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「人的資本開示」の先行事例 ④双日株式会社

金融庁が2021年12月21日 に、
「サステナビリティ情報」(2)「経営・人的資本・多様性等」の開示例(好事例集)(以降、「好事例集」とする)
をリリースした。

 ここに紹介されている情報を参考に、我が国における「人的資本開示」の先行事例として様々な企業のサステイナビリティレポートや統合報告書の内容(そのうち、人的資本への投資、人材マネジメント、働き方に関する開示部分)を順次紹介していく。また、紹介するのみならず、独自の視点での評価・コメントも試みたい。

今回は、双日株式会社有価証券報告書(2022年3月期)を取り上げる。

 「好事例集」においては、有価証券報告書(2021年3月期)における評価すべきポイントとして、
(1)ダイバーシティの推進に向けた取組みについて、女性執行役員の登用の実績や女性社員比率の目標を含めて記載
(2)女性活躍関連目標について、中長期の定量的な目標を時系列で図示しながら平易に記載
という点と、さらに
多様なキャリアパス・働き方を実現する取組み経営人材の育成のための取組みについて平易に記載
という点が挙げられている。

ちなみに、「人材版伊藤レポート2.0 実践事例集」においては下記の点が評価されている。

人材版伊藤レポート2.0 実践事例集 p.42

 これらについては、最新版の当該有価証券報告書においてはp.23からp.30にかけて記載がある。

第一部【企業情報】
第1 【企業の概況】
第2 【事業の状況】
1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】
(1) 会社の経営の基本方針
(2) 今後の見通し及び対処すべき課題
「中期経営計画2023」について
持続的成長に向けた取り組み
 1) サステナビリティに関する取り組み

といった項目立ての中で、

 2) 組織や人材の変革に向けた取り組み
  ● 人材戦略に関する基本方針

と続き、これらの項目の中で説明されている。

● 人材戦略に関する基本方針
 当社グループでは、2030年の目指す姿として「事業や人材を創造し続ける総合商社」を掲げています。多様性と自律性を備えた個の成長が、企業の価値創造の源泉であると考え、人材戦略を支える3つの柱として「多様性を活かす」、「挑戦を促す」、「成長を実感できる」を据えています。「多様性を競争力に」をテーマに、社員の多様なバックグラウンドを活かし、多角的な視点からマーケットニーズを発掘すると共に、Hassojitzプロジェ クト(後述)をはじめとする「挑戦」の機会を設け、所属本部外での海外トレーニーなど新たな経験を積み、 「成長」を実感できるサイクルを繰り返すことで、社員の成長が当社の成長へとつながる仕組みづくりを推進し ています。

双日株式会社有価証券報告書(2022年3月期) p.23
双日株式会社の有価証券報告書(2022年3月期) p.23

 「多様性と自律性を備えた個の成長が、企業の価値創造の源泉」としている点、「単に人がいさえすれば何とかなる」「とにかく人を大切にすることが人的資本経営なり」という発想とは一線を画しているといえる。
 また、なぜ多様性が重要なのかといえば、それは「社員の多様なバックグラウンドを活かし、多角的な視点からマーケットニーズを発掘」できるからであり、多様性は企業の競争力強化につながる、という発想でコンパクトにまとめられている。さらに、「個」(従業員)は自律性を備えることが求められ、積極的に「挑戦」することも求められるのだ、といったメッセージが従業員に対しても発せられている。
 「社員の成長が当社の成長」というのも、人的資本経営の本質そのものだ。

 当社では、人事施策の浸透度を定量的に効果測定しながら当社の人づくりを実行するため、2021年6月に以下 のとおり「人材KPI」を設定しました。外部環境や人事施策の浸透状況に応じて柔軟な見直しができるよう動的 KPIとし、場合によっては具体的施策の見直しなども踏まえながら、モニタリングする体制を整えています。

双日株式会社有価証券報告書(2022年3月期) p.24
双日株式会社の有価証券報告書(2022年3月期) p.24
人材版伊藤レポート2.0 実践事例集 p.43

 「人事施策の浸透度を定量的に効果測定」するために「人材KPI」を設定し、2021年度の実績を示しつつ短期的目標として2023年度の目標値も明記、さらに中長期(例えば2030年度)の目標値も設定している。「人的資本開示」のお手本のような取り組みであるが、惜しいのは下記の2点だ。

