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【北海道宇宙サミット2023・全文掲載】日本の宇宙戦略、日本の勝ち筋(Session1)

2023年10月12日に行われた日本最大級の宇宙ビジネスカンファレンス「北海道宇宙サミット2023」の様子をお届けします。
“宇宙を動かせ。”をテーマに3回目の開催となった今回は、日本が再び成長するための戦略や、宇宙ビジネスが私たちの生活や仕事をどのように変えていくのか、より具体的な未来像について産学官のフロントランナーたちによる議論が交わされました。

今回は、宇宙基本計画を中心に議論が繰り広げられたSession1「日本の宇宙戦略、日本の勝ち筋」の内容を全文掲載します。


登壇者
青木 英剛 氏(宇宙エバンジェリスト / 一般社団法人 Space Port Japan 共同創業者 & 理事)
石田 真康 氏(一般社団法人 SPACETIDE 代表理事兼CEO / A.T.カーニー株式会社 ディレクター)
竹上 直也 氏(文部科学省 研究開発局 宇宙開発利用課 宇宙科学技術推進企画官)
松尾 亜紀子 氏(慶応義塾大学理工学部機械工学科 教授)
山口 真吾 氏(内閣府 宇宙開発戦略推進事務局 参事官)

日本の宇宙政策が進化! 宇宙基本計画改定について

青木氏:
テーマが「日本の宇宙戦略、日本の勝ち筋」ということで、かなり大きなお題を与えられています。
本日登壇いただいている4名の方々は政府関係や政府の委員会の方々ですので、政府の立場からいろんな情報をお届けしたいと思います。

1つ目のテーマは「日本の宇宙政策が進化! 宇宙基本計画改定について」です。
日本の宇宙政策の根幹である宇宙基本計画が今年、大きく改訂されました。
内閣府の山口さんから、宇宙基本計画改定の概要についてご説明いただきます。

山口氏:
宇宙基本法が定められて今年で15年になりました。
これによって日本の宇宙政策、開発推進の体制の骨格ができたということで、ある意味節目を迎える年ではないかと考えています。
つまり、次の15年をどうするかということを、我々は考えていかねばなりません。

それから宇宙3法という法律があります。
ロケットを打上げる、人工衛星を打上げるときに、いろいろと手続きがあります。
こちらは運用開始から5、6年経ち、制度として順調に動いていますが、いくつか制度的な綻びも見えつつあります。
この点を皆さんと一緒に相談しながら変えていかなければならないと思っています。

政府の宇宙関係予算に関してです。
今年度、昨年度の補正予算も含めますと6,000億円超です。
毎年予算が右肩上がりで1,000億円弱増えています。
政府や国民も含めて、日本全体で宇宙に対する期待がますます高まっていることが分かるかと思います。

宇宙基本計画は今年6月に閣議決定されています。
今後20年の長期を見据えて、10年間の宇宙政策の方針を決めるもので、全体で41ページあります。
宇宙基本計画はぜひ目を通していただきたいです。
分量は多いのですが、非常に密度が濃いです。
一文一文意味があって書かれているので、政府や民間でどういうことをやっていくのかという道しるべになりますのでぜひお読みいただければと思います。

骨格が4つあり、 1つ目が現状分析、2つ目は目標と将来像が書かれています。
3つ目は、そのためにどのような政策を進めるのかという基本的なスタンス、つまり基本方針。最後に具体的なアプローチ、施策やプロジェクトが記載されているという構成です。

基本的なスタンス、基本方針だけをかいつまんでご紹介します。
(1)は宇宙技術の商業化と日本の勝ち筋を見据えた政策に、 政策資源を振り向けるということが書かれています。
(2)は新しい試みですが、宇宙技術戦略を今年度末までに作って公表するということが書かれています。
我が国の開発の進むべき技術を見極めて、サプライチェーンの自律性の確保も視野に入れながら技術戦略を作るということです。
(3)は同盟国との連携強化。
(4)は国際競争力を持つ企業を作って支援するということが書かれています。
国際市場で勝ち残っていく強い意志を持っている企業を重点的に育成し、支援するということが書かれてます。
つまり、宇宙技術戦略を作った後、それに基づいて企業にその研究開発投資の支援をするという流れです。
最後の(5)は、その中でJAXAの機能強化と役割が重要になってきます。 JAXAの戦略的かつ弾力的な資金供給機能を強化することが書かれています。
私は宇宙輸送やロケットの担当ですので、宇宙政策委員会の小委員会で、松尾委員長の下、こういった将来像を描きながら、技術戦略を作っていくという議論を進めております。

