見出し画像

【医師論文解説】認知症を予防する最新ライフハック!? これを食べろ!【Open】

背景: 近年の医療技術の進歩により、疾病構造が急性疾患から認知症などの慢性疾患へと移行しています。そのため、疾患の発症だけでなく、健康寿命への影響を評価する必要性が高まっています。アルツハイマー病(AD)は認知症の約60%を占め、65歳以上で13%、85歳以上で45%の発症率となっています。食事と認知機能低下のリスクとの関連が指摘されており、世界保健機関(WHO)は認知症予防のために栄養のバランスのとれた食事を推奨しています。

方法: 本研究では、日本の国民健康・栄養調査と世界疾病負担研究データを用いて、1990年から2019年までの30年間のデータを分析しました。分析対象は60代と70代以上の男女です。アウトカム指標として、WHO等が採用しているAD障害調整生存年数(AD-DALY)率を用いました。これは認知症による生存年数の損失と障害による影響を示す指標です。相関分析と重回帰分析を行い、たんぱく質摂取量とAD-DALY率との関連を評価しました。さらに、たんぱく質摂取量を変化させた際のAD-DALY率の変化をシミュレーションしました。

結果:

  1. AD-DALY率は、全ての性別・年齢群でエネルギー摂取量やたんぱく質摂取量と有意な負の相関を示しました。

  2. 重回帰分析モデルでは、女性において、たんぱく質摂取量の増加はAD-DALY率の低下と有意に関連していました。

  3. シミュレーションでは、たんぱく質摂取量を1.5g/kg/日まで増やすと、2019年と比べてAD-DALY率が5〜9%低下する可能性が示唆されました。

  4. 動物性たんぱく質と植物性たんぱく質の摂取量とAD-DALY率の関連は、性別や年齢群によって異なっていました。

論点:

  1. たんぱく質の摂取増加は、AD-DALY率の低下、つまり健康寿命の延伸に寄与する可能性があります。

  2. 適切な動物性・植物性たんぱく質の組み合わせは、性別や年齢によって異なる可能性があります。

  3. 本研究では、個人データではなく集団平均値を用いているため、個人差を正確に評価できていない可能性があります。

  4. 運動習慣や飲酒習慣、他の栄養素の摂取量など、他の潜在的な交絡因子を考慮できていない可能性があります。

結論: 本研究の結果から、たんぱく質摂取量の増加、特に高齢者におけるサルコペニア予防の範囲内(1.0-1.5g/kg/日)での増加は、AD-DALY率の低下、すなわち健康寿命の延伸に寄与する可能性が示唆されました。ただし、動植物性たんぱく質の適切な組み合わせは性別や年齢によって異なる可能性があり、今後さらなる検討が必要です。

文献:Fujiwara, Kazuki et al. “Analysis of the Association between Protein Intake and Disability-Adjusted Life Year Rates for Alzheimer's Disease in Japanese Aged over 60.” Nutrients vol. 16,8 1221. 19 Apr. 2024, doi:10.3390/nu16081221

イベント案内

この記事は後日、Med J Salonというニコ生とVRCのイベントで取り上げられ、修正されます。良かったらお誘いあわせの上、お越しください。

お願い

私たちの活動は、皆様からの温かいご支援なしには成り立ちません。よりよい社会を実現するため、活動を継続していくことができるよう、ご協力を賜れば幸いです。ご支援いただける方は、ページ下部のサポート欄からお力添えをお願いいたします。また、メンバーシップもご用意しております。みなさまのお力が、多くの人々の笑顔を生む原動力となるよう、邁進してまいります。

所感:本研究はアルツハイマー病を含む認知症対策において、極めて重要な知見を提供するものです。従来の研究では、食事やライフスタイル因子と認知機能低下のリスクとの関連は示唆されていたものの、疫学データを用いた大規模な検証はなされていませんでした。

DALYという指標の活用により、発症リスクだけでなく、認知症による生存年数の損失と障害による影響を総合的に捉えられたことは、本研究の大きな強みです。

興味深い点として、たんぱく質摂取量の増加が女性におけるアルツハイマー病DALYの低下と有意に関連していたこと、動物性と植物性たんぱく質の影響が性別や年齢で異なる可能性が示唆されたことが挙げられます。この知見は、認知症予防における個別最適化された栄養管理への手がかりとなり得るでしょう。

一方で、本研究が集団平均値に基づくデータ解析であり、個人レベルでの詳細な解析やその他の交絡因子の影響は考慮されていない点が限界です。しかしながら、今回の研究成果を足がかりとして、さらなる前向き介入研究などによる検証が重ねられることで、エビデンスは高まっていくことが期待されます。

食生活は認知症の修飾可能な危険因子であり、本研究は予防法確立への大きな一里塔となりました。今後、動物実験などによる分子機序解明と併せて、個別化栄養管理に基づく認知症予防法の構築が待たれます。

よろしければサポートをお願いいたします。 活動の充実にあなたの力をいただきたいのです。