 ①「挑戦」と「成長実感」を計測するためのKPIが「チャレンジ指数」とされているがこれが具体的にどのようなものでどのように計測されるのか。「設定したチャレンジ目標に対する上司評価」という付記のみで、曖昧な印象がある。
※この点、統合報告書には下図のような資料があったため掲載する。

双日株式会社 統合報告書 2022 p.62

 ②「デジタル人材」を計測するためのKPIが「デジタル基礎研修修了者(の割合)」とされているが、修了さえすれば数値が100%に近づいていく、というのでは目標指標としては物足りない。ここは是非とも、「デジタル人材」の人材要件定義をスキル・コンピテンシーベースで精緻に行い、関連する研修を修了したり実務をこなすにつれて求められるスキル・コンピテンシーがどのように身についたかを記録し、人材要件定義との合致度合い(マッチ率)を計測してデジタル領域における人材ポートフォリオ分析を行うくらいの本格的な目標設定の工夫が必要なのではないか。

〔人事施策の柱①「多様性を活かす」〕

 当社では、人材の多様性を、変化の激しい市場環境に対応し、常に迅速に事業創造できる組織の力へと変えるため、女性、外国人、様々な経験を持つキャリア採用者など、多様な人材の採用、起用を積極的かつ継続的に行いつつ、それぞれの特性や能力を最大限活かせる職場環境の整備や管理職層の教育などの取り組みを進めてきま した。これら多様な社員から、新たな着想や意見を多面的かつ効果的に取り込むことで、双日の価値創造につなげる環境づくりを目指しています。

○ 女性活躍推進
 当社では、ダイバーシティマネジメントの専任組織を設け、人事部とも協調しながら、各種施策を実施してい ます。2030年代に女性社員比率50%程度を目指し、中長期の視点で、当たり前に女性が活躍する環境づくりを進 めています。将来的に組織の意思決定に関わる女性社員を増やしていくために、各世代層のパイプライン形成と経験の蓄積、キャリア意識の醸成に注力しており、女性総合職の海外・国内出向経験割合を2023年度に40%とす るKPIを設定するほか、女性課長職比率などについても、目標を設定しています。
 2021年度には以下の取り組みを実施しました。
- 積極的な女性総合職の新卒採用及び中途採用の継続
- 女性管理職の登用促進
- 若手女性総合職の海外・国内出向経験割合の向上
- 30歳前後の女性総合職を対象とした経営陣によるメンタープログラムの実施
- 管理職層を対象にしたエグゼクティブプログラムなど外部研修への派遣

双日株式会社有価証券報告書(2022年3月期) p.25
双日株式会社の有価証券報告書(2022年3月期) p.25
双日株式会社 統合報告書 2022 p.60

 女性活躍の目標に掲げる女性総合職の新卒採用比率は2018年度以降継続して30%以上を維持(2022年4月入社の女性総合職比率は44%)しており、昨今では女性の中途採用も強化しています。加えて、積極的な女性の管理職登用を進めた結果、2022年4月時点で女性課長職比率は10.5%となり、2023年度の目標を前倒しで達成しました。また、ライフイベント前に海外トレーニーや海外駐在を経験できるようキャリアの早回しを積極的に進めており、女性総合職の海外・国内出向経験割合は34%まで向上しています。加えて、内部昇格および社外からの人材獲得により、女性の執行役員数は2022年6月現在で2名となっています。

 このほか、当社は女性がキャリアを止めることなく活躍できる環境を整えることが重要であると考え、早期復職支援や柔軟な働き方の推進による仕事と育児の両立支援にも取り組んでいます。2022年4月には、男性社員の育児参加の促進を念頭に育児制度の改定を行いました。男性が積極的に育児参加することで、職場全体が育児への理解を深めると共に、育児を応援する職場環境の醸成にもつながると考え、管理職を含む全社員を対象に新たな育児制度の説明会を実施しました。人材KPIとして育児休暇取得率100%を設定し、性別に関わらず活躍できる職場、組織、会社を目指し、業務効率化やチームマネジメント力の強化にも取り組んでいます。また、多様な属性・価値観を持つ社員の個を活かし、組織の成果につなげるダイバーシティマネジメントの重要性を伝える施策として、部長研修ではアンコンシャスバイアスをテーマとした研修を行ったほか、全部課長向けにeラーニングでイクボス研修を実施し、「双日イクボス宣言」への賛同を確認しています。

