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急がば回れの精神がリカレント教育を加速させる?ありそうでなかった金沢工業大学の「社会人共学者」が面白い。

リカレント教育や生涯教育の実施理由を、血も涙もなく区分してしまえば、営利目的か地域貢献かの二つしかないと思っていました。でも、世の中にはこの二つに当てはまらない社会人向け教育もあったのです。この切り口、内容を見てもらうと、あーそっか、あるある!と思ってもらえそうですが、主目的に据えているのはだいぶ斬新です。まず、何はともあれ取り組みを伝えるプレスリリースをご覧ください。

ご覧になりました?この取り組み、社会人が大学で学ぶという意味ではリカレント教育なのですが、主なねらいはそこじゃないんです。目的は、社会人に授業に入ってもらうことで、刺激的な教育環境をつくることなんですね。だから、社会人は受講しても費用は無料。同じように、学生たちとともに授業を受ける「科目等履修生制度」や「聴講生制度」が有料なことを考えると、内容は同じであってもねらいが違うことがよくわかります。

この「社会人共学者」のユニークなところはまだあります。受講するには、受講者本人ではなく、推薦者(企業の所属長・管理者)が申し込まなくてはいけないのです。

申し込みフォームを見てみると、必須記入項目に、推薦者の「企業名」「部署名」「役職」、受講者の「部署名」などがありました。この申込方法から伝わってくるのは、受講して欲しいのは、企業の若手(上司がいる人)だという強いメッセージです。受講者の必須記入項目に「役職」がないことや、そもそも推薦者が申し込むこと自体、日中にある大学の授業を若手社員が上司のお墨付きで受講するための仕掛けだといえます。

FireShot Capture 537 - お申し込み(社会人共学者)|金沢工業大学 - www.kanazawa-it.ac.jp

金沢工業大学 社会人共学者ページ お申し込み」より *は必須項目

さらに、おぉっ……となったのは、「受講科目一覧」です。なんと、通常の科目一覧にはない「社会人共学者に求める役割」という一列があり、それぞれの科目で社会人がどのような役割を果たして欲しいかが、ちゃんと書かれています。

FireShot Capture 538 - 機械工学分野・科目一覧(社会人共学者)|金沢工業大学 - www.kanazawa-it.ac.jp

金沢工業大学 社会人共学者ページ 授業科目一覧」より

思えば、社会人(それに留学生)と一緒に学ぶことで、教育の場に多様性が生まれ、よりよい教育環境が生まれる、というのはいろんなところで言われ続けています。でも、それってつまり、どういう人が、どういうことをしたらいいのかということは、まったく突き詰められていないんですよね。

金沢工業大学の取り組みは、社会人と一緒に学ぶことによって、よりよい教育の場をいかにして錬成するかということを、本気でやろうという気概があります。そして、リカレント教育の位置づけを、少しずらして考えることで、今までとは違う価値や可能性が出てくるんだということを示唆してくれています。

たとえば、これまでのリカレント教育は、学びたい人を受け入れるというスタンスでしたが、「社会人共学者」は、大学がお願いして授業に来てもらうというスタンスです。しかも、受講者本人ではなく、上司=会社に依頼しています。これって大学側からすると、とても営業がかけやすいように思うのです。さらにいうと、これで受講料の徴収はできないものの、これをきっかけに、有料の別講座を紹介したり、企業との共同研究の取っ掛かりにしたり、いろんな展開が見込めるように思います。

急がば回れではないですが、社会人へのアプローチに、多くの大学がやや攻めあぐねている今、ちょっと視点を変えてみるのは意外にいいのかもしれません。理由とはともあれ、何かしらのかたちで大学の学びに触れてもらえれば、興味が刺激される社会人は一定数いるはずです。金沢工業大学の取り組みは、そのためのよいヒントになるように思いました。


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