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添乗員とはという話

現役時代から、いつか添乗員という仕事のおもしろ大変エピソードを世の片隅に放り投げたいと思っていて、最近になってようやくその気力というか、やる気というか、そういう余裕が心に生まれてきたので思い立ってnoteを開設してみた。

人の日常は誰かの非日常というが、添乗員の日常とはまた結構な非日常なのではなかろうか。事件簿を作り始めたら枚挙に暇がない。事件とは言わないまでも、かなり風変わりな日々を書き起こしていこうというわけだ。

そうしたときに、果たして世のどれくらいの人が「添乗員」という職業を耳にしてぴんとくるものだろうか、少し考える。

添乗員とは

何を隠そうわたし自身が添乗員という職業につくまで、その存在すら知らなかった。多くの人には耳慣れない職業であるのではないだろうか。

そしてご存じの方も、バスガイドさんと添乗員の違いまで説明できる人は少ないのではなかろうか。というかそこまで興味をもって観察する人はかなりまれだと思うし、当人たちはもう気にしていない。

だからお客さんから親しみを込めて「(バス)ガイドさん」と呼ばれてもわたしはにこにこと応える。ガイドさんて語感かなり呼びやすいんだよな。わかる。

そもそも添乗員という単語は少し言いづらい。耳で聞いたら漢字も思い浮かばない。愛称と言ったら「ツアコンさん」なのだが、今日日ほぼ聞かない。死語だ。

ちなみにツアコンを略さず言えば「ツアーコンダクター」だ。読んで字の如くツアーを指揮する人。行程に便乗して付き添う人。添乗員とは簡単に言ったら旅行についていく人である。

バスガイドさんとの違い

じゃあ旅行についてきて何をするか? それはなんとも説明しにくい。なにもやっていないわけじゃない、だけど形容しがたい。色々すっ飛ばしてまとめてしまえば旅行に関する全般の雑用を担う裏方だ。

ここでバスガイドさんとの比較がでてくる。先に補足しておくと、どちらの職業も目にするのは主に団体での旅行の場だ。なお、一つの団体旅行で一緒に仕事をする職業としては、添乗員・運転手・バスガイドがおり、人数はバスに比例することが多い。

添乗員とバスガイドさんは業務的には明確に別物

そもそも旅行添乗を行うのに添乗員には資格がいるが、バスガイドさんには資格がいらない。

それがなんで同一視されるかと言えば、お金が多分に絡んでくる世知辛い話なのだが、最近はバスガイドさんまたは添乗員がいないバス旅行もかなり増えてきていて、添乗員がバスガイド役を担当したり、添乗資格を持ったバスガイドさんが添乗員を兼ねたりすることがあるためだ。正直バスだけならドライバーさえいれば動くのだし…。

閑話休題。ひとまず本来の業務分担は以下の通り。

バスガイドさんの仕事は明快で、こちらも読んで字の如し、ガイド役である。車窓からの景色あるいはその地にまつわるエトセトラ、あるいは観光地の歴史や見所、おいしい名物、おすすめ土産、そういうガイディングをする仕事。スタッフでいうところの表方。賑やかしとか華やかさを求められるため、女性の割合が9割9分9厘。

対して添乗員は旅行の裏方。主な業務は旅程管理、つまりスケジュール調整や、関係各所へのアポイント連絡などを担う役割。他にはチケットを購入する精算業務だとか、そういう貴重品の管理とか、およそ旅行が円滑に進むのに必要な業務全般だ。表に見える業務があまりに少ないのだが、我々だってバスの中でただ座っているわけじゃないのだ…。

そういうわけで、お客さんからすれば「何かしてる人」の印象はぬぐえないが、旅行が進んでいく裏で色々画策もとい頭をひねらせているのが添乗員という人だ。ちなみに男女比は、営業は男性7割、添乗専門員は女性7割。

残念なことにこういう実態は世に知られる機会が少ないので、創作物に登場する添乗員は旗を持ちガイド帽を被ったミニスカの制服姿で描かれる。いやそれバスガイド。

それではここで服装について対比してみよう。分かりやすく女性添乗員を比較対照とする。

スカートを履いているのがバスガイドさん、パンツスーツなのが添乗員

時々スカートを履いた女性添乗員もいるが、大抵入社したての新人さんだ。なぜなら添乗員は走るのだ。とにかく走る。走るまでいかずともかなりの距離を歩くのでスカートなんてすぐ破れるわけだ。添乗員にとってスーツと鞄と靴は消耗品である。

