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レビュー『音楽入門』ゴジラ・テーマの作曲家が語る音楽

ゴジラのテーマ曲を作曲した著者による、ユニークな音楽入門!

ゴジラファンにはもちろん、音楽とはなんだろうと漠然と気になっている方や、教養として音楽について学びたい人にオススメです。

まず参考になったのが、音楽を鑑賞する上で避けるべき2つの態度。

「一つは、何かある作品に接した場合、作品そのものからくる直接的な感動とか、または、印象などよりも、その作品に関する第二義的な、いわば知識といわれるものの方をより重要だと考えることです。」

「他の一つは、たとえ、自分がある作品から直接に強烈な印象なり感動を受けたとしましても、これを決して最終的な価値判断の尺度とすることはなく、より権威があると考えられる他人の意見、いわば定評に頼ろうとする態度です。」

音楽というのは音を聞くのであって、なによりも直接的な感動が大切。

つまりは、それ以外のもの、たとえば作品の題名や他人の意見、定評、知識は二次的な情報に過ぎません。

これは、絵画を鑑賞するときにもいえると思いました。

そして、本書は音楽の形式や歴史についても触れられています。

「印象派の音楽家は、音楽芸術が本来的にもっている現象界には類例のない一種の配列感、すなわち音楽の形式感から逃れて、できるだけその対象物になんらかの意味で近づこうと試みるのです。」

「ジャズのもつ魅力は、虚無と虚無的な肉欲感と、廃退的な律動にあると見ることができるのです。それゆえに、現代の精神的な不安と、肉体的衰弱が増大するほど、この様式の音楽が力をもっていくことは、当然考え得ることなのです。」

さらには西洋の音楽史よりも長期の視点をもち、人類の歴史における音楽の位置付けが概観。

そもそも音楽には三つの要素があり、以下が該当します。

①律動:音の強弱が時間的に配列されることによって生じる拍子。

②旋律:音の高低が時間的に配列されることによって生まれる、持続した音響の流れ。歌詞のない歌のようなもの。

③和声:2つ以上の音が同時に組み合わさった時に生じる現象。

このなかで子供の時に初めて興味を持つのは律動。

ガラガラと音がなるおもちゃとかでんでん太鼓の音があたります。

そして、音楽の音源として最初に用いられたものは声音であるとし、音楽の先祖は、話しかける際の言葉の抑揚、または、言葉とは関係なく別個に発声されたなにかとのこと。

そして、この音楽の起源は、個人の主観を重視し、自我の解放をめざす「ロマン主義」を生むことにつながります。

著者の伊福部昭(いふくべ あきら)さんは、土俗的なアイヌの音楽に影響を受け、日本に根ざす作品世界を独学で追求した作曲家。

「真の美しさを発見するためには、逆説のようですが、同年代の教養と呼ばれているものを、一応、否定する位の心がまえが必要です。」 という言葉に、独学で一流の音楽家となった著者の、経験の深さを垣間みることができます。

本書では、哲学的ともいえる深い洞察とともに音楽について論じており、音楽とは形式ばったものでもなく、本来直感的なもので、音楽というものを誰でも理解し得ると説き、音楽との距離感が一気にせばまりました。

また、純粋な気持ちで音に触れるということは、人の意見や情報に左右されない、ということ。

そうした姿勢がなければ「条件反射に支配」されてしまいます。

曇りなき眼(まなこ)をもち、自分の意見をもつことは、「雑音」が多いこのご時世、とても大切なことだと思いました。


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