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2022年の働き方~すべての従業員を幸せにする人事変革~ ①人事のトレンド

1.まえがき

 タイトルのとおり、「人事変革」は人事部門に閉じたものでもなく、すべての従業員の働き方、その人生すべてに大きな影響を及ぼす非常に重要な取り組みである、という思いを込めて最新トレンドやホットな情報をお届けしたい。逆に、「働き方改革」は決して従業員側の自助努力のみではなしえず、人事部門あるいはもっと上のレベルの経営層がリードして具体的かつ効果的な施策を打ち出していかないことには達成できない。

2.差し迫った「人事の課題」とは

 人事部門が向き合わなければならない課題、言い換えれば、優先的に挑戦すべき事項とは何か。日本国内の特殊事情はなるべく捨象し、HRテクノロジーの普及が進む北米を中心とした世界の潮流をご紹介したい。
 前職に関連するご縁で、最適な情報収集の機会を得た。2019年2月にサンフランシスコで開催されたIBM主催のプライベートイベント、「think 2019」である。人事をテーマとしたトークセッションも数多く行われた。そこで見聞きした情報を自分なりに整理すると、日本国内に限らず世界中の人事が直面している課題は主に下記の6つである。

① エクスペリエンス(良い体験)の創出
② 人材獲得競争
③ ビジネス環境の急激な変化
④ 旧態依然とした業務プロセスからの脱却
⑤ コスト意識の高まり
⑥ 自動化による効率化

① エクスペリエンス(良い体験)の創出

 「我が国は他の先進国に比べて労働生産性が低い」などと言われているが、生産性を落とす最大の要因はジョブ(職務)と人材のミスマッチである。このミスマッチをなくすためには採用時に手立てを講じることが最も効果的であり、ミスマッチをなくすことは「応募者体験」の向上にもつながる。
 また、入社後の従業員の人材育成の観点からは、「スキルギャップ」(現在の職務に求められるスキルと、その人材が保有しているスキルとの差)を見える化した上で、そのギャップを埋めることにより従業員は常に結果を出しやすくなるため、結果的に「従業員体験」も向上することになる。

② 人材獲得競争

 上記①は、優秀な人材を獲得・維持するためには不可欠とされている。
 「応募者体験」を高いレベルで提供できる企業は、応募者自身にとってその企業で活躍できるイメージを描きやすく、それが志望順位の高さにもつながるため採用競争力も高くなる。同様に、「従業員体験」を高いレベルで提供できる企業は、従業員自身がその企業で長期にわたり活躍できるイメージを描きやすく、それが人材維持(リテンション)にもつながるため、人材獲得における競争力も高くなる。

③ ビジネス環境の急激な変化

 変化の波にうまく乗ることが出来れば、誰もがDisruptor(破壊者)となることが出来る。裏を返せば、破壊者になれなければ破壊される側になるしかない
 このような状況下では、「アジャイル人事」の実践が求められる。具体的には、半期に一度、一年に一度という長いスパンでの「評価面談」を撤廃し、育成の観点での行動変容に向けた実践的なアドバイスを伴う週に一度の1on1、リアルタイムフィードバック、良き行動を即座に称え合うピア・リコグニション等の仕組みの導入を例として挙げることができる。

④ 旧態依然とした業務プロセスからの脱却

 上記③への対応にも関連するが、従来の業務プロセスも見直す必要がある。ただし、新たな業務プロセスはゼロから考え出すものではない。定評のある人事管理システム、タレントマネジメントシステムを活用することによりベストプラクティスのプロセスを実現可能である。
 それよりもさらに重要なのは、プロセスを回すだけではなく蓄積されたデータを活用して意思決定のベースとすることである。勘と経験だけに頼った人事から脱却し、「データドリブン人事」を実現するところまで含まれる。

⑤ コスト意識の高まり

 コストセンターとしての人事、「従来型の人事管理」だけの人事部門は不要と言われている。HRBP、CoE、シェアードサービス等の機能全てを併せ持った「ソリューションセンター」に進化しなければならない。より経営に近い立場で、「人」や「働き方」に関するすべての困りごと、相談ごとを一手に担うイメージである。それにより業績向上、イノベーションの創出に積極的に貢献していく新たな人事の姿が求められている。