 これらの様々な女性活躍推進の取り組みにより、2022年3月には、女性活躍推進に優れた上場企業を表彰する「なでしこ銘柄」に6年連続6回目の選定をされました。

(ご参考)
■ 双日、なでしこ銘柄に6年連続で選定(2022年3月)https://www.sojitz.com/jp/news/2022/03/20220323.php

■ 女性活躍推進法に基づく「一般事業主行動計画(2021年度~2023年度)」
https://www.sojitz.com/jp/csr/employee/pdf/kodo2021.pdf

双日株式会社有価証券報告書(2022年3月期) p.25-26

 ここは「好事例集」においても「評価すべきポイント」として、「女性活躍関連目標について、中長期の定量的な目標を時系列で図示しながら平易に記載」と紹介されているところである。
 「変化の激しい市場環境に対応し、常に迅速に事業創造できる組織の力へと変えるため」多様性を重視しているという姿勢は素晴らしいが、「それぞれの特性や能力を最大限活かせる」としておきながらパーソナリティやスキル・コンピテンシーの側面における多様性の状態を把握するための仕組み、施策にはなんら触れられていないのはなぜだろうか。従業員それぞれがどのような「特性」や「能力」を備えているのかを把握することなしに、それらを最大限活用することはできるのだろうか。

 「女性の執行役員数は2022年6月現在で2名」という点は、執行役員の総数とともに示してそのうちの何%なのか、についても明記しておきたい。

 「ダイバーシティマネジメント」によって「組織の成果につなげる」という繋がりは良いのだが、「多様な属性・価値観を持つ社員の個を活かし」という側面だけをもってダイバーシティと捉えられているところが残念である。 多様性の実現をもって組織の成果に繋げる、組織を強くする、という狙いがあるのであれば、スキル・コンピテンシーベースでの多様性についてもフォーカスすべきだ。「重要性を伝える施策」として、部長向けに「アンコンシャスバイアスをテーマとした研修」というのは価値観の多様性を認め合うために有益だと思われるが、全部課長向けには「eラーニングでイクボス研修」しか行っていないのだとすると、多様性を組織強化に繋げるという戦略からすると心許ない印象だ。イクボスを育成しただけで他社に対して競争優位性を維持するような組織となれるのだろうか。

○ 中途採用者の活躍
 当社では、経営人材、DXなどの専門人材、女性・外国人などの多様性を強化すべく、中途採用にも注力しています。2022年3月末時点で、管理職ポストにおける中途採用者の割合は約2割、役員ポストでは約3割を占めています。なお、2021年度の採用に占める中途採用者の比率は29%でした。今後も引き続き、毎年の新規採用者数の約3割を中途採用者としていく予定で、そのうち半数程度を女性とする方針です。また、2021年12月には、CDO(チーフ・デジタル・オフィサー)として社外の女性人材を当社の執行役員に迎えました。これまでに他社で培った知見や女性ならではの視点などを経営や現場との対話に活かし、新規事業の創出と事業モデルの変革に繋がるデジタルの実装を加速していきます。(DXの取り組みについては、後述「3)DXの取り組み方針について」をご参照ください。)

双日株式会社有価証券報告書(2022年3月期) p.26

 「管理職ポストにおける中途採用者の割合は約2割、役員ポストでは約3割」とのことであるが、それぞれこれらの比率を高いと思っているのか低いと思っているのか、低いと思うならどの程度まで高くなると妥当なのか、業界標準なども調べながらもう少しナラティブに記載した方が良い。

 「CDO(チーフ・デジタル・オフィサー)として社外の女性人材を当社の執行役員に迎え」とあるが、そもそもCDOというポストの人材要件定義をどのように行なった上で採用したのか、採用基準の概略でも良いので示したほうが、「人的資本開示」としては加点事由(アピールポイント)となるためぜひ行なった方が良い。
 ただその人材とは、元IBMの荒川朋美氏であるようなので、人選としては素晴らしい。だからこそ、どのような基準で、どのような方針で白羽の矢を立てたのかを記載しないと勿体無い。

