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興亡 潮流と電流~名も奇抜なる瀬戸内海横断電力株式会社(5)

兵どもが夢の跡に,送電鉄塔在りて……

才賀藤吉と新井栄吉を首領とする電気事業経営をめぐる興亡。

芸予の海の先達“武装した海運業者”として“その成立の当初から事業経営者であった”村上水軍の当主であれば,はたして如何なる経営の舵取りをしたのであろうか。
園尾隆司氏は“村上水軍の経営哲学”として“3つの命題”を論じる。

< 第1命題「牽制と連携」>
「牽制」は「征服」や「淘汰」に対置される言葉であり,「連携」は「支配」や「同化」に対置される言葉である。

3島村上水軍のその後を見ると,支配・隷従・腐敗を避けつつ統一体を保っており,それを支える哲学が牽制と連携であると感じさせられる。

これに対置されるのが,欧米諸国の祖に当たるローマ帝国のローマ法による支配である。(中略)この体制下では,形成された組織が安住することを避け,活力を保持させる手段は,自由競争による淘汰である。牽制と連携により共存を図る村上水軍哲学とは対照的である。

今治海事クラスターを構成する伯方島の企業には,小規模なものが比較的多く,それが連携して力を発揮しているといわれる。これは,1390年ごろ以来,3島村上水軍を形成し,牽制しつつ連携していく思想の下に事業を営んできた伝統によるものと思われる。

< 第2命題「常に浮き沈みに備えよ」>
浮き沈みに備えるに際して,最も大きな役割を果たすのでが「小を束ねて大となす」という手法である。

事業の1点に資源を集中させてしまうのでなく,海運業と石油業の組合せ,海運業と農業の組合せ,事業と地域貢献の組合せ,その他の幅広い組合せの中で,浮き沈みに備える浮力を蓄えるのである。

「足るを知る」(中略)伯方島では,海運会社の社長が少なくないが,仮に会社が儲かっていても,外車を買うことはしないという。(中略)世界的海運会社を牽引する国際海運会社の社長と四輪駆動の国産軽トラックの間に違和感がないことは,浮き沈みに備える上で必要な要素であり,これが浮き沈みに備える力の源であると感じさせられる。

債権者がタイミングによっては債務者に転ずるということを予想することである。この債権者と債務者の相互流動性が,債務者の再生の努力に理解を示す日本型債権者の特別な行動様式を作り上げているように思われる。これは世界に類例がない。

説得の努力と失敗者に対する理解,更生への援助の姿勢は,日本に本来的に根付いている考え方である。これらは,浮き沈み,すなわち,立場の相互流動性の理解に基づいて生まれる哲学であり,思想であるといえよう。この日本独自の哲学は,「欧米では」「諸外国では」という明治維新以来の使い古されたキャッチフレーズにより浸食されつつある。しかし,物事に対処するに際して,歴史や風土の上に築かれてきた日本固有のものについての理解が欠かせない。この問題を考えるについて,村上水軍哲学は一つの有用な検討材料を提供しているといえよう。

< 第3命題「自らの依って立つ地を活力の源とせよ」>
3島村上水軍は,能島・因島・来島と分れ,それぞれを育んだ島を活力の源としている。それは先祖伝来の地というにとどまらず,その地を思い,その地で事業を興し,人を育て,そこを本拠として外に向かうのである。自らの依って立つ地の力を活力の源としているがゆえに,判断の基準が明白で,目標を見失わない。

この第3命題に関して,園尾氏は“伯方島レジェンドゴルフ場”計画を耳にする。

伯方島インター近くに,海を見渡す日当たりの良い丘がある。この地に伯方島レジェンドゴルフ場の計画があると聞いて興味をそそられた。計画を主導するのは伯方島の二人の自治会長である。


公費を注ぎ込んだ地域活性化計画に基づく造成作業と見た。そうすると,地場の土建業者にカネを落とす整地作業のはずである。

しかし,この点について質問した園尾氏に対する回答は以下の通りで,想定の範囲を超えていたとのこと。

「息子に事業を譲った70歳以上の島の者が自前のショベルカーを使うて整地しよんよ」

会社や仕事を次代後継者に譲った「レジェンド」が労力を提供して,島の皆が利用するゴルフ場を作り,子供たちが遊べるツリーハウスを作るものだという。(中略)「これはいわゆる地方活性化事業とは違う」,それが私の第一印象であった。

園尾氏は,“口外無用”の秘話を知ることとなる。
“地方活性化事業のノウハウに満ちた話である。読者の方々も,ぜひ口外しないよう”にとの断りつきで,伯方島レジェンドたちの“ノウハウ”を明かしてくれる。

「ツリーハウスのあるトムソーヤの丘からゴルフ場まで滑車ジップラインで下りられるようにワイヤーを張った。途中,農業用のため池の上を通るんで,冒険気分を盛り上げるために,この池にワニを飼うてはどうかと考えた。ため池を管理する県の担当者が視察に来たんでそう説明したら,それは絶対にやめてくれェいわれた」

「この池は,古くからあるため池で,人が落ちると危ないけん,柵を作るようにいうとるんじゃが,管理する県のほうでなかなか動かん。それで88歳になるレジェンドに頼んで,今度,そこに落ちてもらうことにした。若い者が落ちても県は動かんじゃろうが,年寄りが落ちると,動くかもしれん。爺さんとは話がついとる」

そもそもレジェンドゴルフ場計画を策定した経緯は,外国資本による用地取得の話が持ち上がったことによる。先手を打って地権者にレジェンド計画を話し,土地を売却しないように手配した。
園尾氏は,伯方島のレジェンドたちに,時代の潮流を経て受け継がれてきた“村上水軍の経営哲学”の神髄をみる。

地方には,売ろうとしても買い手が見つからない農地・山林が多い。その存在に目をつけて,外国資本等が跋扈し,これに伴って現れる開発業者は,歴史・風土に無頓着である。その開発が歴史と風土を破壊し,それが過疎にさらに拍車をかける。

しかし,このようなマイナスの動きに抗する動きもある。(中略)レジェンドゴルフ場は,その先端を行く企画である。それは,地方から起こった計画であり,地方と風土への想いと地域の夢を骨格に持ち,自由な発想で企画され,自在な展開を遂げていく。

依って立つ地に夢を描き,自在に展開する経営哲学「自らの依って立つ地を活力の源とせよ」を地方活性化に向けての締めくくりの言葉としたい。

「村上水軍 その真実の歴史と経営哲学」

芸予諸島の未来にまばゆい灯がともる。(終わり)


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