これは2030年代の宇宙輸送の将来像です。
まだ未定稿ですが、いずれ公表したいと思っています。
ロケットを飛ばすだけではなく、地球に帰ってくる、 洋上から打上げる、洋上に帰還する、サブオービタル飛行もあります。
当然、軌道上でいろいろなサービスを、ロケットや積んだものが展開していくイメージが描かれています。
多様なニーズに対応した柔軟性の高い宇宙輸送サービスを作るために、ロケット開発や射場があるということです。

この画像で一番重要なのは、左下にあるようにロケットは何のためにあるのかということです。
荷主様と荷物があることが前提で、そのためにロケット開発があることを忘れてはいけないと思います。
それから右下にあるように、宇宙輸送サービスのためのハブ、宇宙港やスペースポート、射場も非常に大事なアイテムになります。
これを大切に支援していくことが、これから求められると思います。

私見ですが、今回のテーマ、宇宙戦略と日本の価値は今後15年が勝負だと考えています。
外国勢、スペースXは非常に大きなシェアを取ることになりますし、Amazonのプロジェクト・カイパーは先日初めて2機打上げられました。
ロケットビジネスは通信インフラ、よく自然独占性と言いますが、要は規模の経済です。
これが働くとしたら、我々の宇宙輸送、ロケットがどうあるべきかを先読みする必要があると思います。

それから政府予算。
大きな予算がついていますが、同じことに同じ予算を投入することはあり得ず、いずれシフトすると思いますし、どのような分野にシフトしていくべきかという議論もあって良いと思います。 
我々に必要なのは、後追い型ではない研究開発。
新しい領域のビジネスモデルをゴシゴシ磨いていくようなことも必要だと思いますし、これのためのロケット開発、宇宙港がどうあるべきかという議論もあって良いと思います。
日本の利点を活かすとしたら、国内産業でエンドユーザーがいっぱいいらっしゃるので、その方たちを早めに巻き込んで、ロケットや宇宙輸送、軌道上でのサービスを、オープンイノベーションで作っていくことが必要だと思います。
マインドセットとして国内需要だけでは、宇宙産業はなかなか成り立ちません。
最初からビジネスモデルとしても、マーケティング先としても、アジア、ヨーロッパ、アメリカの市場を取るというマインドセットも必要だと思いますし、そのための技術戦略、標準化戦略も必要になると思います。 

日本の領土・立地の優位性を生かすということで、特に大樹町も良い立地にあると思います。
こういったものをどんどん活かしながら、宇宙港を発展させることが必要です。

最後の「宇宙政策の10年選手を育てる。手が回っていない役人を3倍増」に関してですが、こちらは皆さん、政府に文句を言うべきだと思います。
霞が関で宇宙政策をずっとやっている役人はいません。
私は総務省から出向で来ています。
ほとんどの役人は1、2年のローテーションで変わってしまうので、ずっと宇宙政策をやっている人がいない。
私は幸いなことに、宇宙の仕事は今回で3回目で、割と多い方だと思います。
それでも途切れ途切れで、なんとか勉強しながら宇宙政策を作っていくお手伝いをしています。
宇宙政策をちゃんと推進するには、政策の10年選手を育てながら、 その周りで企業、金融関係コンサルタントと一緒に良い政策を作り、予算も取っていくことをやっていかないといけない。
そして、やはり手が回っていません。
宇宙政策担当の役人も足りないので、増やしていかないといけない。
この辺は皆さんに苦情を言っていただきたいと思います。
例えば、私は宇宙輸送やロケットの他に衛星リモセン法の許認可も担当しています。
結構手いっぱいで、もう少し余裕があったらいろいろなことをやりながら予算を取って皆さんの支援ができるとは思うのですが、手が回りません。