⑥ 自動化による効率化

 労働人口の減少が確実視される中、「人を増やせないなら一人ひとりの生産性を高める必要がある」という考え方がある。RPAにより一部業務を自動化する、というのも一つの例といえる。例えば、身上異動にともなう情報の処理や勤怠情報のレポート出力を自動化することが挙げられる。また、従業員からの定型的な質問に対してAIを組み込んだChatbotによって自動回答させるというケースも増えてきている。これらは上記④にも関連する。


3.2020年以降のトレンド

 上記2.の内容とも一部重複するが、Josh Bersinによるトレンド予測も下記のように紹介された。
※筆者が依拠したのは2019年版のレポートである。2020年版のトレンド予測レポートについては後日別記事にて解説する。
(最新のトレンド予測レポートについては、こちらからダウンロード可能。)

① 新たな働き方
② ビジネス戦略としての信頼感、倫理、公平性
③ ラーニング革命
④ 従業員体験が新たな中核に
⑤ キャリアと異動:新たなジョブとスキルの出現
⑥ HR Tech Tsunami:いよいよ AI が人事に

① 新たな働き方

 2.⑥の「自動化による効率化」で記載したような様々なIT技術の活用により業務効率化が図られたとしても、人間一人ひとりの本質的な意味での労働生産性が向上したことにはならない。自動化されていない部分の仕事の効率、生産性がどうであるかは別問題である。人事に関わる方々が考えるべき「生産性向上」とは、人間一人ひとりの「働き方」を追求していくことにより初めて実現されるのである。

② ビジネス戦略としての信頼感、倫理、公平性

 これらを重視することが結果として優秀人材の惹きつけ・維持につながり、ひいてはビジネスの成長に大きく寄与する。
 具体的にどのような施策があり、どのような効果が生まれるかについては、また別の機会に議論することにしよう。

③ ラーニング革命

 エクスペリエンス向上のためにも、スキルギャップを埋めるための最適なラーニングメニューを提示することが重要とされている。
 また、「自らキャリアを切り開いていきたい」という強い願望を抱いているとされるミレニアル世代に対しては、最適なラーニングメニューや最適なポジションを、自ら考え、選択できる形で提示することが最高の支援策といえる。

④ 従業員体験が新たな中核に

 「従業員体験」の重要性については2.①に記載のとおりであるが、これをさらに向上させるためにはパーソナライズ(個別化)という要素も欠かすことができない。

⑤ キャリアと異動:新たなジョブとスキルの出現

 これまでのようなキャリアパスは、一方通行でまっすぐ上に上がるしかない「はしご」(キャリアラダー)のようなものであったが、これからの人事は「地図」(キャリアマップ)を用意して従業員が自由自在に、真横にも斜め上にも「キャリアGPS」を頼りに進んでいけるような仕組みを構築しなければならない。

⑥ HR Tech Tsunami:いよいよ AI が人事に

 上記③から⑤についてはいずれもテクノロジーの活用が必要不可欠であり、AIの活用も広がってきている。「この流れには抗しがたい」というニュアンスを出すために、英語圏の方々は「Tsunami」という言葉を使っている。


4.終わりに

3.の③から⑥については、続編記事にて「HRテクノロジーのトレンド」として詳細を紹介する。
 また全体を通じて、この記事ではエッセンスのみをお伝えした。専門用語の解説も不十分であろう。
 私が理事を務めるHRテクノロジー・コンソーシアムでは、HRリーダーのためのHRテクノロジー基礎と題して講座を実施している。また新たなシリーズとして、「HRリーダーのための個人情報保護・労働法基礎講座」も開講された。
 これらの講座の中では、各テーマに即して参加者同士がディスカッションを行い、テーマによっては具体的なアウトプット(PPT等でまとめたもの)を作成して頂くということも行っている。ぜひ記事の読者の中から多く方々が参加されることを願っている。


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