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【医師論文解説】マイクロプラスチックが心臓病のリスクを4倍に!?衝撃の研究結果【Abstのみ】

背景

プラスチックは20世紀に入って合成が始まり、現代社会に不可欠な素材となっている。しかし、プラスチック製品の生産、使用、廃棄の過程で、微小なプラスチック破片(マイクロプラスチック・ナノプラスチック=MNP)が環境中に放出されている。特に海洋環境では、プランクトンを初めとした多くの生物がMNPを体内に取り込んでいることが明らかになっている。

MNPが生物に取り込まれると、物理的刺激や化学物質の溶出により細胞毒性や酸化ストレスを引き起こす可能性がある。実際に、マウスを用いた動物実験では、MNPの暴露により脂質異常症、動脈硬化、心筋梗塞のリスクが上昇することが報告されている。しかし、ヒトにおけるMNPと心血管疾患の関連は不明であった。

方法

本研究では、無症候性の頸動脈狭窄症で頸動脈内膜剥離術(CEA)を受けた患者304人を対象とした。CEAで摘出された頸動脈プラークを種々の分析手法を用いてMNPの検出を行った。

具体的には、熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析法によりプラスチック種類とその量を測定し、さらに安定同位体分析により炭素や窒素の同位体比からMNPの起源を特定した。また、電子顕微鏡観察により、プラーク中のMNPの形状や局在を可視化した。

プラーク中の炎症状態は、酵素免疫測定法でサイトカインやケモカインなどの炎症性タンパク質を、免疫組織化学的手法でマクロファージの浸潤を評価した。

主要評価項目は、プラーク中にMNPが検出された患者群と検出されなかった患者群の、心筋梗塞、脳卒中、全死因死亡の複合エンドポイントを比較することとした。追跡期間は平均33.7ヶ月であった。

結果

257人のデータが解析された結果、150人(58.4%)のプラークからポリエチレンが平均21.7μg/mg、31人(12.1%)からポリ塩化ビニルが平均5.2μg/mgで検出された。

電子顕微鏡観察では、プラーク中のマクロファージ内部や細片状に散在する不規則な形状の異物が確認された。一部の異物にはエネルギー分散型X線分析で塩素が検出され、ポリ塩化ビニル由来と考えられた。

炎症マーカーの解析では、MNP陽性群でマクロファージ浸潤が有意に多く、IL-1β、TNF-α、MCP-1などの炎症性タンパク質も高値であった。

追跡期間中に、MNP陽性群で36人(心筋梗塞16人、脳卒中18人、死亡7人)、MNP陰性群で10人(心筋梗塞5人、脳卒中4人、死亡1人)が主要評価項目に該当した。MNP陽性群はMNP陰性群と比較してハザード比4.53(95%CI 2.00-10.27)と有意な予後不良であった。

論点

本研究は世界で初めて、ヒトのプラーク病変におけるMNPの存在と、それに伴う心血管イベントリスク上昇を疫学的に実証した。今後、MNPが動脈硬化を促進しイベントリスクを高める分子機構の解明が課題となる。

結論

頸動脈プラーク内にMNPが検出された患者は、MNP非検出患者に比べて約4.5倍の心筋梗塞、脳卒中、全死因死亡のリスク増加が認められた。本研究結果より、MNPが新たな環境由来の心血管危険因子である可能性が示唆された。今後、MNPの暴露を減らす対策と、MNPによる心血管障害の分子機構解明が必要不可欠である。

引用文献
Marfella, Raffaele et al. “Microplastics and Nanoplastics in Atheromas and Cardiovascular Events.” The New England journal of medicine vol. 390,10 (2024): 900-910. doi:10.1056/NEJMoa2309822

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所感
心血管疾患の新たなリスク因子となる可能性は示されました。しかし、その分子メカニズムはまだ不明です。今後、疾患発症に至るプロセスを細胞・分子レベルで解明することが不可欠です。そうでなければ、適切な予防や治療法を講じることはできません。

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