○ 外国人人材の活躍
 海外事業会社を起点に現地ネットワークに入り込み、事業領域の拡大や新規事業の創出につなげるため、外国人人材のCxOポストをさらに拡大し、2021年度時点で40%である海外事業会社の外国人CxO比率を、2025年度までに50%超に引き上げることを目指しています。また、今後は、こうした海外事業会社の外国人トップの経験知見を、海外地域の当社グループの運営にも生かし、域内での意見交換/情報共有を通じ共創と共有を促す仕組みも構築していきます。

双日株式会社有価証券報告書(2022年3月期) p.26

 単に外国人比率を増やそうとするのではなく、
「海外事業会社を起点に現地ネットワークに入り込み、事業領域の拡大や新規事業の創出につなげるため」
「海外事業会社の外国人トップの経験知見を、海外地域の当社グループの運営にも生かし、域内での意見交換/情報共有を通じ共創と共有を促す仕組みも構築」
といった目的が明確で組織力強化に繋げているのが素晴らしい。

〔人事施策の柱②「挑戦を促す」〕

 変化が激しいこの時代に重要なことは、新たな視点によりユニークな発想を見出し、発想の実現に責任と覚悟を持つことと考え、とことんやり抜く探求心と自立心を持った社員の挑戦を促しています。未来の飛躍に向けた成長を続けるために、既存のビジネスや固定観念の枠を超えて価値創造できる人材の育成に取り組んでまいります。

○ 発想×双日 Hassojitz プロジェクト
 当社における「さらなる成長」を考え、未来構想力や戦略的思考を定着させるべく、2019年に新規事業創出プロジェクト「発想×双日プロジェクト(通称:Hassojitz プロジェクト)」を開始しました。2020年には「起業家精神」をテーマに、対象を全社員へ広げ、「やる気があれば、誰でも挑戦できる。ただし、実現までコミットする覚悟はあるか。」というコンセプトのもと実施しました。このプロジェクトでeスポーツ関連の事業を考案したチームは、将来の事業化を見据えて2021年度に事業会社を設立し、当時チームリーダーを務めた2022年4月時点で入社5年目となる社員がその事業会社の社長に就任するなど人事施策の一環として着実な成果が見え始めております。2021年は「共創力」をテーマに、将来を見据えた上で自前主義から「共創と共有」をもとにした実現確度を高めた取り組みを目指し、プロジェクトを行いました。3年間の活動を踏まえ、発想を起点とした事業創出を加速させるべく、2022年度は案件検討段階でのインキュベーション体制をより充実させる予定です。

双日株式会社有価証券報告書(2022年3月期) p.26
人材版伊藤レポート2.0 実践事例集 p.45

 このプロジェクトについても、「未来構想力や戦略的思考を定着させる」という確固たる目的があるのが素晴らしい。

○ 双日アルムナイ
 退職後も経済・社会活動を続ける当社OB/OGと当社役職員との人的ネットワークの形成・拡大により、当社のビジネス領域の拡大を促進するプラットフォームとして活用すると共に、緩やかな当社グループの形成を通じ、現状の事業領域に捉われない新たな事業機会の創出やオープンイノベーションを促進していきます。Hassojitzプロジェクト最終発表会の審査委員に双日アルムナイ幹部を招き、社外で培った知見をもとにしたフィードバックやアドバイスを得て、イノベーションの質を高めています。「退職しても双日と関わりたい」と思われる企業であり続け、外部知見を価値向上に活かしていきます。

双日株式会社有価証券報告書(2022年3月期) p.27
人材版伊藤レポート2.0 実践事例集 p.44

 流行りの「アルムナイ」についても、
「ビジネス領域の拡大を促進するプラットフォームとして活用」
「現状の事業領域に捉われない新たな事業機会の創出やオープンイノベーションを促進」
という目的が明確で素晴らしい。全てが「企業価値向上」に向いているという印象がある。

○ 独立・起業支援制度
 「独立・起業する社員を支援する制度(独立・起業支援制度)」を導入し、独立・起業を企図する社員のために当社のリソース(資金・情報・ネットワーク)を提供し、事業推進を支援します。なお、Hassojitz プロジェクトを通じて発案されたアイデアも、この制度を適用して事業化・独立・起業することが可能となります。「事業や人材を創造し続ける総合商社」として、当社は会社と独立・起業を目指す個人を含めた全社員の望むキャリアパスを支援すると共に、起業家精神を持ち積極的に挑戦し続ける人材の確保・育成、企業文化の変革を目指します。

