見出し画像

世界でダントツ社会人が学ばない国、日本で、リカレント教育を流行らすのに必要なこと。

リカレント教育の推進は、個人的にすごく興味があって、以前よりこのテーマに関わるお仕事をさせてもらっているし、学び直しをテーマにした書籍の執筆(コレとかコレ)なんかにも精力的に取り組んでいます。で、あれこれ頑張ってはいるものの、このたびパーソル総合研究所から衝撃的な調査結果が公表され、いろいろと打ちのめされてしまったので、今回はそれについて書こうと思います。

この調査、なかなか衝撃的な内容が書かれているのですが、なかでも、とくにインパクト大なのが、日本人が勤務外での自己研鑽を他の国・地域に比べて、ダントツやっていないという調査結果です。ややでもないし、そこそこでもなく、ダントツ、です。本調査のサマリーでは、以下のように書かれていました。

自己研鑽しない日本
勤務先以外での学習や自己啓発について、日本は「特に何も行っていない」が46.3%で、14の国・地域で最も高い。2位のニュージーランドと比べて24.2ポイントも差があり、断トツで自己研鑽していない。
※パーソル総合研究所「APACの就業実態・成長意識調査(2019年)」より

で、具体的な調査結果が下記の表です。

画像1

ただ、見出しを読んだときは、日本人は他の国や地域に比べてなまけ者なのか……と思ったのですが、調査全体を見ていくと、少し印象が変わりました。もちろん、なまけ者はたくさんいると思うのですが、やっていない、イコール、やりたくない、だけではないように感じるのです。

本調査によると、日本は、出世意欲、起業・独立志向、転職意欲すべてが低く、実際に転職で年収が上がった人も最も少ないという結果が出ていました。こういう状況なのに、調査対象の14の国・地域のなかで、日本が最も高齢まで働きたいと答えているんですね。おまけに、「仕事を選ぶ上で重視すること」という質問に対して、「職場の人間関係がよいこと」という回答が、他の国・地域に比べて妙に多い。ここから見えてくるのは、上にあがっても(出世)ダメ、横にいっても(転職)ダメ。でも、生活をするには少しでも長く働かなくてはいけないから、せめてストレスの少ない環境で働きたいという、あきらめにも似た心理状況です。そうであるなら、日本人が自己研鑽をしないのは、やりたくないからではなく、やっても仕方がない(と思ってしまう)から、というのが正しいように思います。

これまで私はリカレント教育を受けた優秀な人材が増えれば、企業の認識も少しずつ変わっていくし、それによって社会人学生もいつかは増えていくだろうと思っていました。でも、今回の調査結果を見て、変わるどころか放っておくとこの比率はもっと上がっていくだろうと、悪い意味で気持ちが切り替わりました。日本の経済状況が、今から劇的に良くなるとは考えにくく、社会人はもっと疲弊していく可能性が高いからです。

そして、この認識が正しいなら、社会人に学び直しの魅力を、単に発信しているだけでは、なかなか社会人は動かないでしょう。社会人を動かしたいなら、社会人よりも、企業をはじめとした学び直した社会人を受け入れる先に情報発信する必要があります。

企業への情報発信は、学び直した社会人が優秀であるという事実をしつこく伝えたり、学習および学習成果の見える化&ブランド化したり、広報活動というより啓蒙活動に近いように思います。さらに、大学で中途採用の専門家を雇って社会人学生の就職支援をするなど、社会人学生が企業で活躍できるように具体的にサポートすることも必要なはずです。

大学がどれだけ素晴らしい学びを提供したとしても、大学には社会人学生の年収を上げる権限も、転職先として採用の可否を決める権限もありません。でもだからこそ、できることはすべてやる。それぐらいの気構えでやって、リカレント教育は“趣味”ではなく“投資”であると社会に認めさせないことには、あきらめモードの社会人に火を付けることは、なかなか難しいのではないでしょうか。これはそう簡単なことではありませんが、すべての大学にとって意味のあるテーマなので、ぜひ業界全体で取り組んでもらいたい(場合によっては、社会人教育を提供する企業と手を組んでも面白そう)。勝手にリカレント教育を推進している身として、勝手にそんなことを強く思うのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?