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Episode 572 治るの思考は危険です。

ひと月ほど前に、私は「パラリンピック」の効果についての記事を書きました。

その中で私は、パラアスリートの皆さんは「障害を受け入れた上でどのように自らを生かす方法を見つけるのか」を考えていると指摘しました。
自らを「障害者である」と認識し、定型・健常者と呼ばれる一般の人たちと区別した上で、できることと出来ないことを明確にして、できないことは支援者のフォローや装具で補い、できることに集中することで「自らを生かす方法」を見つけたのです。
その結果がパラリンピック出場として実った…そう思うのです。

これはパラアスリートに限った話ではなく、私のようなパッと見は一般の人と変わらないASDのような人も同じなのだ…と言うのが私の意見です。

前回のnote記事を受けて、私は Twitter にこんなツイートを投稿しました。

身体障害を持つ方の不自由や苦しみは、私のような五体満足な人にはなかなか伝わらないことも多いでしょう。
事故や病気で体が思い通りに動かない、仮にリハビリで良い状態に近づけることはできても、失われた機能を完全に取り戻すことができない場合も多いハズです。
だから良い悪いにかかわらず、必要に迫られて障害を受け入れざるを得ない状況が、当然のこととして発生するのだと思うのです。
それは、障害を持つ当事者も、その身近にいる人も…です。

その一方で身体的には一般の人と見分けがつかない私のようなASD者は、当事者もその身近なひとも、「失われた機能がある」ということを、なかなか受け入れられないように思うのです。
特に大人になるまでASDの発見と診断ができなかった私のような場合、最も大切なASDの発見よりも先に、二次障害が原因になる精神科受診を経験することも多く、先天的な障害であるが故に "Before & After" を経験することもないので、ASDは脳機能の障害であるという自覚がないことが多いのです。

ASDの二次障害は、治療により「寛解」へと向かうことで表に見える症状が改善していくことが期待できるワケで、私も私の身近な人も同じように症状が改善される様を見ているのです。
ただ残念ながら、症状が安定してくれば「治った」という勘違いも発生するのですよ…実際に私もそれを経験したのです。
ここのカラクリに気が付かないと、ASDの本質に辿り着けないまま、表面的な寛解から「不安定な定型社会への表面的な迎合」と、その疲弊からの二次障害再発を繰り返すワケです。

先ほどのツイートは、このように続きます。

前回の記事で私は、「ASD思考が悪い方向に発動したときにホイッスルを鳴らしてくれる方の意見を聞く、その関係を大事にする」ことが大事だと指摘しました。
でも…実はこれ、ASDの本質が理解できていないと本当に難しいのです。
なぜならば、ASDを含む自閉の本質は「自我のコントロールができない」だということだと私は思っているから。
あなたの「ホイッスル」で止るためには、私の自我をコントロールする必要ある…と言うことです。

ASD思考で自我のコントロールが難しい、それ故に自分の意見に忠実か、あなたの意見に従うかの二択を迫られる白黒思考が私を支配する…というのは私にとってデフォルトの仕様であり、そういう考え方がネイティブな思考パタンなのです。
この思考を止めることは、ネイティブな思考であるが故に難しい…これを完全に抑え込むことは不可能に近いと私は思うのです。

私はASDは「失われた機能がある障害者」であると認識することが必要だと思うのです。
一度、明確に障害の有無を確認する…という意味でね。

自分の弱点を知る。
「ホイッスル」が鳴った時に、そこが弱いと自ら気が付いていないなら、「ホイッスル」を無視して暴走することになるでしょう…だって、自我のコントロールができない障害に背を向けているのですから。

パラアスリートが素晴らしい活躍ができるのは、その活躍に向けた努力があるからです。
それは間違いありません。
ただ、その活躍に向けた努力が「的外れ」であったら、何の効果も出ないでしょうし、活躍もできないでしょう。
その土台にあるのが障害受容である…つまり、出来るものと出来ないものを棚卸しして出来るものを伸ばし、出来ないものをフォローしてもらうなのだろう…と。

恐らく、これが障害受容の正体です。
それは身体障害も精神障害も知的障害も変わらないのだと思うのです。
出来ないもの・苦手をしっかりと理解して、できないからどうするのかを考えることです。

この「出来ないこと」を、「できる様に振る舞う」こと「できる様に振る舞わせること」が障害の傷を深めることになる…当事者も、支援者も。
目には見えない障害に対しての、見えないが故に「治せる」方向への力が働くことは、危険だと私は思うのです。

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