○ 双日プロフェッショナルシェア株式会社
 これからの時代を見据え、年功序列や終身雇用という概念にとらわれず、多様な価値観やキャリア志向を持つ全ての社員が、高いモチベーションを維持し、働き続ける環境を整えています。その施策の1つが、双日プロフェッショナルシェアの設立です。35歳以上の社員の多様なキャリア・ライフプランを支援するプラットフォームで、「70歳定年」「就業時間・場所の制限なし」「副業・起業」を可能とし、社員一人ひとりが新たなキャリアパスで活躍し続けられるよう支援します。実際に、当社グループ外からの業務受託もあり、当社の経験を社会への貢献につなげる事例も出始めています。

○ デジタル人材育成
 当社では、デジタルは顧客・社会ニーズを価値創造につなげる上での大前提であり、全従業員が持つべき共通言語と位置づけています。DXを事業の変革・競争力強化を実行するための手段とし、事業モデル、人材、業務プロセス面での改革により、価値創造に貢献していきます。社内外のデータやデジタル技術を利活用することでビジネスモデルや業務プロセスの変革を実践できる人材を 「デジタル人材」と定義し、その育成に注力しています。具体的には、入門レベル、基礎レベル、応用レベルに分類し、5年以内に全社員が基礎レベルまで修了、このうち600名が応用レベルを修了することを目標に掲げています。2022年3月末時点では、入門レベルであるITパスポート試験は総合職の60%、事務職の40%が資格を取得しました。引き続き、攻め(DX)と守り(情報セキュリティ)の両輪を意識した基礎レベルコンテンツを拡充させていくと共に、応用レベルについても2022年夏に開講する予定です。

双日株式会社有価証券報告書(2022年3月期) p.27
人材版伊藤レポート2.0 実践事例集 p.44
双日株式会社 統合報告書 2022 p.63

 「事業や人材を創造し続ける総合商社」というのがあるべき総合商社の姿なのだな、と気付かされる。
 「全社員の望むキャリアパスを支援」とか「起業家精神を持ち積極的に挑戦し続ける人材の確保・育成」という「大盤振る舞い」が、結果として、周りまわってその企業を強くし、「企業文化の変革」も促進する。を目指します。他社は、従業員のキャリアについて「ケチケチ施策」(典型的には、囲い込みにつながるような視野狭窄的人材育成)しかやらないとますます人材に逃げられる(しかも、優秀人材から)ということに早く気づいた方が良い。

 「多様なキャリア・ライフプランを支援」という中で個人的に最も注目するのが「就業時間・場所の制限なし」という点だ。従業員それぞれが抱える特有の事情に配慮しない限り真の多様性の実現がありえないが、最もネックになるのが働く時間と場所の制約であると考えるからだ。できれば、「就業時間・場所の制限なし」ということに絡めて、従業員の働きぶりや成果をどのように把握、計測する工夫をしているのかも開示してほしい。
 ここで、今後に向けたインフラ面の整備には次のようなソリューションも有効だ。

 このTeamSpiritを活用することで、勤怠管理を工数ベースにて精緻に行えるため働き方の内訳が明らかになり、人の活動状況を把握できるようになる。そのため、従業員一人ひとりがイキイキと働けているか(働きがいを感じられているか)、それぞれの稼働が利益につながっているのか、等をリアルタイムに把握することができるようにもなる。ここで、「工数管理」は単なる勤怠管理と異なり、生産性向上、多様性促進にも寄与するものである、という認識を持つべきである。すなわち、働き方のスタイル、バックグラウンドや負っているものも人それぞれであるが、データの力で個別化されたケアが可能になる。働いている時間を全体として捉えるだけではなく、その内訳を精緻に把握し、主観をある程度排除して客観的に捉えることによりそれが可能となる。「働き方」の可視化を行うことにより、個々のニーズ、スタイルの尊重に繋げることができる。

 さてもう一点、「副業・起業」を可能としていることから、「当社の経験を社会への貢献につなげる」という効果にも繋がっている点も素晴らしいことだ。自社に閉じた持続可能な成長、Sustainable Performanceではなく、社会全体に目を向けていることがよくわかる。

