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ソマティックワーク入門 第九回 臨床瞑想法 大下大圓さん(理論編01)

健康とウェルビーイングの一歩先を求めて−−。
今、こころとからだの健やかさの質を高める、
マインドフルネス瞑想やボディワークなどが人気を呼んでいます。
からだの感覚に注目し、
心身が心地よい状態へとフォーカスすることで、
深い気づきや静けさを得たり、
自己肯定力や自己決定力といった心身の豊かさを育んだりしていく。
これらは、
こころとからだのつながりを目指す
「ソマティックワーク」という新しいフレームワークです。
その手法は、タッチやダンス/ムーブメントなど多岐にわたり、
1人で行うワークから、ペアやグループで行うワークもあり、
自分に向くものはそれぞれ異なります。
この連載では、
これからの時代を生きる私たちにとって、知っておくべき「からだのリベラルアーツ(一般教養)」として、各ワークの賢人たちの半生とともに
「ソマティックワーク」が持つ新しい身体知を紹介し、
それらが個々の人生や健康の質をどう変化させたのかを探っていきます。

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Image: iStock

リベラルアーツ(一般教養)として学ぶ

ソマティックワーク入門

−新しい身体知の世界をめぐる−
第九回 「救い」という原点に戻る瞑想を
臨床瞑想法 大下大圓さん(理論編01)

取材・文●半澤絹子取材・文●半澤絹子
写真協力●飛騨千光寺
写真協力●飛騨千光寺
取材協力●日本ソマティック心理学協会

ソマティックワークには、最新の神経学研究によって生まれたアプローチなどのほか、伝統的な行によるワークも多数あります。

「瞑想」はその代表的な存在。「心身一如」を目指すソマティックワークとしてもっとも基本的なものといえるでしょう。

今回ご紹介する「臨床瞑想法」は、世界各国の瞑想法を体系化し、初心者でも瞑想に取り組めるようにした手法です。

飛騨千光寺の大下大圓(だいえん)御住職に、臨床瞑想法を開発されたきっかけや、瞑想が人の健康に与える効果などについてお話しいただきました。

大圓新-印刷用

大下大圓先生(プロフィールは文末にあります)


病院でのスピリチュアルケアとして瞑想を使う

どんな時代も、人は困難と共に生きてきた。

コロナ禍の2021年現在だけでなく、天災や戦争など、幾多の苦難を乗り越えて人は歴史を紡いできた。その中で、仏教やキリスト教を始めとする世界中の宗教は、人々が苦しみを受容し、よりよく生き、そして死んでいくために寄り添ってきた。

瞑想は、祈りとともに多くの宗教で活用されてきた最も根源的なツールである。

その歴史は紀元前13世紀に遡り、当時のインドの聖典にすでに瞑想法について記述がされているほど、古い。座禅やヴィパッサナー瞑想、サマタ瞑想等、世界中で多種多様な瞑想法が確立されている。また、イスラム教の「黙想」や「観想」など瞑想の要素をもつ修行法も多く存在する。

昨今、マインドフルネス瞑想が脚光を浴び、瞑想は「身体や仕事のパフォーマンスアップのためのツール」と認識されることもあるが、本来は「救い」や「悟り」を目的に用いられてきたものである。

今回紹介する臨床瞑想法は、世界中の瞑想を体系化して、「救い」のツールとして実践できるようにしたものである。一人で行うこともできるが、主にメンタルケアやスピリチュアルケア(主に終末期患者を対象にした身体・心・魂の包括的なケア)のために行うことを目的としている。そのため、臨床瞑想法の指導者養成講座には、医師や看護師、福祉関係者の参加が多い(一般の方の参加も歓迎)。

救いーースピリチュアルケアという目的で世界中の瞑想を体系化したこのメソッドは、一体どのようなものなのだろうか。

まずは、大下大圓さんが瞑想と出会った経緯をお伝えしたい。

瞑想の心地よさを体感して探求を始める

大下大圓さんが瞑想に出会ったのは、出家して飛騨千光寺に入った12歳の頃。

初めての瞑想は、新米の坊主にとっては非常に辛いものだったという。

「当時の千光寺の住職に『座禅をするから』と呼ばれて初めて瞑想を行ったのですが、とても苦しくてね。背筋を伸ばしなさい、足はこう組みなさい、目はこちらを向けなさいなど、ああしろこうしろと言われて。正直、『こんなことをしなきゃいけないのか』と思ったものです」(大下さん)

座禅中に足などが痛くなり、瞑想に集中できないというのはよくある話である。

しかしその後、高野山大学に進学し、仏教や密教の行として「瑜伽業(ゆがぎょう)」などを始めとする瞑想的な修行をさらに行うようになると、「やはり瞑想は重要なものだ」と感じるようになった。

そして大下さんは、24歳の頃にスリランカへ。一度は瞑想の原点を学ぶ必要があると考えたのである。

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