バスガイドさんは基本的にお客さんの誘導の役割も担うので、お客さんの先頭を歩いていく。バスガイドさんが走るときはすなわち緊急事態のことが多いので、我々としてはあまり見たくない光景だ。ガイドさんたちは優雅に微笑んでてほしい…

旗は添乗員も持つ。大概社名とロゴの入った社旗で、団体の先頭を示すのに便利だから支給される。しかしバスガイドさんも旗を持っていることがある。こちらも添乗員のとは別な社名が入っているか、番号が印字された旗のどちらかだろう。

ここで意外と知られていない事実がまたある。添乗員とバスガイドさんは所属している会社が違う。一部、東京名物黄色のバスとか、例外はあるが、多くの場合両者の関係は取引先である。

バスガイドさんはバス会社の所属、添乗員は旅行会社に所属している

多くの旅行会社はバス部門を所有しておらず、団体旅行に用いられるバスは関係機関と契約を結んで手配されている。このため旅行会社主催の募集ツアーなどは、実は旅行会社A所属の添乗員と、バス会社B所属の運転手、バスガイドというような構成で成り立っていたりする。このあたりはお客さんと雑談して明かしたりすると、驚かれる確率がかなり高い。

ひとつの旅行会社が契約を結んでいるバス会社は多岐に渡り、各社に所属している添乗員(またはバスガイドさんや運転手さん)も何十人~何百人といて、添乗専門員であれば仕事は会社から割り振られるので選べるものではない。そこで添乗員とバスガイドさん(運転手さん)が朝の集合場所で「はじめまして」なんてことは日常茶飯事となるわけだ。

添乗員は究極の接客業と言われることもあるが、つまりコミュニケーション能力が物を言う仕事であり、根っからコミュ障のわたしは毎日SAN値直葬の憂鬱な日々を過ごしたものだ。よく6年も続いたな…

それと、※個人差があります という注釈が必要だが、こんな区別の仕方もある。

地元特化型がバスガイドさん、比して添乗員は全国各地・世界各国どこでも出向く

大都市圏などを除いて、バスガイドさんは基本的にはよそから来たお客さんへ地元を案内する。東京駅から新幹線で移動して、バスは新幹線を降りたところから乗るのでその地域のバス会社と契約を結んでいるというわけだ。地方のベテランガイドさんでもその地域以外の観光地をよく知らないことはざらにある。

添乗員はお客さんの集合場所からアテンド業務を行うので、大抵集合場所付近の支社所属の添乗員が、お客さんとともに旅行に付き添う。時々、我々はその地方に住んでいてお客さんたちを迎えに集合場所まで来ていると思われているが、その観光地に詳しいのは勉強しているからですよ…。

そういうわけで、添乗員は行けと言われたら地球の裏側にだって付いていく。バスガイドさんが狭く深い知識とすれば、添乗員は広く浅くの知識となる。理想としたら広く深くであるわけだが、さすがに6年ぽっちじゃ行ける範囲に限りがあるし、実は添乗員は忙しいし肉体労働なので勉強の時間が追い付かなくても仕方なくない??(逆ギレ)

とはいえわたしは国内添乗専門で、一応47都道府県制覇はしている(ような気がする)。勿論得意な観光地とそうでないところの差はあるし、まだまだ行っていない名所がたくさんあるので、今こんな情勢じゃなければ色々旅行したくて仕方ない。

だけど沖縄に行って帰ってきた翌日に山陰地方で雪に降られ、その次の添乗で北海道に行かされるとなると、なんというか陰謀を疑っても仕方ない。見事に風邪を引いて次の添乗で高級旅館に泊まれるはずだったのに休まざるを得ず、家で寝込んだことは忘れられない思い出である…。

終わりに

さてつらつらと書き連ねてきたが、添乗員という生物について1ミリ程度は伝えられただろうか。勿論具体的な業務例を挙げたわけではないので、旅行会社に所属している旅行についてくる人程度の認識が得られれば御の字だ。次回以降は、こんな感じの人が旅行中に経験した事件簿を思い出せれば書いていこうと思う。

コロナ禍が収束に向かい、また気軽で無邪気に旅行や食事、様々な娯楽が楽しめる日が少しでも早く訪れることを祈りつつ、今回のnoteはここまで。

長々とお付き合いいただいた方、ありがとうございました。


トップ写真撮影地:奥入瀬渓流(青森県)

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