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【医師論文解説】話題の地中海食 糖尿病にはこのスパイス!?【OA】

【背景】
 2型糖尿病の有病率は過去40年で飛躍的に増加し、現在では世界中で4億6000万人以上が罹患していると推定されています。2型糖尿病は、インスリン抵抗性と膵β細胞機能障害が主な要因で、遺伝的素因と生活習慣の両方が発症リスクに関与します。食事は生活習慣の中でも特に重要な改善ポイントとされ、地中海食は健康的な食事パターンとして注目されてきました。
 地中海食は、オリーブオイルを主な脂質源とし、全粒穀物、豆類、ナッツ類、野菜、果物を中心に、魚介類やチーズなども適量摂取する食事です。赤肉の摂取は控えめで、ワインの適量飲酒も含まれます。地中海食は健康寿命の延伸や心血管疾患リスクの低下に有効であることが示されており、PREDIMEDスタディではさらに、地中海食が2型糖尿病発症リスクを低下させることも明らかになりました。このように地中海食は、肥満や2型糖尿病などの生活習慣病の予防に期待が持たれています。
 地中海食では、さまざまなハーブやスパイスも利用されており、これらには生理活性物質が多く含まれています。しかし、これらのハーブ・スパイスが実際に2型糖尿病患者の血糖コントロールにどの程度寄与するのか、体系的な評価はこれまでになされていませんでした。

【方法】
 本研究では、地中海食に用いられるブラックカーミン、クローブ、パセリ、サフラン、タイム、ショウガ、ブラックペッパー、ローズマリー、ターメリック、バジル、オレガノ、シナモンの12種類のハーブ・スパイスについて、2型糖尿病患者の血糖プロファイルに対する影響を体系的にレビューしました。
 PubMed、Web of Science、Scopusの3つの主要データベースから関連する介入研究を検索し、対象は2型糖尿病成人患者、介入はこれらのハーブ・スパイス補充、アウトカムは空腹時血糖値、HbA1c、インスリン値のいずれかのデータが報告されている研究とし、システマティックレビューの対象文献を選定しました。最終的に77件の論文がレビュー対象に含められました。
 続いて定量的メタ分析では、プラセボ対照のあるランダム化比較試験のみを対象に、各ハーブ・スパイス補充の血糖プロファイルに対する効果を統合評価しました。45件の論文からデータを抽出し、加重平均値の差と95%信頼区間を算出しました。

【結果】
 システマティックレビューの77件の研究のうち、定量的メタ分析に含まれた45件から以下の結果が得られました。
 まず空腹時血糖値については、シナモン、ターメリック、ショウガ、ブラックカーミン、サフランの5種類のハーブ・スパイスで有意な改善効果が認められました。中でもブラックカーミン補充で最も顕著な低下(27mg/dL)が見られ、次いでシナモン(18mg/dL低下)、ショウガ(17mg/dL低下)と続きました。
 HbA1cに関してはショウガとブラックカーミンのみで有意な改善が認められ、ショウガで0.56%、ブラックカーミンで0.41%の低下がありました。
 インスリン値については、シナモンとショウガで有意な低下が見られました。
 以上の結果から、ショウガは空腹時血糖、HbA1c、インスリン値の全ての指標で有意な改善効果を示した唯一のハーブであることが分かりました。
 一方、クローブ、パセリ、タイム、ブラックペッパー、ローズマリー、バジル、オレガノについては、2型糖尿病患者への影響を評価できる研究が極めて少なく、メタ分析の対象から除外されました。

【論点】
 本研究では、地中海食で利用されるさまざまなハーブ・スパイスについて、体系的でまた定量的な評価を行いました。その結果、シナモン、ターメリック、ショウガ、ブラックカーミン、サフランの5種類が、2型糖尿病患者の血糖コントロールに有益である可能性が示されました。特にショウガは、空腹時血糖、HbA1c、インスリンの全ての指標を改善する唯一のハーブとして注目に値します。
 しかしながら、ショウガを含め、各ハーブ・スパイスの至適投与量やその機序については、さらなる研究が求められます。また、本研究で解析した論文の大半は、患者の体重変化や併用薬、生活習慣の違いなどの交絡因子をあまり考慮していないという限界もあります。
 今回の知見は予備的なものですが、ハーブ・スパイスを上手に取り入れた地中海食は、既存の薬物療法に加えて2型糖尿病の食事療法としての役割が期待できる可能性を示唆しています。特にショウガは、治療薬への応用が最も有望と考えられます。

【結論】
 本システマティックレビューとメタ分析により、地中海食に用いられるシナモン、ターメリック、ショウガ、ブラックカーミン、サフランの5種類のハーブ・スパイスが、2型糖尿病患者の血糖プロファイルの改善に一定の効果を示すことが明らかになりました。中でもショウガは空腹時血糖、HbA1c、インスリン値の全ての指標で有意な改善をもたらす唯一のハーブであり、治療への応用が最も有望視されます。
 ただし、各ハーブ・スパイスの投与量や作用機序、副作用などの詳細については更なる研究が必要不可欠です。また、単に補充するだけでなく、ハーブ・スパイスを取り入れた地中海食全体としてのアプローチも重要と考えられます。

【議論】
 今回の知見は、2型糖尿病の食事療法において、ハーブ・スパイスを上手に活用することの重要性を示しています。特にショウガには、既存の薬物療法を補完する新たな治療オプションとして期待がかかります。
 しかし、ハーブ・スパイスの効果を最大限に発揮させるには、至適投与量や生物学的利用能、安全性などについて、さらなる大規模な臨床試験が必要不可欠です。また、ハーブ・スパイスを単独で摂取するだけでなく、地中海食全体としてのバランスの良い食事パターンを採り入れることが肝心です。
 将来的には、ハーブ・スパイスを機能性食品や医薬品として開発し、メタボリックシンドロームや2型糖尿病をはじめとする生活習慣病の予防や治療に役立てていく可能性も考えられます。食事から薬へとつながるトランスレーショナルリサーチの面でも、本研究はその端緒を拓いたと言えるでしょう。
 健康長寿社会を実現するには、革新的な治療法の開発と同時に、食を通した予防医学的なアプローチが重要です。本研究は、伝統的な地中海食から着想を得た、2型糖尿病に対する新たな食品機能性素材の可能性を示しただけに留まりません。生活習慣の改善を通して、疾病の予防と治療の両面でイノベーションを起こす重要な一歩となることが期待されます。

【参考文献】
Garza MC, Pérez-Calahorra S, Rodrigo-Carbó C, Sánchez-Calavera MA, Jarauta E, Mateo-Gallego R, Gracia-Rubio I, Lamiquiz-Moneo I. Effect of Aromatic Herbs and Spices Present in the Mediterranean Diet on the Glycemic Profile in Type 2 Diabetes Subjects: A Systematic Review and Meta-Analysis. Nutrients. 2024; 16(6):756. https://doi.org/10.3390/nu16060756

【所感】
 生薬として漢方に多く含まれる生姜はやはり身体に対する影響が強いですね。今回は検査値をOutcomeとしたものですので、実際に糖尿病合併症を減らすかどうかという点は非常に気になるものです。

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