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狙い目は「リカレント教育」と「生涯教育」の真ん中あたり?これから求められる、スキルではなく、楽しみながら知的体力を身につける社会人講座。

先月、APU学長の出口治明先生のリカレント教育についての動画が、文部科学省の公式Youtubeチャンネルに掲載されました。見よう見ようと思いながら、ずっと見られていなくて(12分程度の動画なのに!!)、やっと拝見させてもらいました。

動画内容は、出口先生らしく、エビデンスに基づいた内容で、とても説得力がありました。なかでも、日本とドイツやフランスとでは、年間労働日数を200日で考えると1日あたりの労働時間が3時間も違うという話は、なかなか衝撃的でした。日本の労働時間が長いのは、ずっと言われていますが、具体例を出して比較するとしみますね。

一方、ではないのですが、とても魅力的な動画ではあるものの、ターゲット設定がものすごくぶれており、(学び直しを考える)社会人なのか、大学等の教育機関なのか、企業なのか、誰に向けた動画なのかはっきりしないのが残念といえば残念でした。これは出口先生ではなく、問いのつくり方に問題があるのでしょうが…。

以下、動画の質問項目
(質問1)出口学長の考える学び直しの意義とは?
(質問2)コロナ禍が学び直しに与える影響とは?
(質問3)大学や専門学校は何をすべきか?
(質問4)APUのリカレント教育プログラムとは?
(質問5)学び直しを考える社会人のへのメッセージ

「リカレント教育」と「生涯教育」はどう違う?

前振りが長くなってしまったのですが、今回の話題は「リカレント教育」と「生涯教育」の取り上げ方についてです。出口先生は動画の最後で、人生100年時代、今さら勉強なんてと思わず、一生学び続けることにチャレンジして欲しいとメッセージを贈っています。このメッセージでは、学びたい社会人全般、つまり「リカレント教育」と「生涯教育」を分けずに全員に対してメッセージを発しています。

私自身これまで『定年進学のすすめ 第二の人生を充実させる大学利用法』と『50歳からの大学案内 関西編』という2冊、社会人教育をテーマにした書籍を執筆してきました。書籍執筆以外でも、社会人教育に関わる仕事をさせてもらっているので、けっこうな数の社会人学生の声を聞いています。そのなかで、「リカレント教育」と「生涯教育」は、大きく違うものだという印象を抱くようになりました。

ものすごくかいつまんで説明すると、「リカレント教育」は、その先にある自分の目標(キャリアチェンジやキャリアアップなど)を達成するための学びです。そういう意味では、この学びはプロセスでしかなく、なるべく早く、効率的に終えてしまいたいものになります。言い換えれば、トレーニングです。

一方、「生涯教育」は、それ自体が目的であり、じっくり長く取り組んでいきたいものになります。こちらは、趣味やライフワークという言葉がしっくりときそうです。取材した人のなかには、学生というより、市井の研究者といった方がいい人もいました。また、学んだことを社会に還元したいという気持ちはあっても、これを収入に直接つなげたいという人は、取材した限りではほとんどいなかったというのも印象深かったです。

社会と向き合う「リカレント教育」と、自身と向き合う「生涯教育」、二つはまったく違うもののように見えます。でも実際は、パキリと分けられるものではなく、片方の端に「リカレント教育」、もう片方の端に「生涯教育」があり、地続きになっていて、学びの質や目的がグラデーション状に変わっていくようなもののように感じています。

「リカレント教育」と「生涯教育」の真ん中あたり。

今までは両端のどちらかをターゲットに置くか、もしくは細かいことを考えずに「学びたいおとな」という全体をターゲットに置いて、メッセージの発信やコンテンツの提供がなれていたような気がします。ですが、新型コロナによって、短期間で世の中が大きく変化し、社会は不確かなものだと実感したいま、おとなの学びは、両端でも、ばっくりと全体でもなく、ちょうど真ん中あたりにニーズや意義が出てきているように感じます。

これは、日本どころか世界の動きが読めなくなってきており、これまで以上に、どんな状況になっても考えられる力が必要になってきている、ということにつながっています。極端な話、近視眼的な目的で学ぶ場合、学び終わる頃には、学んだテーマ自体が社会状況からズレているかもしれないのです。

じゃあ、つまりやるべきは、ビジネスマン向けの教養講座?といわれると、なんかちょっと違うんですよね。ビジネスマン向けの教養講座は、あくまでビジネスのためであり、バリバリの「リカレント教育」です。そうでなくて、はじめに学問への興味があって、その学問を学んでいくことが、ビジネスを含め他のシーンでも役立つ、であったり、役立てられるように工夫やヒントが盛り込まれた講座といったらいいのでしょうか。あくまで「生涯教育」と「リカレント教育」の中間……いや、どっちかというと「生涯教育」よりかもしれませんね。好きでなければ続けられないし、続けられるからこそ得られる視点があり、知的体力も鍛えられる。たとえていうなら、どのスポーツが流行るかわからないから、いっそ好きなスポーツをしながら基礎体力をつけておこう、みたいな考え方です。今後、基礎体力が絶対に必要になることがわかっているので、それならば……という感じです。

出口先生が、ご自身が大好きな「世界史」から得た知見を踏まえて、今を読み解くのは、まさにこれなのかなと思います。

とはいえ、言うはやすしで、どうつくるかは、だいぶ頭をひねる必要がありそうです。でも、おとなの学びって、きっとこういうものなんだと思うんです。まずは好き、次に役立つ。そして、好きだけでも、役立つだけでも、なかなかおとなの心には響かない。ステイホームで時間があったからか、世のおとなたちの学ぶ気運は、今年一気に高まったように感じています。少し考え方を整理して、おとなのための講座をリデザインしてみてもいいかもしれません。

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