 「デジタル人材」を「社内外のデータやデジタル技術を利活用することでビジネスモデルや業務プロセスの変革を実践できる人材」としっかりと定義していることはここでわかったが、前述の通り、「デジタル人材」の人材要件定義をスキル・コンピテンシーベースでより精緻に行い、関連する研修を修了したり実務をこなすにつれて求められるスキル・コンピテンシーがどのように身についたかを記録し、人材要件定義との合致度合い(マッチ率)を計測してデジタル領域における人材ポートフォリオ分析を行うくらいの本格的な目標設定の工夫が必要なのではないか。
 そうすると、「入門レベル」は「ITパスポート試験」の合格(資格取得)という目標設定でも良いのかもしれないが、「基礎レベル」「応用レベル」については、関連するラーニングを受講して修了テストか何かに合格するとどのようなスキルが身についたことにするか、ということを予め定義しておいた方が良い。「攻め(DX)と守り(情報セキュリティ)の両輪を意識した基礎レベルコンテンツ」とあるが、それぞれのラーニングコンテンツにも「スキルのタグづけ」を行なっておき、修了者・合格者にはそのスキルを認定してデジタルバッジを発行するのだ。
※この点、下図の通り統合報告書にはより詳細かつ最新の情報が掲載されていた。

双日株式会社 統合報告書 2022 p.65

〔人事施策の柱③「成長を実感できる」〕

 失敗を許容する風通しの良い風土の中で、社員が積極的に「挑戦」することで、「成長」を実感し、社員一人ひとりの「多様性」が育まれていく好循環が生まれています。当社では、社員自らが成長・貢献を実感できることが重要な報酬の1つと考え、社員と会社が選び合い、高め合う環境をこれからも築いていきます。

○ 指導員制度、メンター制度
 当社では、新入社員を「現場が育てる」施策として、指導員制度とメンター制度を設けております。指導員は、新入社員と同じ部署の先輩社員が務め、1年間のOJTを通じて、所属部署での業務知識や社会人としての基礎知識を指導します。メンターは、新入社員とは異なる部署のベテラン社員が担当し、業務から離れた視点で、新入社員の視野を広げ、キャリアプラン形成のサポートとなるようメンタリングを行います。

○ 海外トレーニー制度
 当社では、400社を超えるグループ会社を通じて多様なビジネスを展開しており、それぞれの事業会社の経営を担う人材の育成は重要な課題です。経営人材の育成・確保のため、海外トレーニー制度、MBAプログラムへの派遣制度、語学自己研鑽制度など、様々な研修を行っています。2021年度は20ヶ国に海外トレーニーを派遣(うち46%が女性社員)、日本とは異なる現場を早期に経験し、さらなる成長につなげていきます。

○ 研修プログラム
 当社では、自ら考え、行動し、やり抜くことで、世界を舞台に「価値を創造することのできる人材」を育成すべく、各種研修を実施しています。全ての世代・階層に提供するデジタル人材育成プログラムなどのコンテンツのほか、新入社員向けや管理職向けの研修、役員向けの研修など、それぞれの世代・階層に合わせた様々な研修コンテンツを提供し、個の成長チーム・組織の成長へつなげていく取り組みをしています。また、次世代経営幹部人材には、将来を見据えた戦略思考や行動変革につなげるため、エグゼクティブコーチングや他社とのワークショップなどの機会を設けています。このように、若年層から管理職層に対して幅広く育成機会を提供することにより、将来の経営人材層を計画的に育成していきます。

双日株式会社有価証券報告書(2022年3月期) p.28
双日株式会社の有価証券報告書(2022年3月期) p.28

 「挑戦」することで、「成長」を実感し、社員一人ひとりの「多様性」が育まれていく好循環、とあるが、それぞれの繋がり・関係性についてはもう少し丁寧な説明が必要なのではないか。闇雲に挑戦しただけで成長を実感できるわけではない。たとえ失敗に終わったとしても、新たなことに挑戦したことによりどのような具体的なスキルが新たに身についたのか、あるいは特定のスキルがレベルアップしたのか、これを可視化できるような仕組みづくりが必要だ。それらのスキルの保有状態がうまいことバラけて、いわゆる「人材ポートフォリオ」の状態が充実化することでスキルベースでの多様性が実現したことになる。