もう1つ宣伝をさせてください。
2年ごとに行っていますが、10/13から第6回の宇宙開発利用大賞の公募を開始します。
割とぶっ飛んだと言いますか、可愛いポスターを作りましたので、ぜひご注目いただきたいと思います。
通常は、ロケットを飛ばして宇宙でこんなことをしましたとなると大賞に近づきますが、最近はロケットが飛んでいないので、ぜひ我こそはという方は、応募していただければありがたいです。
自薦他薦問いません。

青木氏:
これは本当にすごい賞で、残念ながらお金はもらえないのですが、素晴らしい栄誉がもらえて、これをきっかけにいろいろなビジネスに繋がる方もいらっしゃいます。
宇宙基本計画を読んでいただき、ご要望のある方はどしどし政府の皆さんに言っていただければと思います。

次は宇宙基本計画の改訂に携わられた石田さんと松尾先生ですね。
実際に宇宙政策の委員として、色々と議論されてきましたので、その辺りの背景やどんな議論がなされたのかコメントをいただきましょう。
まずは石田さんからお願いします。

石田氏:
僕は民間の立場で、宇宙政策委員会の議論に2015年から関わらせていただいています。
基本計画改定に関わらせてもらったのは今回で3度目です。
毎回大きな変化はあるのですが、過去と比較すると今回は非常に大きいと思っています。
一番大きいのは、産業競争力の議論が非常に重要な論点として議論されたことです。
日本の宇宙政策には3本柱があります。
安全保障と科学、民生利用です。
従来、産業は民生利用の一部として色々な政策が打たれていました。
世界的に見ると、安全保障を支えているのも産業、科学の発展を支えているのも産業、民生利用を拡大するのも産業です。
産業競争力は、3本柱を横断して貫くものであり、それくらい強い日本の宇宙産業を作っていくことが、国家としての宇宙競争力に繋がります。
このような観点から産業競争力をいかに強めるかという議論がありました。
その結果として色々なスタートアップの支援政策や大手企業の取り組みを加速する政策などが今始まっています。

青木氏:
松尾先生からもコメントお願いします。

松尾氏:
私は慶応義塾大学理工学部機械工学科の教授ですが、宇宙政策委員会の委員で、宇宙輸送小委員会の主査をしております。
宇宙輸送に関わるロケットやエンジンなどを研究しています。

宇宙基本計画にはたくさん良いことが書いてありますが、非常に印象的だったのは新しいキーワード。
前回の計画にはなかったもので、宇宙へのアクセスという言葉が出てきました。
これは、ウクライナが今の状況となり、日本はちゃんと自分でロケットを打上げることができるのか。
民間もちゃんと打上げられるのか。
世界で安定して打上げられるのかということがあります。
それまで日本の衛星会社は、実はロシアで色々な衛星を打上げていました。 部品を供給していたこともあります。
そういった意味でパラダイムシフトではないのですが、産業においてもそういったことが起きたのではないかと感じています。

石田さんもおっしゃったように、宇宙へのアクセスを自立的に行うための産業支援をしなければいけないし、そういったことを後押しすることが非常に打ち出されました。
もう1つ、前回と見比べてJAXAという文字がものすごく増えました。
これはJAXAの機能を強化して、いかに国の機関が、民間も国も色々な仕事をした中で引っ張っていくのかという期待が現れていると思います。
今のJAXAは昔と比べると人が減っていますが、予算は増えており、今後機能が増えることから新たな道のりをスタートすると思います。
そこを注視していかなければいけないと思っています。

青木氏:
もう少し深く入り込んで、具体的に文科省でどのような取り組みをされているのか、竹上さんからご説明いただきたいと思います。

竹上氏:
文科省では、内閣府と政策に関して一緒に議論しながら、具体的な取り組みをJAXAと共に、あるいは最近は時々JAXAとは別途やらせていただいています。
基本計画の宇宙輸送分野は、こちらに掲げられているように1から4まであります。
今回、前回の基本計画にははっきりと柱立てされていなかった2番の民間ロケットの支援が入ったところはかなり大きなところだと思っています。

