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【医師論文解説】認知症リスク3.8倍!? 口臭が脳に与えるの衝撃の結果 日本人1500人を11年追跡調査して判明【OA】

背景: 認知症は世界的な高齢化に伴い増加しており、2050年には1億5280万人に達すると予測されています。口腔の健康状態と認知症リスクの関連性については、これまでにも歯の喪失や歯周病と認知症の関係が報告されてきました。口臭は社会的交流に影響を与える可能性があり、社会的孤立は認知症の潜在的リスク因子の1つとして挙げられています。しかし、口臭と認知症の関連を直接調査した研究はこれまでありませんでした。

方法: 本研究は、日本の秋田県横手市で行われた日本多目的コホート研究(JPHC Study)の一部として実施されました。2005年から2006年にかけて、56歳から75歳の1,493人を対象に歯科検診と自己報告式調査を実施しました。口臭は歯科医師による官能検査で評価し、「なし」「軽度」「重度」の3段階で分類しました。

追跡期間は2006年1月から2016年12月までの11年間で、認知症の発症は介護保険制度の認定記録を用いて判定しました。Cox比例ハザードモデルを用いてハザード比(HR)を算出し、逆確率重み付け(IPW)Coxモデルによる感度分析も実施しました。欠損データに対しては多重代入法を適用しました。

結果:

  1. 参加者の平均年齢は65.6歳(標準偏差5.8)で、53.6%が女性でした。

  2. 追跡期間中(平均7.54年、中央値8.23年)に96人(6.4%)が認知症を発症しました。

  3. 認知症発症率(1000人年あたり):

    • 全体: 6.29

    • 口臭なし: 6.59

    • 軽度の口臭: 5.08

    • 重度の口臭: 22.41

  4. 多変量調整Cox比例ハザードモデルによる結果: 口臭なしと比較して、重度の口臭がある人は認知症発症のハザード比が3.80倍(95%信頼区間: 1.54-9.37)高くなりました。

  5. IPW Coxモデルによる結果: 口臭なしと比較して、重度の口臭がある人の認知症発症の限界ハザード比は4.44倍(95%信頼区間: 1.20-16.44)でした。

  6. E値分析: 多変量CoxモデルのE値は7.1(95%信頼区間: 4.6-9.5)、IPW Coxモデルのe値は8.4(95%信頼区間: 6.7-10.0)でした。これは、観察された関連性を説明するには非常に強い未測定の交絡因子が必要であることを示唆しています。

論点:

  1. 口臭と認知症の関連メカニズムとして、社会的孤立の媒介が考えられます。口臭は社会的交流を妨げ、社会的孤立は認知症リスクを高める可能性があります。

  2. 歯周病や歯周病菌(特にPorphyromonas gingivalis)も、口臭と認知症を結びつける別の経路である可能性があります。

  3. 本研究の強みは、11年間の長期追跡期間、口臭に着目した新しい視点、歯科医師による客観的な口臭評価にあります。

  4. 限界としては、口臭測定の標準化の不足、交絡因子の時間的変化の考慮不足、逆の因果関係の可能性、重度の口臭を持つ参加者数の少なさなどが挙げられます。

結論: 口臭、特に重度の口臭と認知症発症リスクの間に有意な関連が見られました。この関連性は様々な交絡因子を調整した後も持続し、異なる統計手法でも一貫性が確認されました。

文献:Ho, Duc Sy Minh et al. “Association Between Oral Malodor and Dementia: An 11-Year Follow-Up Study in Japan.” Journal of Alzheimer's disease reports vol. 8,1 805-816. 17 May. 2024, doi:10.3233/ADR-240015IPW

Inverse Probability Weighting Coxモデル:

観察研究における因果推論の手法の一つです。この方法は、交絡因子の影響を調整するために用いられ、特に複雑な交絡構造がある場合に有効です。

IPW Coxモデルの主な特徴と利点:

  1. 疑似母集団の作成: IPWは、各参加者に重みを付けることで、曝露群と非曝露群の間で交絡因子の分布が類似した「疑似母集団」を作り出します。

  2. 限界効果の推定: この方法では、全人口における平均治療効果(ATE: Average Treatment Effect)に相当する限界ハザード比を推定します。

  3. 交絡調整の柔軟性: 多数の交絡因子や、交絡因子間の複雑な関係を柔軟に調整できます。

  4. 欠損データへの対応: 特定の仮定の下で、欠損データがある場合でも有効な推定が可能です。

  5. 感度分析としての役割: 通常の多変量調整モデルと比較することで、結果の頑健性を確認できます。

本研究では、IPW Coxモデルを用いることで、通常の多変量調整Coxモデルとは異なる視点から口臭と認知症の関連を評価し、結果の信頼性を高めています。両モデルで同様の傾向が確認されたことは、この関連性の頑健性を示唆しています。

所感:

本研究は、口腔衛生と認知機能の関連性に新たな視点を提供しています。口臭という、これまであまり注目されてこなかった要因に焦点を当てた点が斬新です。特に、社会的交流の観点から口臭と認知症のつながりを考察している点が興味深いです。

ただし、重度の口臭を持つ参加者数が少ないことや、口臭評価の標準化不足など、いくつかの方法論的な課題も存在します。また、口臭と認知症の関連メカニズムについては、さらなる研究が必要です。

それでもなお、この研究結果は口腔衛生の重要性を再確認するものであり、認知症予防の観点からも口腔ケアの意義を示唆しています。今後は、より大規模なサンプルでの検証や、口臭改善介入が認知症リスク低減に寄与するかどうかを調査する介入研究などが期待されます。

また、歯科医療と認知症予防の連携強化の必要性も示唆されており、学際的なアプローチの重要性を再認識させる研究だと言えるでしょう。

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