見出し画像

【医師論文解説】食事で変わる未来!タンパク質摂取で認知症リスクが劇的に低下!?その秘密とは

背景: 高齢化社会において、アルツハイマー病(AD)は大きな社会問題となっています。ADの予防や健康寿命の延伸において、栄養摂取の役割が注目されています。特にタンパク質摂取とADリスクの関連性について、これまでの研究結果は一貫していませんでした。また、疾病負荷を評価する指標として障害調整生命年(DALY)が用いられるようになってきましたが、タンパク質摂取とAD-DALYの関連を調査した研究はありませんでした。

方法: 本研究では、1990年から2019年までの30年間の日本のデータを用いて、タンパク質摂取とAD-DALYの関連を分析しました。具体的には以下のデータを使用しました:

  1. Global Burden of Disease Studyのデータセットから、60代と70歳以上の男女のAD-DALY率と社会人口統計指数(SDI)を取得。

  2. 国民健康・栄養調査の公開データベースから、60代と70歳以上の男女の体重、エネルギー摂取量、総タンパク質、動物性タンパク質、植物性タンパク質の摂取量の平均値を取得。

これらのデータを用いて、以下の分析を行いました:

  1. 単変量解析:各変数の平均値、標準偏差、相関係数を算出。

  2. 重回帰分析:2つのモデルを構築。

    • モデルI:総タンパク質摂取量を独立変数として含む。

    • モデルII:動物性タンパク質と植物性タンパク質の摂取量を独立変数として含む。

  3. モデルベースのシミュレーション:開発した重回帰モデルを用いて、タンパク質摂取量の変動がAD-DALY率に与える影響をシミュレーション。

結果:

  1. 単変量解析の結果:

    • AD-DALY率は60代より70歳以上で高く、同年代では男性より女性で高かった。

    • AD-DALY率はSDIと有意な正の相関を示した。

    • エネルギー摂取量、総タンパク質、動物性タンパク質、植物性タンパク質摂取量はAD-DALY率と有意な負の相関を示した(相関係数 -0.473 〜 -0.891, p < 0.001)。

    • これらの相関は70歳以上よりも60代で強かった。

  2. 重回帰分析の結果: モデルI(総タンパク質):

    • 全ての性別・年齢群でタンパク質摂取量の偏回帰係数は負の値を示した。

    • 女性では有意な関連が見られた(60代: p = 0.017, 70歳以上: p = 0.002)。

    • 男性では傾向のみが観察された(60代: p = 0.078, 70歳以上: p = 0.057)。

    • 70歳以上の女性で最も強い関連が見られ、タンパク質摂取量が0.1 g/kg/day増加するとAD-DALY率が418.062減少した。

  3. シミュレーション結果: モデルIを用いたシミュレーション:

    • 2019年の実際のタンパク質摂取量から1.5 g/kg/dayまで増加させると、全ての性別・年齢群でAD-DALY率が約5-9%低下した。

論点:

  1. タンパク質摂取量とAD-DALY率の負の相関は、先行研究で示されたタンパク質摂取と認知機能低下リスク減少の関連と一致する。

  2. タンパク質摂取がAD-DALY率に直接影響するか、筋力増強を介して間接的に影響するかは不明。

  3. タンパク質摂取量とAD-DALY率の関係は非線形である可能性があり、過剰摂取のリスクも考慮する必要がある。

  4. 動物性・植物性タンパク質の効果の違いは、ベースラインのタンパク質摂取量や、タンパク質源の種類によって異なる可能性がある。

  5. 性別・年齢群による結果の違いは、ADの有病率やタンパク質摂取量の実際の違いを反映している可能性がある。

結論: 本研究は、日本の公開データセットを用いて、人口平均のタンパク質摂取量とAD-DALY率の関連を分析しました。その結果、特に女性において、高いタンパク質摂取量がより低いAD-DALY率と関連していることが示されました。シミュレーションでは、タンパク質摂取量を1.5 g/kg/dayまで増加させることで、2019年と比較してAD-DALY率が5-9%低下する可能性が示されました。ただし、動物性・植物性タンパク質の効果は性別や年齢群によって異なることも明らかになりました。

論文:Fujiwara, Kazuki et al. “Analysis of the Association between Protein Intake and Disability-Adjusted Life Year Rates for Alzheimer's Disease in Japanese Aged over 60.” Nutrients vol. 16,8 1221. 19 Apr. 2024, doi:10.3390/nu16081221

イベント案内

この記事は後日、Med J Salonというニコ生とVRCのイベントで取り上げられ、修正されます。良かったらお誘いあわせの上、お越しください。

お願い

私たちの活動は、皆様からの温かいご支援なしには成り立ちません。よりよい社会を実現するため、活動を継続していくことができるよう、ご協力を賜れば幸いです。ご支援いただける方は、ページ下部のサポート欄からお力添えをお願いいたします。また、メンバーシップもご用意しております。みなさまのお力が、多くの人々の笑顔を生む原動力となるよう、邁進してまいります。

所感:

本研究は、タンパク質摂取とアルツハイマー病による健康寿命損失の関連を、長期的な公開データを用いて包括的に分析した点で非常に価値があります。特に、DALYという指標を用いることで、疾患の発症リスクだけでなく、健康寿命への影響を評価できた点が革新的です。

しかし、いくつかの限界点も存在します。まず、個人データではなく人口平均データを使用しているため、個人差を適切に評価できていない可能性があります。また、運動習慣や飲酒習慣、脂質摂取量など、ADのリスク因子として知られる他の要因を考慮していない点も課題です。さらに、横断的な分析であるため、因果関係を断定することはできません。

今後の研究では、個人レベルのデータを用いた縦断的研究や、他の栄養素や生活習慣を含めた包括的な分析が必要でしょう。また、タンパク質の質(アミノ酸組成など)や、タンパク質源の詳細な分類(例:乳製品、魚、肉、豆類など)による影響の違いも調査する価値があります。

最後に、この研究結果は日本の高齢者を対象としたものであり、他の人種や文化圏での一般化には注意が必要です。しかし、高齢化が進む世界各国にとって、非常に示唆に富む研究結果であると言えるでしょう。

よろしければサポートをお願いいたします。 活動の充実にあなたの力をいただきたいのです。