見出し画像

”対面の価値“の最大化は、大学キャンパスだけではなし得ない。近大が取り組む、大学街活性化策の意義を考える。

新年度に入って、学生たちがキャンパスに戻ってきました。活気のある大学の風景やざわめきはやっぱりいいもので、構内を歩いているだけで元気をもらえます。その一方で過去2年間のキャンパスがとてもイレギュラーな状況だったのだと、あらためて感じさせてもくれます。

このイレギュラーの状況は大学だけでなく、その周辺、つまり大学街にも大きな影響を与えました。今回、見つけた近畿大学の取り組みは、活気がもどった大学が、大学街の活気も取り戻そうとする取り組みです。こういうことを大学主導で行うのは、面白く、また大事なことのように思います。

今回の取り組みは、ワクチンを3回接種した近大生を対象に、近大通り連合商店街で使用できる1,000円分のクーポン券を大学が配布するというもの。Go To EatやGo To Travelなど、行政や地方自治体によるこういった施策はたびたび目にします。そういう意味では、手法としてはめずらしくないのですが、それを大学が大学街のためにやる、というのがとてもユニークです。

大学と大学街の関係性は、持ちつ持たれつではあると思いますが、そこに何かしらの義務や取り決めがあるわけではありません。そういったなかで、大学が学生たちにクーポン券を配布するというのは、かなり思い切った取り組みです。近大の学生・大学院生の総数は34,545人(令和3年5月現在)。このなかで3回目のワクチン接種が済んだ人が配布対象になるわけで、仮にそれが全体の3割だったとしても約1万人に配布することになります。これって単純計算で1000万円分です。商店街側から補助があったとしても、けっこうな額だといえます。

すごいなぁと思う反面、これは大学にとっても必要なことなのかな、という気もします。コロナ禍のリモート授業を通じて、対面の学びの価値が再認識できたという声をよく聞きます。でも、この対面の学びというのは、単に対面授業を指しているのではなく、授業やクラブ、課外活動、コンパなどなどが混在しているものであり、この混在しているもの全部をとらえて“対面の学び”なのだと思います。

学生たちは、教室で学ぶこともあれば、友だちとのおしゃべりで気づくこともあるし、居酒屋で語る先輩の話から何かを得ることもあるわけです。そう考えると、対面の学びにおける教室は、いわゆる大学の講義室だけじゃないんですね。大学街にある居酒屋やカフェも、学生にとっては学びの場であり教室なわけです。こういった“対面の価値”を最大化していくためには、キャンパスだけでなく、大学街を含め、学生たちが日々訪れる場全体に活気があることが重要なのではないでしょうか。

リモートでも学べる社会ができあがったことで、対面の価値というものを再考せずにはいられない状況になっています。リモートの価値は、大雑把に言ってしまうと、オンライン上ではあるけれど、さまざまな場所や人とつながれることです。そこには、学びの可能性がたくさん眠っています。一方、対面の価値はというと、濃密な人との関わり合いや五感を通じた理解、偶発的な出会いなどだと思います。そうであるなら、これらは大学のキャンパスでしか得られないものではありません。むしろ、より多様な人、多様な環境がまわりにある方が得られやすいはずです。

対面の価値=キャンパスの価値という視点でつい捉えがちですが、対面の価値を磨いていくなら、この枠を取り払って考える必要があるはずです。近大の思い切った取り組みも、こういった視点で考えると、巡り巡って、大学のためであり、学生たちのためなのかなという気がしてきます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?