 「所属部署での業務知識や社会人としての基礎知識を指導」といったときに、指導内容が属人化し過ぎることは避けたい。そのためにも、「業務知識」や「基礎知識」はある程度精緻な「スキル・コンピテンシー」に分解して定義しておきべきだ。詰まるところ、それらは入社して一年後に目指すべき人材要件定義として機能する。これにより、誰が「指導員」の役割を務めたとしても一定水準を保った人材育成が可能になる。
 メンター制度の方は、「異なる部署のベテラン社員が担当し、業務から離れた視点で、新入社員の視野を広げ、キャリアプラン形成のサポートとなるようメンタリング」という工夫が素晴らしい。同じ部署の直属の上司だったりすると、得てしてメンタリングは業務指導のようななりがちだ。

 育成の方向性、目指すべき人材像を「価値を創造することのできる人材」としているが、そのような曖昧模糊とした表現だけでなく、スキル・コンピテンシーベースで精緻な人材要件定義を行い、その要件とされるスキル・コンピテンシーを着実に身につけさせるためのラーニングコンテンツなり研修プログラムを用意すべきだ。ラーニングコンテンツや研修ブログラムの側にもスキル・コンピテンシーの「タグ付」が必要になることは言うまでもない。それにより、「個の成長」をスキルという物差しで計測できるようになり、個の保有するスキルの集積によりチーム・組織のケイパビリティーが構成され、そのケイパビリティーの伸長度合いが「チーム・組織の成長」となるのである。このようにすれば、ある程度定量的に成果を表現できるようになる。

○ ジョブローテーション制度、社内公募制度
 当社では、管理職登用までに2つ以上の異なる業務(出向や海外駐在を含む)を経験して多様な専門知識とスキルを身に付けるジョブローテーション制度自らが思い描くキャリアを切り拓く機会としての社内公募制度など、社員の育成促進とキャリアの幅を広げる制度を導入しています。当社は、社員とキャリアプランを共有するために定期的に面談を実施するほか、異動して約半年後のタイミングでアンケートを行うなど、社員のモチベーションをモニタリングできる体制を整え、必要に応じて面談を実施しています。また、2020年度からは昇格要件として求める経験年数を短縮し、経験を積むスピードを早めています。

双日株式会社有価証券報告書(2022年3月期) p.29

 「多様な専門知識とスキルを身に付けるジョブローテーション制度」と「自らが思い描くキャリアを切り拓く機会としての社内公募制度」とを、あまり切り離さない方が良い。この表現のままだと、「ジョブローテーション制度」の方はときに本人の意向に反してでも組織の都合で行われる可能性のある従来型の制度であると読めるが、全ては「自らが思い描くキャリアを切り拓く機会として」と統一的に、一貫して考えるべきだ。「社内公募制度」を原則として、あくまでも手を挙げるのは自由、しかし異動を許可するかの判断は精緻な人材要件定義により厳格に行う。それでも思うように人の異動・配置ができなかったり、「多様な専門知識とスキルを身に付ける」という人材戦略上の不都合が生じた場合にのみ例外的に会社都合のジョブローテーションを行う、というのがあるべき姿だ。
 「社員とキャリアプランを共有するために定期的に面談を実施」という点については、もっと日常的に、普段から行われているであろう1on1ミーティングの場でほぼリアルタイムに行なっておくべきだ。
 「(キャリアに関して)社員のモチベーションをモニタリングできる体制を整え」という仕組みは非常に素晴らしいが、やはり「必要に応じて面談を実施」ではなく、もっと日常的に、普段から行われているであろう1on1ミーティングの場でほぼリアルタイムに行なっておくべきだ。
 「昇格要件として求める経験年数を短縮」とあるが、そもそも昇格要件に「経験年数」を設定していること自体、旧態依然とした仕組みという印象が強い。経験年数など、どんなに長くても当てにならない。何の基準にもならない。要件や基準として設定すべきは、その経験を通じてどのような(広義の)スキル(Knowledge, Skill, Abilityを全て含む)を身につけたか、だ。したがって、早めるべきは「経験を積むスピード」ではなく、「必要なスキルを習得するスピード」である。

 ここで、「必要なスキルを習得するスピード」を加速させるとともに、身につけたスキルを最大限に活かせるような「人材の最適配置」のために有用なソリューションとしては、下の動画にてイメージを掴んでいただきたい。

 「社員とキャリアプランを共有するために定期的に面談を実施」という場合にも、そして「人材の最適配置」を促進するためのプラットフォームとしても、いずれもこちらのentomoによって実現可能である。

