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【医師論文解説】従来の10倍効く!? VRとゲンタマイシンが切り開くめまいリハビリの新時代【OA】


背景:

前庭神経鞘腫は良性の頭蓋内腫瘍で、聴神経の前庭部分を形成するシュワン細胞から発生します。

その切除手術後、患者は急性の片側性前庭機能喪失を経験し、中枢性代償過程が始まります。リハビリテーションの目標は、この過程を支援し、生活の質を回復することです。本研究は、従来の術後前庭リハビリテーションプログラムと比較して、(i)術前の鼓室内ゲンタマイシン投与によるプレハビリテーションと、(ii)術後の仮想現実(VR)を用いた3次元視運動刺激の効果を比較することを目的としています。

方法:

この前向き単施設研究では、2020年1月から2023年6月の間に前庭神経鞘腫切除術を受けた67人の連続患者(女性40人、平均年齢52±12歳)を対象としました。患者は3グループに分けられました:

  1. 鼓室内ゲンタマイシン群(ITGG): 15人

  2. 仮想現実群(VRG): 26人

  3. 対照群(CG): 26人

ITGGは術前6〜8週間前にゲンタマイシンの鼓室内投与を受け、その後自宅での前庭トレーニングを指導されました。VRGは術後10日間、1日30分のVRによる視運動刺激を7セッション受けました。全ての患者は、術後2日目から理学療法士の監督下で患者ごとにカスタマイズされた前庭トレーニングプログラムを実施しました。

評価は以下のタイミングで行われました:

  • 介入前(時点1)

  • 手術直前(ITGG のみ、時点2)

  • 退院時(時点3)

  • 3ヶ月後のフォローアップ(時点4)

評価項目には、ビデオ眼振検査(VNG)、温度刺激検査、ビデオ頭部衝動検査(vHIT)、頸部前庭誘発筋電位(cVEMP)などの客観的検査と、めまい障害指数(DHI)、Penn音響神経腫生活の質尺度(Quality of life scale、PANQOL)などの主観的質問票が含まれました。

結果:

  1. プレハビリテーション(ITGG)の効果:

    • 全ての半規管で角度前庭眼反射(aVOR)利得の有意な低下(p < 0.050)

    • 温度刺激検査での一側性弱化の増加(p = 0.026)

    • cVEMP反応の消失(p = 0.017)

    • DHIの身体的サブスケールでCGと比較して有意に良好なスコア(p = 0.034)

  2. 仮想現実(VRG)の効果:

    • 長期フォローアップでDHIが対照群と比較して有意に改善(p = 0.039)

    • DHIの機能的サブスケールでCGと比較して有意に良好なスコア(p = 0.026)

    • 複雑な視覚・聴覚刺激に対する感受性の改善(院内質問票の質問7、p = 0.002)

  3. 視運動検査結果:

    • 40度/秒の速度で、ITGGとVRG両群が長期フォローアップ時にCGより高い緩徐相速度を示した

  4. その他の結果:

    • vHITは長期フォローアップにおける視運動刺激やプレハビリテーションの効果評価には適していないことが示唆された

    • ITGGとVRGでは、非手術側の外側半規管のvHIT利得とDHIやその他の主観的指標との間に相関が見られた

議論:

本研究は、ゲンタマイシンによるプレハビリテーションと術後のVR刺激が、前庭神経鞘腫切除後の患者のめまい感覚の主観的改善に寄与することを示しました。ゲンタマイシンによる化学的前庭破壊は安全で効果的な手順ですが、聴力温存を意図する手術症例には適していません。一方、VRには潜在的な副作用がありませんでした。

研究の限界として、比較的小さなコホートサイズが挙げられ、これにより一部のエンドポイントで統計的有意性の閾値に達しなかった可能性があります。また、全患者のランダム化が行われなかったことも限界点です。

結論:

ゲンタマイシンによるプレハビリテーションと術後のVR刺激は、前庭神経鞘腫切除後の患者のめまいに対する主観的認識を改善することが確認されました。ゲンタマイシンによる術前の化学的破壊は安全で効果的ですが、聴力温存を意図する手術症例には適していません。VRには潜在的な副作用がありませんでした。今後の研究課題として、VRリハビリテーションの機能的かつ複合的な影響を客観的に示すテストの開発が挙げられます。

文献:Bonaventurová, Markéta et al. “The comparison between intratympanic gentamicin prehabilitation and postoperative virtual reality exposure to standard vestibular training in patients with vestibular schwannoma.” European archives of oto-rhino-laryngology : official journal of the European Federation of Oto-Rhino-Laryngological Societies (EUFOS) : affiliated with the German Society for Oto-Rhino-Laryngology - Head and Neck Surgery, 10.1007/s00405-024-08891-8. 10 Aug. 2024, doi:10.1007/s00405-024-08891-8

この記事は後日、Med J Salonというニコ生とVRCのイベントで取り上げられ、修正されます。

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角度前庭眼反射(aVOR)

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