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ドブヶ丘集

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妄想虚構都市ドブヶ丘に関する記事をここにためていきます。説明書をよくお読みになり用法容量を守ってお使いください。あなたドブヶ丘に踏み入るとき、ドブヶ丘もまたあなたに侵入している。
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#短編小説

紅桜、一人待つ身の寂しさに

紅桜、一人待つ身の寂しさに

 町美峠の紅桜は葉桜になることなく年中花吹雪を降らせ続ける。

 春の頃を過ぎ、夏の日が照らしても、秋の風に吹かれても、冬の雪に晒されても、花が尽きることも木が枯れることもない。その巨大な桜がいつから立っているのか、いつから咲いているのか、短い定命のドブヶ丘の住民たちで覚えているものは少ない。

◆◆◆

「それじゃあ」
「あっ」
 おずおずと別れの言葉を口にして町見峠の麓へと振り返ったソウスケの

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ドブヶ丘風土記・プロローグ

ドブヶ丘風土記・プロローグ

ブルーシートで作られた掘っ立て小屋の通り。
バラックの家々、錆び、汚泥。
空は煤煙で曇り、水は全てドブ。
ここは日本のスモーキーマウンテン、ドブヶ丘。
東京から全ての汚濁が流れ込む、捨てられたものたちの街。

イチノセは東京からやってきた流れ者だ。
彼は舗装されていない通りを歩きながらつらつらと自分の人生を思い出す。

「人生、人生か……」

父親はクソみたいな黒魔術師。
母親はイチノセが六つの時

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