具体的な取り組みを簡単に説明します。
まずはやはり基幹ロケットです。H3ロケット、それからイプシロンSロケットの開発をJAXAと共に進めております。
イプシロンロケット6号機、そしてH3ロケット試験機初号機、打上げ失敗ということで関係の皆様に大変ご迷惑やご心配をおかけしているところかと思います。
イプシロンに関しては先日原因究明も終了し、来年度下半期の打上げに向けて、全力で開発を進めているところですし、H3ロケットについても初号機の原因究明を進めており、直接要因及びその対策を先月の委員会で明確にさせていただきました。
おそらく今月、報告書の取りまとめの委員会をやりますので、そこで方向性を定めてできるだけ早くリターントゥフライト(飛行再開)へ向かっていければと考えております。 

民間ロケットを担う事業者への支援ということで、新しい取り組みを1つご紹介します。

色々とメディアでも取り上げていただいておりますが、今年よりSBIR制度ということで、ざっくり言えばスタートアップ向けの補助金、研究開発の補助金です。
これは宇宙政策の文脈とは別に、 昨年スタートアップ創出元年ということで補正予算で2,000億円、これは文科省というよりは内閣府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI、システィ)というところが2,000億円の予算を、これまでベンチャー支援といってもアーリーフェーズの比較的小規模な予算しか出ていなかったものを一定の金額、 規模感で支援することが必要だという政府全体の動きがある中で、これはまさに宇宙にぴったりのスキームだと思いまして。
ちょうど1年ほど前から内閣府と色々と相談しながら作業をしていました。
おかげ様で、そのうち文科省の宇宙関係だけでも556億円。
これに経産省の予算や、国交省や農水省も宇宙関係のSBIRの事業をやってるので、トータル半分くらいが宇宙関係だと思っています。
非常に大きな金額を新しい事業として作ることができました。
特に今日のメインテーマは宇宙輸送だと思うので、宇宙輸送に関しては350億円の5年間のプロジェクトということで、先日公募の採択結果を公表しました。

 フェーズ1の採択企業として、インターステラテクノロジズ社、 SPACE WALKER社と将来宇宙輸送システム社、スペースワン社の4社を採択させていただきました。
まだフェーズ1の1年間、全体350億円のうちの一部ということでの支援企業です。
今後、ステージゲートを通じて、最終的には最大2社ということを我々宣言しておりますので、しっかりと輸送業界をこの仕組みで盛り上げていきたいなと思っております。
また、今回新しい仕掛けとして、できたものはしっかりと政府のプロジェクトでサービス調達させていただくという、まさにスタートアップ向けの事業としての工夫をしています。あと、制度に関してももし必要なものがあればしっかりと政府側で対応していきたいと思いますので今後の進捗に注目していただければと 思います。

あともう1つ、新たな宇宙輸送システムの構築ということで、SBIRに先駆けて去年の夏に文科省の委員会で報告書を出しまして、革新的将来宇宙輸送システムロードマップに基づくスケジュールを出しています。

今後、2030年以降を目処に次の基幹ロケットである基幹ロケット発展型と、高頻度往還型の輸送システムの2つを、将来的にはしっかりと目指していこうじゃないかという方針を文科省として出しております。ここを我々はブレずにしっかりとやっていきたいと思ってます。
まずは要素技術開発や必要な研究環境の整備をやらないといけないということですが、JAXAで昨年度からこうしたプログラム、将来宇宙輸送システム研究開発プログラムというものも比較的大きな規模感で始めておりますので、これはこれでしっかりとやっていきたいですし、今、説明したような施策を総合的に進めることで宇宙基本計画を実行していきたいと考えているところです。

青木氏:
この政府の支援は北海道や日本中のスタートアップにとって追い風になったと思います。
世界中でスタートアップ冬の時代と言われており、シリコンバレーを中心に、宇宙のみならず色々なスタートアップが資金調達に苦労し、倒産する事例も出ています。
日本のスタートアップは、比較的政府の予算も増え、資金も調達しており、結構良い感じで成長しています。
スタートアップを中心に、世界に追いつき追い越せるきっかけができるチャンスが日本にはまだまだ残っていると感じています。

世界と伍する宇宙大国へ 日本の勝ち筋とは?

