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詩集「アンプル」 収録作品(一部)

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処女詩集「アンプル」に収録した作品の一部を掲載しています。
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#ノスタルジー

「ノスタルジー」

ノスタルジーは簡単に人を殺せるんだ。
今ここにいて、昔自分がいた場所がある。

ぼくは一旦、現在を全部捨てて
過去を吐き出すために彼女を連れ出した。
ぼくが昔、根城にしていたお化け屋敷に。

ぼくはまるで
一週間飲み続けた後の早朝の様に
吐き出し続けた。
彼女だって負けなかった。

お母さんのこと、
お父さんのこと、
栗のこと、
杉の木から飛び散る胞子のこと、
上から見つめた犬のこと、

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「暮れの色は水色の」

目に見えない
その羽ばたきに焦がれる。
今日はもうあの川縁さえ
霞むようで、
ランプに灯したはずの火の
行方を探すこともやめてしまった。

ぼくがシオカラトンボだったなら。
どんな明日もやさしいはずだった。
黄色い花園を忘れることはなかった。

ぼくは時を捨て、
機械を拾う。

窓辺にとまった
キミには目もくれず。