、価値のあるスキルを最大限に活用できるような仕事をすべきである。

Josh Bersin's Predictions for 2023 の該当箇所を要約

11. コーポレートラーニング(企業研修)の新たな焦点は、「仕事を通じての成長」

 企業研修の価値を高めるためのあらゆる実践の中で、「キャリア成長のための幅広い選択肢を提供する」という取り組みが最も価値向上にインパクトが大きい。「仕事を通じての成長」の中で、将来のためのスキルを身につける可能性も高まる。従業員の成長に重点を置いている企業は、
・従業員に潜在能力を発揮させる可能性が29倍
・イノベーションのリーダーになる可能性が4倍
・最適な職場である可能性が7.2倍
それぞれ高い。
 また、特定の知識やスキルギャップに対処するための「点」のソリューションではなく、組織のより広範なビジネス領域および人材戦略の中に戦略的に組み込まれたものとして、体系的な人事運用モデルの一環として行なっていくことが重要である。

Josh Bersin's Predictions for 2023 の該当箇所を要約

12. 採用担当者の役割がますます重要に

 人材獲得・採用領域において高いパフォーマンスを発揮するためには、テクノロジーやツールの活用もさることながら、本当に鍵を握るのは採用担当者が持つ強み、スキル、人間関係である。最も成功している企業の採用担当者は、人材アドバイザーのような役割を果たしている。
 人材獲得の成熟プロセスは概ね下記の通り。
レベル1:必要に応じてポストを補充するような、リアクティブな採用。プロセス主導型で、経験はさほど重要ではない。
レベル2:明確に定義されたプロセスがあり、標準化、構造化されたモデル。採用のラフサイクル全体に、グローバル標準が適用されている。
レベル3:プロアクティブに採用ブランディングや価値提案に対して多額な投資を行い、パーソナライズされた応募者体験を重視。
レベル4:クリエイティブかつ人間中心で、競争上の優位性として採用を捉える。これまでの慣例にとらわれず大胆に実験する。テクノロジーを戦略的bに活用する。
 加えて重要なことは、
・素晴らしい採用ブランディングを確立する。
・優れた応募者体験を実現するための投資を行う。
・社内の流動性(異動可能性)と社内人材登用にもフォーカスする。
・採用担当者のスキルアップに投資をする。

Josh Bersin's Predictions for 2023 の該当箇所を要約

13. ピープル・アナリティクスがタレント・インテリジェンスへと進化

 タレント・インテリジェンスとは、
人材を何名採用し(人員計画、労働市場分析、多様性の促進)、
リスキリングし(スキルの体系化、キャリアパスの構築)、
人材の維持によってこれらを成長させ(人材分析、生産性向上、人材の定着)、
再設計によって組織をいかに強化できるか(ジョブ体系の整備、組織設計、戦略的な労使関係)、
を予測していくような取り組みのことである。
 先進的な企業はピープル・アナリティクスのチームをさらに拡充させ、上記のような機能を追加してくことになる。

Josh Bersin's Predictions for 2023 の該当箇所を要約


 最後に、「スキルの可視化」や「キャリア自律支援」に役立つソリューションを紹介する。

 このentomoの活用により、
・レジュメ(職務経歴書)を読み込ませるだけで、自分でも気づかなかったスキルをAIが抽出して明示
・4万件以上のスキルDBからキーワード検索等により、保有していそうなスキルを追加登録
・保有スキルの情報に基づき、将来就ける「ジョブ」の選択肢をAIが提示
・将来的に狙いたい「ジョブ」や「ポジション」(Moonshot Job Role)との間の「スキルギャップ」をAIが提示
・「スキルギャップ」を埋めるために最適なラーニングメニューをAIがレコメンド
が可能になり、誰もが自分の希望する「ジョブ」を目指したキャリア自律を実現し、我が国全体の「キャリアの民主化」に貢献していく。

 以上のようなトレンド情報の紹介以外に、親身になって日本企業の「人的資本開示」の支援を行なっていると自負している。
 それが、株式会社SP総研の「『人的資本開示』対応コンサルティングサービス」である。

 コンサルティングファームを始めすでに各社同様のサービスを展開していると思われるが、当社のサービスの特徴としては(おそらく日本で唯一)「スキルの可視化」の支援まで行なっていることを挙げることができる。
 仮に他社でも同様のサービスを行なっていたとしても、そのための手法として「セルフジョブ定義」を用いている点も加味すれば、「日本で唯一のサービス」といえる。

  現場主導型の、日本企業にもマッチしやすい手法を用いながら、無理のない「人的資本開示」を目指して支援している。


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