〔多様な人材の活躍を支える制度〕

 当社グループの成長は社員と共にあると考え、多様な価値観やキャリア志向を持つ全ての双日パーソンが、挑戦・成長を積み重ねることで、高いモチベーションを維持しながら自律的に働き続けられる環境を整えていきます。

○ 健康経営
 当社グループにとって最大の財産である社員一人ひとりとその家族が心身共に健康であり、社員が働きやすさと働きがいを持てる健全な職場環境づくりは、会社の重要な責任の1つと考えています。社員が仕事に対する高い意欲を持ち、最大限の力を発揮することが組織力向上につながり、当社が掲げる「新たな価値と豊かな未来の創造」を実現するという考えに基づき、2018年3月に健康維持・増進に関する『双日グループ健康憲章 "Sojitz Healthy Value"』を策定しました。疾病の未然予防・健康増進に加え、仕事と治療の両立を図るべく、健康推進室の体制を強化し、各健康関連施策を実施すると共に、定期健康診断の一次受診率100%を継続しながら、早期発見・疾病予防を高めることを目指し、二次検診受診率を人材KPIとして定め、2022年3月末時点では49%まで向上しています。2022年4月からは、女性活躍推進の取り組みを健康面でも後押ししています。子宮頸がん・乳がん検診の対象を全年齢に拡大し、思わぬ疾病によりキャリアが長期に亘り中断されることを防ぎます。月経や更年期症状などによる影響を低減し、日頃から心身共に健康で安定的に力が発揮できるよう、社内に気軽に相談ができる婦人科嘱託医を配置、不妊治療に関わる相談窓口も設けています。また、外部企業と契約し、医師や専門家によるオンラインセミナーの開催や、同社が提供するサービスを通じて社員やその配偶者の不妊治療の支援も開始しました。今後も、女性社員のキャリアとライフを支援する取り組みを整えていきながら、全社員が心身健康な状態を維持し活躍し続けられる環境を整備していきます。

双日株式会社有価証券報告書(2022年3月期) p.29
双日株式会社の有価証券報告書(2022年3月期) p.29
双日株式会社の有価証券報告書(2022年3月期) p.30

 「健康経営」という一般的なタイトルであるが、その内容がどちらかというと「女性活躍推進の一環」という側面を強調する狙いがあるように読める。今回の人的資本開示全体のトーンと合わせるという意味ではその戦略は成功しているといえるが、さらに欲を言えば、「男性特有の問題についてもしっかりとケアしている」という要素を入れ込むことができればよりバランス良くなりそうだ。
 ところで、「社員が働きやすさと働きがいを持てる健全な職場環境づくり」といった場合に、対応するのは「健康」の側面だけではない。「全社員が心身健康な状態を維持し活躍し続けられる環境を整備」という表現で締めくくってしまうと、結局それは、「狭義の健康」関連施策に留まっている感が否めない。下図のように、ウェルネス・ウェルビーイング施策として4段階あるうちの、未だStep 1からStep 2に到達しようとしている段階に思える。「社員が働きやすさと働きがいを持てる健全な職場環境づくり」を真に目指すのであれば、なるべく早く「真のウェルビーイング施策」(Step 3)の段階に到達すべきであり、そのためにどのようなロードマップを描いているのか、ここも「ナラティブな説明」が求められる。ちなみに、「真のウェルビーイング施策」(Step 3)のためには「スキルの可視化」を行なって個人起点のキャリア支援を行うことが不可欠とされている。

SP総研の資料


 以上、全体を通じて「辛口なコメント」が多いという印象を持たれたかもしれないが、裏を返せば、親身になって日本企業の「人的資本開示」の支援を行なっていると自負している。
 それが、株式会社SP総研の「『人的資本開示』対応コンサルティングサービス」である。

 コンサルティングファームを始めすでに各社同様のサービスを展開していると思われるが、当社のサービスの特徴としては(おそらく日本で唯一)「スキルの可視化」の支援まで行なっていることを挙げることができる。
 仮に他社でも同様のサービスを行なっていたとしても、そのための手法として「セルフジョブ定義」を用いている点も加味すれば、「日本で唯一のサービス」といえる。

  現場主導型の、日本企業にもマッチしやすい手法を用いながら、無理のない「人的資本開示」を目指して支援している。

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