青木氏:
次のテーマは「世界と伍する宇宙大国へ 日本の勝ち筋とは?」です。
SPACE TIDEの立場で世界中の方々とお話をして情報発信をされている石田さんから、世界の宇宙産業の最新動向や日本の今の現在地についてコメントをお願いします。

石田氏:
世界で日本は良いところにはいるとは思いますが、世界トップかと言われるとそうではないと思います。
宇宙の産業競争力は色々な軸で測る方法がありますが、1つ大事なことに宇宙活動の範囲があります。
宇宙活動と言ってもロケット、衛星、月探査、 ロケットでも無人と有人があります。
これらを宇宙活動の範囲と言いますが、この観点でいくと日本は、アメリカを1軍とするなら多分1.5軍くらいだと思っています。
アメリカと比較して何がないかというと、例えば有人の輸送能力は日本は持っていない。
いくつかの観点で、アメリカなど本当のトップと比べると少し差分がある。ただ、世界中の多くの国と比較すると、かなり良いころにいます。

もう1つは商業化という観点です。
国が中心でやってきた宇宙活動を、民間がどんどんやっていくのを商業化と言いますが、商業化の軸で見ると日本は2軍のトップという感じがします。
1軍ではない。
実は商業化は色々な国がどんどんやっていて、中国も進んでいますし、 宇宙大国として有名なインドも商業化専門の政府機関ができてガンガン政策を進めている。
韓国やオーストラリアも、宇宙開発の歴史で考えると日本より歴史は少ないのですが、商業化政策の勢いは日本よりあったりする。
日本はJAXAを中心に50年の歴史があるので、色々な宇宙活動のアセットと範囲がありますが、それを産業競争力に繋げるという点でまだまだスピードが足りないと思います。
政府の支援や政策は打たれていると思うのですが、これをやはりもっともっとスピードアップして5年、10年続けていく。
そうするとたぶん商業化も1軍になっていくと思います。

青木氏:
韓国やオーストラリア、UAEもそうですが、後から日本やアメリカの動きを学んで、一気にスピードで勝負しようとしている。
追いつかれ追い越されないように、日本としてもしっかりとやっていかないといけないと感じています。
竹上さんからも「日本の勝ち筋」についてお願いします。

竹上氏:
これからの取り組みとして力を入れたい点として2つあります。
1つは、先ほど山口参事官からも話がありましたが、これから政府全体で宇宙技術戦略、輸送分野でもしっかり作っていきます。
やはり国全体を見て、どこの技術が重要でどのような仕組みを作っていくかを共有しながら進めていくことが大事です。
内閣府の議論に我々文科省としても関与していきたいと思ってます。 

2つ目が、JAXAの戦略的かつ弾力的な資金供給機能の強化です。
こちらは、先ほどのプログラムのように民間企業に対する支援をここ数年ぐらいでしょうか、JAXAも最近は本当に新しい取り組みをどんどんしています。
今日来られている方々もJAXAと関わっていらっしゃると思うのですが、やはりこの機能をさらに一段伸ばしていく必要がある。
明確に言うと、JAXAをある意味ファンディングエージェンシーのような機関としても、うまく活用していけないかと政府全体で今議論をしております。

今年、文部科学省でも新規予算要求が30億円。
内閣府、文部科学省、経済産業省、総務省の4省連携で総額を合わせると大体100億円超の概算要求をさせていただいております。
要は各省からJAXAを経由して、JAXAの目利き力を使って、民間あるいは大学の方々にファンディングをしていくということを我々はやりたいと考えて予算要求をしているところです。
これもまだ、今まさに政府内の折衝中ですが、ぜひ道行きを注目して見ておいていただければと思いますし、これは個人的な見解ですが、今年新しく民間ロケットの支援プログラムを始めさせていただきましたが、やはり文科省としてもやらなきゃいけないことがまだあると思っています。

1つは、スタートアップ向けの補助金として、今回は5年間という割と短い期間で衛星を打ち上げるロケットを作ってくださいという、かなりハードルの高い事業をやらせていただいているという認識でいます。
もう少し長期的かつ面白い技術も含めて、あるいはアカデミアの皆さんも含めて支援できるようなスキームが作れるといいなというのがまず1つ。

