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【医師論文解説】ゼロカロリーの落とし穴:キシリトールと心臓病リスクの意外な関係【Abst.】

背景: 心血管疾患のリスク要因は完全には解明されていません。低カロリー甘味料は広く使用されている砂糖代替品で、健康上の利点があると考えられてきました。多くの低カロリー甘味料は糖アルコールであり、体内でも生成されますが、その量は甘味料として摂取する量の1000分の1以下です。この研究は、キシリトールという特定の糖アルコールが心血管疾患リスクに与える影響を調査しました。

方法:

  1. 発見コホート(n=1157): 選択的心臓診断評価を受ける安定した患者の一晩絶食後の血漿サンプルを用いて、非標的メタボロミクス研究を実施。

  2. 検証コホート(n=2149): 独立した、重複のないコホートで、安定同位体希釈液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC-MS/MS)を実施。

  3. 補完的研究: ヒト血小板、多血小板血漿、全血、および動物モデルを用いて、キシリトールが血小板反応性および生体内血栓形成に与える影響を調査。

  4. 介入研究(n=10): 健康なボランティアにおいて、キシリトール摂取が血小板機能に与える影響を評価。

結果:

  1. 発見コホートでの非標的メタボロミクス研究:

    • キシリトールと推定されるポリオールの循環レベルが、3年間の主要心血管イベント(MACE)リスクと関連していることが判明。

  2. 検証コホートでのLC-MS/MS分析:

    • キシリトール特異的な分析により、MACEリスクとの関連が確認された。

    • 第3三分位vs第1三分位の調整ハザード比: 1.57 (95%信頼区間: 1.12–2.21), P < .01

  3. メカニズム研究:

    • キシリトールは、絶食時の血漿レベルで観察される濃度で、複数の血小板反応性指標を増強。

    • 生体内での血栓形成も促進。

  4. 介入研究:

    • キシリトール入り飲料の摂取により、全被験者において血漿中キシリトールレベルが顕著に上昇。

    • 複数の血小板反応性の機能指標が増強。

論点:

  1. キシリトールと心血管イベントリスクの関連性

  2. キシリトールが血小板機能と血栓形成に与える影響

  3. 一般的に安全とされてきた低カロリー甘味料の潜在的リスク

  4. 食品添加物としてのキシリトールの安全性再評価の必要性

結論:

  1. キシリトールは主要心血管イベント(MACE)リスクと関連している。

  2. キシリトールは血小板反応性を高め、生体内での血栓形成ポテンシャルを増強する。

  3. キシリトールの心血管安全性についてさらなる研究が必要である。

文献:Witkowski, Marco et al. “Xylitol is prothrombotic and associated with cardiovascular risk.” European heart journal, ehae244. 6 Jun. 2024, doi:10.1093/eurheartj/ehae244

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所感:

この研究は、一般的に安全と考えられてきた低カロリー甘味料であるキシリトールの潜在的な心血管リスクを示唆する重要な知見を提供しています。特に注目すべきは、疫学的関連性だけでなく、血小板機能と血栓形成に対する直接的な影響を示す機械論的証拠を提示している点です。

この結果は、食品添加物の安全性評価において、長期的な心血管影響を考慮することの重要性を強調しています。また、「低カロリー」イコール「健康的」という単純化された認識に警鐘を鳴らしています。

しかし、この研究結果を一般化する前に、さらなる大規模かつ長期的な研究が必要です。また、キシリトールの摂取量と心血管リスクの用量依存性関係や、他の要因(食生活全般、運動習慣など)との相互作用についても調査が必要でしょう。

最後に、この研究は栄養学と心血管医学の接点に新たな視点を提供し、予防医学における食品成分の役割をより深く理解する必要性を示唆しています。医療従事者は、患者に対して甘味料の過剰摂取に注意を促すと同時に、バランスの取れた食生活の重要性を強調すべきでしょう。

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