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元気が出ない日に

グレイの空を借景に気ままな白い綿雲が映えている。海からの風に乗って南の方へ。色々な形に変身しながらぷわりと気ままに流されていく。そして前の家の屋根にぶつかり消えていくまでの様子。その泡沫を眺めている。

グレイの空に透かされて汚れて見えるレースが縁取る南向きの窓。ななめ右を気にしないとぼやけてしまう空。やがて背中を温めた西日の熱も逃げた。

大抵の雲は、この南向きの窓を左から右へ横切っていく。今日も同じである。グレイの空の上を滑るように駆ける白い綿雲。

雲を知っている何かになぞらえるのは苦手だけど、何故だか今日はそんな気になった。髪を洗ったせいかもしれない。日の入り30分前、いつもより頭が働きそうな予感がして少し真剣になってみた。

1つ目に流れてきた雲はバランスの整った二等辺三角形。
2つ目は縮れた乾麺。これは屋根にぶつかる前に霧散してしまった。
あまりのセンスのなさに匙を投げかけた時、3つ目の雲が思わせぶりにレースの影から現れた。

(随分おっきい)

わっと広がった雲で、キャンバス地であるグレイの空が見えにくい。輪郭をとるのはやめにして、ただその姿を傍観することにした。

時として、脱力は新たな気付きをもたらすものである。
不意にその雲が銀髪の女性に見えた。目や鼻の形はなかった。ただ、瓜実顔の片側に自然と垂らされた一房の髪と、線の細い首筋まで見えた。銀色の長い髪が眩い。

グレイの空をのびのび流れる美しい雲は、胸像の如く静止したまま消えていった。

しばらくは茫然としていた。嬉しくもあり、少し怖くもあった。雲を見上げて清らかな心持ちになったのは初めてだった。

窓枠を飾るレースが洗われたみたいに煌めいている。うかうかしてる内に空の機嫌が変わったらしい。たちまち一条の光が差し込んできた。グレイの空が千切れていく。何だか奇妙だ。その向こうからベイビーブルーが覗いている。

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