あと、 輸送系は衛星を打ち上げるロケットだけではなく、先ほど言いましたように、たとえば往還型のようなもの、新しい将来輸送の方もしっかりとやっていきたいと思っています。
共通的な研究開発という意味では地上系。
ロケット開発だと個社の支援になりますが、地上系についても、例えば再使用、 どのように着陸するかなど、各社さん色々な共通技術はあると思うので、その点はまだまだ十分に取り組めていないのでしっかりやりたいなと思っています。

あとは人材です。こうした取り組みはどうしてもプロジェクトを支援するかたちが中心ですが、やはり人材の層の厚みというのを仕掛けとして作っていく必要があると思っています。
そうした4点を引き続き、この事業だけではなく、あらゆるツールを常に我々考えているので、そうした中で実現できたらと思っています。

青木氏:
スペースポートを含めたインフラ、人の支援も必要です。
松尾先生は教育者の立場もあるので、日本としての勝ち筋を教育者の観点からコメントいただければと思います。

松尾氏:
もともと何十年も前から、航空宇宙学科は夢があり、将来色々なことができる大変人気のある学科でしたので、現在日本では航空もしくは宇宙という学科名がついた大学がたくさんあります。
しかし、今はそれほど航空や宇宙が魅力的かというと、必ずしもそうではないかもしれません。
なぜかと言いますと、今は情報工学、AIや人工知能など新しい未来が開けている中で、そちらを希望する学生さんも多くいらっしゃいます。
マインドとして宇宙を夢見て、そちらの方向で活躍したいと思うエンジニアを育てることが重要だと思います。
そのためには商業における成功が大事です。
産業化を見据えて、将来伸びゆくものとして見せる。
若い人は、お金になるかだけではなく、将来自分の力を生かして何かを成し遂げたいという気持ちはある。
そういった姿を見せていくということが、人を惹きつけることになると思います。
金融などの全く文系だと思うところでも、宇宙開発というキーワードが何か面白いと思ったら人は来ます。
今、若い人の数は少ないです。
スーパー取り合いになっていますから、いかに魅力的な姿を見せられるかがキーだと思っています。

青木氏:
日本中で宇宙業界の人材が不足していますので、宇宙業界でこれからやってみたいという方はどしどし応募していただければと思います。
山口さんからも追加でコメントがあればお願いします。

山口氏:
勝ち筋という意味では、長期計画ができましたのでこれをしっかり実行していくということに尽きると思います。
Plan Do Checkを動かしていくと思いますが、ただ計画を墨守するのではなく、地元の経済界、国会議員の方々、自治体も含めてしっかりコミュニケーションを取りながら進めていくことが大事だと思います。

商業化の政策が少し足りないのかなと最近気づき始めましたので、その辺のコミュニケーションも必要だと思います。
先日、「チャンドラヤーン」を見て個人的にはすごいなと思ったのですが、やはりあれはインドのショーケースとして海外に売るための1つのイベントでもあったのではと思います。
私は10年以上前に南部アフリカへ何十回と仕事の関係で出張していました。
通信システムや教育コンテンツ、放送のソフトウェアの営業で民間の方々と一緒に行きました。
しかし、すでにインドから衛星経由で教育コンテンツや教育システムが入っていて、これは勝ち目がないと思った時もありました。
日本の背中を見ながら走ってきた人たちがものすごい勢いで日本を追い越す形になりつつあるので、日本は商業化、海外展開をしっかりやらないといけないと思いました。

宇宙基本計画推進のための産学金への期待

青木氏:
これから宇宙基本計画を推進する上で、官として関わっている皆さんから産、学、金に対してどのようなことを期待するかという点について、一言ずつコメントをお願いします。

石田氏:
一言で言うと、スピードだと感じます。
政府の委員会でも、ここ2、3年、スピードが遅いという発言が委員からよく出ています。
政策の実行スピード、回転スピードは昔に比べるとだいぶ早くなっていると思うのですが、僕は民間も含めてスピードが足りないと感じています。
産学金、全てのステークホルダーが、イメージとして3倍速くらいにならないと、世界のトップに追いつかないと思います。
とにかく全員でスピードアップをして、 遅れている人がいたらみんなで助け合ってスピードを上げることができると良いと思います。

