フェリス女学院大の取り組みから考える、在学生に伝えるべき卒業生コンテンツのつくり方と届け方。
卒業生インタビューは、入試広報にとって欠かせない重要コンテンツなだけでなく、在学生にとっても価値ある情報になります。今回、見つけたフェリス女学院大学の取り組みでは、卒業生インタビューをキャリア教育に活用しているのですが、よくよく考えるとキャリア以外の面から考えても、こういう取り組みは大事なように感じました。
書籍化・有料化することで変わる価値と印象
ではまず、どのような取り組みなのかを見ていきましょう。今回の取り組みは、フェリス女学院大の就職課と特定非営利法人キャリア・エンパワメントが合同で発足した「キャリア研究会」の活動をまとめた一冊。具体的には、フェリス女学院大の卒業生4名と学生たちのZoomを使ったオンライントークを収録したもののようです。
面白いのは、単に冊子化したのではなく、オンライン出版をしているところです。オンライン出版というのは、電子書籍として販売しつつ、要望があれば印刷書籍として注文があった分だけ印刷して販売するという出版方式。これだと在庫を抱えなくていいうえ、必要であれば必要な分だけ印刷物を手に入れることができます。大学側としては、なかなか使い勝手がいいのではないでしょうか。
今回の書籍のメインターゲットはフェリス女学院大の在学生のようなのですが、在学生に情報を届けるうえで書籍化はけっこういいアプローチなのかもしれません。というのも、書籍化するとここに載っている情報は“売れる”ほどの価値がある情報なんだということを、直感的に伝えることができます。また、パンフレットであれば捨てることに抵抗感を抱かない人も多いですが、書籍だと気持ち的になかなか捨てにくくなります。
さらに良いところは、情報の中立性が担保される(ように感じられる)ところです。無料の冊子には、広告的な要素が多分に盛り込まれていることがあるし、広告でなくても何かしらの意図があって作られていることがほとんどです。冊子が作られた意図と学生のメリットが合致していたとしても、警戒して素直に受け取らない人もなかにはいるように思います(たとえば、大学のPRが目的なんでしょ?と思ってしまうとか)。こういった気持ちを抱かせないためにも、あえて有料にして、それを無料でプレゼントする、みたいな回りくどい届け方はあっていいように思いました。
卒業生の声だからこそ伝えられること
在学生に卒業生の生き様や価値観を伝えることは、キャリア教育以外の意味もあるように思います。それはインナーブランディングとしての役割です。
今回のプレスリリースには、「同書で伝えたいメッセージ」のところに下記フレーズがありました。
ものすごく極論をいってしまうと、教育機関としての大学の役目は教育理念を体現する人を育てることです。しかし、教育理念を体現するとはどういうことなのかを説明するのは非常に困難です。明文化したら、たくさんの人に違うと言われたり、陳腐に見えたり、時代や立場によって受け取り方が違っていたり……。向き合えば向き合うほど収集がつかなくなるのが、教育理念ではないかと思います。
そうであれば、明文化するのを潔くあきらめ、教育理念を体現してそうな人を取り上げることで、大学が何を目指しているのかを感じてもらう、というのは手法としてなくはない気がします。卒業生のなかには、濃く体現している人もいれば、薄くしか体現できていない人もいるでしょう。とはいえ、比較的濃いと思われる人を根気よくピックアップして伝えていけば、輪郭がじわじわと浮かび上がってくるのではないでしょうか。
卒業生インタビューに多角的な価値があるなら、なおのこそ在学生に読んでもらいたいもの。でも、実際のところは何か差し迫った理由がなければ、特定の意識の高い学生以外、あまり積極的に読まないような気がしないでもありません。読んでもらうための工夫をどうするのか、どういう視点をもつとより読み物としての栄養価が高まるのか。今回のフェリス女子学院大の取り組みには、これらを考えるうえでのヒントがあったように感じました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?