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【医師論文解説】2型糖尿病治療、併用はどれがいい?【Open】

背景: 2型糖尿病の治療では、食事療法・運動療法に加えて経口血糖降下薬の投与が行われます。一次治療薬としてはメトホルミンが最も広く使用されていますが、単独では血糖コントロールが不十分な場合には、二次治療薬を追加する必要があります。二次治療薬として従来からSU薬が用いられてきましたが、近年ではDPP-4阻害薬やSGLT-2阻害薬という新しい薬剤が登場しました。英国のNICEガイドラインでは、心血管疾患の既往や高リスクのある2型糖尿病患者に対してはメトホルミンにSGLT-2阻害薬を併用することを推奨していますが、そうでない患者については、SU薬、DPP-4阻害薬、SGLT-2阻害薬のいずれを選択してもよいとされています。しかし、これら3剤の相対的な有効性を直接比較した大規模な臨床試験はなく、実臨床下での比較エビデンスが不足していました。

方法: 本研究では、イングランドの一般医療データ(臨床データ、入院データ、死亡データが連結されたデータベース)を用いて、2015年から2021年にメトホルミンに加えてSU薬、DPP-4阻害薬、SGLT-2阻害薬のいずれかを新たに処方された2型糖尿病患者75,739人を対象に、それらの薬剤の比較効果を評価しました。主要評価項目は処方開始1年後のHbA1c変化量とし、副次評価項目はBMI、収縮期血圧、推定糸球体濾過量(eGFR)の変化、心血管イベント(心筋梗塞、脳卒中など)、腎イベント(eGFRの40%以上低下など)、全死因死亡などとしました。交絡因子を減らすため、処方傾向を用いた手法的変数分析を行い、欠損データには多重代入法を用いました。

結果: SU薬を処方された患者は25,693人(33.9%)、DPP-4阻害薬は34,464人(45.5%)、SGLT-2阻害薬は15,582人(20.6%)でした。SGLT-2阻害薬群は他の2群に比べて年齢が若く、合併症が少ない傾向にありました。1年後のHbA1c変化量は、手法的変数分析で交絡を調整した結果、SGLT-2阻害薬はSU薬より2.5mmol/mol、DPP-4阻害薬より3.2mmol/molの低下がより大きい結果となりました。BMIと収縮期血圧の変化量についても、SGLT-2阻害薬が他の2剤より有意に良好でした。一方、eGFRの変化に関してはSU薬との差は見られたものの、DPP-4阻害薬との差は不明確でした。心血管イベントや全死因死亡に有意差はありませんでしたが、心不全入院リスクはSGLT-2阻害薬がDPP-4阻害薬より低く、eGFRが40%以上低下するリスクはSU薬より低い結果でした。

論点: 本研究では、これまであまり比較エビデンスのなかった2型糖尿病患者におけるSU薬、DPP-4阻害薬、SGLT-2阻害薬の三剤の比較効果を、実臨床データから評価しました。交絡因子を減らす工夫として手法的変数分析を用いた点が重要です。結果として、SGLT-2阻害薬がHbA1cや代謝関連の有効性指標で優れていることが示されました。ただし、長期的な臨床イベントの発現抑制効果については不明確な部分が残り、費用対効果など経済的側面の検討も必要とされます。また、GLP-1受容体作動薬なども含めた、より広範な経口薬の比較エビデンスの構築が求められます。

結論: 本大規模実臨床データに基づく研究により、2型糖尿病患者の二次経口治療薬としては、SGLT-2阻害薬がSU薬やDPP-4阻害薬に比べて、HbA1cをはじめとする代謝指標の改善に優れ、心不全入院リスクの低下や腎機能低下抑制にも有効である可能性が示されました。しかし、心血管イベントなどの硬末点においては明確な違いは見られませんでした。SGLT-2阻害薬の長期的なベネフィットを確認し、費用対効果等を検討する必要があります。

所感: この種の実世界データを活用した解析は極めて重要である。

参考文献: Bidulka, Patrick et al. “Comparative effectiveness of second line oral antidiabetic treatments among people with type 2 diabetes mellitus: emulation of a target trial using routinely collected health data.” BMJ (Clinical research ed.) vol. 385 e077097. 8 May. 2024, doi:10.1136/bmj-2023-077097

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