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【医師論文解説】片頭痛の新常識!? カフェインは実は...【Abst.済】


【背景】

片頭痛は片頭痛発作の周期的な出現を特徴とする神経学的疾患です。

発作の引き金となる要因を特定し、それを避けることが予防対策の一つとされています。中でもカフェインは、広く知られた片頭痛の誘発物質の一つです。カフェインは血管を収縮させる作用があり、さらに過剰摂取後の離脱症状として起こる血管拡張が、片頭痛の発症に関与すると考えられてきました。そのため、臨床現場では片頭痛患者に対し、コーヒーや紅茶、コーラなどのカフェイン飲料の摂取制限を推奨してきました。

しかし、これまでのカフェイン摂取と片頭痛発作との関連を検証した研究は少数に限られ、しかも対象者数が小規模なものが多く、確証に乏しいのが実情でした。そこで本研究では、比較的大規模な前向きコホート研究により、慢性的なカフェイン摂取パターンと頭痛発作との関連を包括的に検証することを目的としました。

【方法】

2016年3月から2017年8月の期間に、片頭痛と診断された101人の成人患者を対象に研究が行われました。まず参加者全員に、食生活などに関する質問票に回答してもらい、それに含まれるカフェイン飲料(コーヒー、紅茶、コーラなど)の1日当たりの平均的な摂取量を確認しました。

その後、参加者には6週間にわたり、朝夕2回の電子日記に、その日の頭痛の有無、発症した場合の持続時間(時間)、痛みの最大強度(0〜100の視覚アナログスケール)を記録してもらいました。電子日記のデータから、1人あたりの月間平均頭痛日数、1回あたりの平均持続時間、平均痛み強度が算出されました。

最終的に97人分のデータが解析に使用され、ベースラインで報告されたカフェイン摂取量(なし、1-2杯/日、3-4杯/日の3群)と頭痛発作の指標との関連が検討されました。解析では、年齢、性別、経口避妊薬の使用といった交絡因子を調整しています。

【結果】

カフェインを全く摂取しない群(20人)の調整済み月間平均頭痛日数は7.1日(95%信頼区間5.1-9.2日)でした。一方、1-2杯/日のカフェイン摂取群(65人)は7.4日(同6.1-8.7日)、3-4杯/日の多量摂取群(12人)は5.9日(同3.3-8.4日)と、3群間で頭痛日数に有意な違いは認められませんでした。

同様に、1回の頭痛発作あたりの平均持続時間も、カフェイン非摂取群で8.6時間(95%信頼区間3.8-13.3時間)、1-2杯/日群で8.5時間(同5.5-11.5時間)、3-4杯/日群で8.8時間(同2.3-14.9時間)と群間差はありませんでした。

さらに、頭痛発作時の最大痛み強度についても、非摂取群で平均43.8(同37.0-50.5)、1-2杯/日群で43.1(同38.9-47.4)、3-4杯/日群で46.5(同37.8-55.3)と、カフェイン摂取量による違いは認められませんでした。ただし、これらの推定値には比較的広い信頼区間が伴っていました。

【論点】

本研究の結果から、成人の片頭痛患者において、カフェイン飲料の習慣的な摂取量と頭痛発作の頻度、持続時間、強度との間に関連性は認められませんでした。つまり、カフェインの摂取そのものが片頭痛発作のリスクを高めるという確かな証拠は得られなかったということです。

これまでカフェインは片頭痛の有力な誘発物質と考えられてきましたが、本研究はそうした従来の見方に一石を投じる重要な知見となりました。ただし、研究の解釈には注意が必要です。カフェインの絶対摂取量ではなく、個人の慣れ親しんだ摂取パターンから大きく外れた変動が、発作のトリガーになる可能性は残されているためです。

また、カフェインの作用機序から考えても、過剰摂取後の離脱症状が問題となる可能性があります。本研究では中程度のカフェイン摂取量までは安全と示されましたが、さらに多量の摂取が影響を及ぼすリスクは排除できません。

加えて、本研究はあくまで習慣的なカフェイン摂取パターンと頭痛発作の関係を検証したにすぎません。個々の発作が、たまたまその日のカフェイン摂取によってトリガーされた可能性は残されています。

【結論】

本研究の結果は、片頭痛の周期的な発作を起こす患者に対し、カフェイン入り飲料の全面的な避けるよう勧める根拠には乏しいことを示唆しています。ただし、それ以外の食生活や生活習慣、ストレスなど、他の発作の引き金となる要因を考慮する必要があります。

一方で、個人の普段のカフェイン摂取パターンからの大きな変動が、発作を誘発する可能性は残されています。さらに、過剰なカフェイン摂取が離脱症状を引き起こし、頭痛発作に拍車をかける恐れも否定できません。

したがって、医師は患者ごとに、適正なカフェイン摂取量を含む総合的な生活指導を行うことが求められます。今後さらなる研究により、カフェインと頭痛発作の関係の全容が明らかになることが期待されます。

【参考文献】 Mittleman, Maggie R et al. “Habitual caffeinated beverage consumption and headaches among adults with episodic migraine: A prospective cohort study.” Headache, 10.1111/head.14673. 6 Feb. 2024, doi:10.1111/head.14673

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