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埼玉の取り組みに学ぶ、大学の授業という“源泉掛け流し”の知的コンテンツを、どう有効活用するか。

大学とは、見ようによっては授業という名のコンテンツの集合体と捉えることもできます。そして、そうであるなら、このコンテンツの質をいかにして上げるか、また有効に活用するかが、大学の存在意義や価値と直結しているといっても、そう間違っていないのではないでしょうか。

今回は、この授業の有効活用法で面白い取り組みを見つけたので、それについて取り上げたいと思います。まずはどんな取り組みなのか、記事をご覧ください。

じゃじゃん。この取り組みは、55歳以上を対象にした「大学開放授業講座」。なんと埼玉県下の21もの大学の授業を、およそ200科目開放しているという取り組みです。大学の授業は、毎日おびただしい数が開講され、学生が真面目に受けようがそうでなかろうが、出席しようがサボろうが、消費されていきます。いわば、“知の源泉掛け流し”状態なわけです。このたゆまなく流れる知的コンテンツの活用法として、この取り組みは、なかなかステキなのではないでしょうか。

ちなみに、21大学が!200科目も!と書きましたが、授業を一般に開放している大学はものすごくたくさんあります。一般に授業を開放する制度のことを、大学では科目等履修生制度や聴講生制度と呼びます。前者と後者の違いは、単位が取得できるかできないか、試験があるかないかと言い換えることもできます。科目等履修生制度は単位の取得ができるので、資格を取得したい人なんかが利用したりしています。

では、この科目等履修生制度を実施している大学ですが、どれくらいあると思いますか?答えは、2019年度段階で662大学。なんと、全大学のおよそ87%の大学が、この制度で授業を一般開放しています(大学改革支援・学位記授与機構HPより)。先ほどの「大学開放授業講座」が21大学で約200科目を提供していましたが、662大学ともなると、どれくらいなのでしょうか。ちょっと想像がつかないくらい膨大な科目が、一般向けに提供されているはずです。

科目等履修生制度実施状況

こんなにたくさんの大学が科目を提供しているのに、科目等履修生制度がまったくといっていいほど流行っていません。その理由はいくつかあるように思っていて、まずはほとんどの大学が積極的に広報をしていない。二つ目は、平日の昼間開講が中心なので、受講できる人が限られてしまう。そして、三つ目は、あまりにも多すぎて、たとえ存在を知っていても、科目を選ぶ気になれない。知られていない、受けにくい、おまけに探すのが大変……、これで流行るわけないですよね。

「大学開放授業講座」は、実にうまくこの三つの課題を解決しています。まずは「大学開放授業講座」というタイトルをつけて、一つのエリアの複数大学が連携して取り組むことで、そのエリアの人たちに効率よく訴求することができています。さらに55歳以上という制限を設けることで、平日昼間でも受講しやすい定年退職者や子育てがひと段落した主婦がターゲットであることを明確に表現。そして、ターゲットが明確になることで、山のようにある科目のなかで、どの科目を開放するべきかの指針ができている。このように工夫してボトルネックを解消しているからこそ、14年も続く息の長い取り組みになっているんでしょう。

「大学開放授業講座」でなくても、知られていない、受けにくい、選びにくいという、3つの課題をうまく解決すれば、一般をターゲットにした大学授業の有効活用の道は拓けるように思います。たとえば、科目等履修生制度で受講できる科目を一斉検索できるポータルサイトなんかがあれば、効率的に広報ができるし、選びにくいという課題も同時に解決できます。また、複数大学の科目を組み合わせることで、特定のスキル獲得や課題解決を目的にした授業プログラムを組むこともできるのではないでしょうか。プログラムの内容がよければ、社会人であっても、多少無理してでも受講してくれるかもしれません。あと、サブスク型の聴講生制度というのも面白そう。公開講座や社会人向け有料講座とうまく連携させると、化けるかもしれません。

大学の授業を“知の源泉掛け流し”だと捉えるなら、これからより経営が難しくなる大学は、この湯量を減らすのではなく、他にも利用することで、湯量を維持、拡大させられないかと、まずは頭をひねった方がいいように思います。やはり量と質は、ある程度、比例すると思うのです。大学にとって一番の資源といえるかもしれない、授業。この有効活用は、ぜひ本気で考えていきたいですね。

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