青木氏:
まさに日本にとっての最重要論点だと思います。
竹上さん、お願いします。

竹上氏:
もちろんスピードは、非常に私も大事だと思います。
それから、やはりこれからは総力戦だと思っています。
先ほどお話したように政府側のさまざまな事業が最近生まれつつあります。私も昨年は、実は会場のその辺りで、いち傍聴者として聞いていました。
覚えている議論は、とにかく日本は輸送系の投資がなぜか少ない。
民間への投資がなぜか少ないので文科省ももっと色々やってほしいというような話があり、そこで頑張らねばと思い、その1年後が今というわけですが、 やはり国の支援だけではなく、官民連携でかつ、例えばスペースポートであれば官といっても国だけではなく地方自治体、あるいは民間企業といっても地元の産業界や金融機関の方たちが、全員が主役の気持ちでスピード感を持って関与していただくことが非常に重要だと思います。
国は国でしっかりと皆さんと議論をしながら政策を作っていく。
それに呼応するかたちで 、国よりもさらなるスピード感を持って皆様側から提案あるいは積極的な協力、自主的な動きをどんどん起こしていっていただければ、我々もまた改めて投資がしやすくなると考えております。

青木氏:
皆さん側からもどんどんプロアクティブに動いていただけると、こちら側もやりやすいと思います。
松尾先生、お願いします。

松尾氏:
日本はどうしても何かを開発すると、ついつい頑張って細かいところに入ってガラパゴス化してしまう。
ガラパゴス化せず、速さをもって、儲ける道筋で開発していただくことが重要だと思います。
新規開発よりも改良していかに出来上がったものをものにしていくか、この部分でスピード感を持っていく。
ガラパゴス化してはいけないということを肝に命じて頑張っていただきたいと思います。

青木氏:
技術者はどう使ってもらうかという視点を持ちながら顧客目線で開発しないと、びっくりするようなものができてしまうので、大事なポイントだと思います。
山口さん、 お願いいたします。

山口氏:
まずは宇宙基本計画をぜひ読んでください。
読んでいただくと新たな気づきがあると思いますので、それに基づいてコミュニケーションや議論をしたいです。
政府や一部のコミュニティだけで議論を進めて戦略を決めるのは絶対に良くないことです。
計画を読んでいただき、ここは違うか、実は海外ではこうなってる、自分の企業や大学では実はこんな技術もあるなど、コミュニケーションをしていただきたいですし、ご要望があればガシガシと政府にお持ちいただきたい。
そうして日本の宇宙政策や宇宙産業は良くなっていくと思います。
政府は政府だけで動いてるのではなく、国会議員の方々、地元自治体の方々と一緒に政策を進めていくことになります。
特に予算を獲得する意味では、国会議員の方々のご理解はとても大事ですので、 政府だけでなく、先生方や地元自治体とコミュニケーションをうまく取っていただき、一緒に産業を盛り上げていきたいと思います。

青木氏:
最近は民間の意見を取り込んでスピーディーに政策や予算化に動いており、それはこの数年間の宇宙予算の成長に見えていると思っています。
政府の皆さんをどんどん使い倒していただけると良いかなと思います。

成長にはスピード感とグローバルな目線

青木氏:
会場からたくさんの質問をいただいてます。
山口さんへの質問です。
宇宙基本計画で国際協力や海外展開といったテーマも重要になっていると思いますが、JICAのような国際協力を管轄しているような部署や外務省の役割が見えなかったということです。
その辺りについて、追加でコメントをいただけるとありがたいです。

山口氏:
これは大事な質問だと思います。
外務省も当然宇宙政策に関わっています。
例えば日米間の協定など、政策マターに外務省が入ってきているのですが、 実は国際協力の視点では入ってきていない。
例えばJICAを使えば無償援助、ODAの借款も含めて、それをテコに日本の宇宙産業が海外に出ていくことは当然あり得ますが、できていません。
他のインフラ輸出では、 通信やプラントなどさまざまなものができているのですが、そういった流れを作ることも1つの課題だと思います。

青木氏:
これから宇宙をやっていこうというスピード感のある宇宙新興国は技術を持っていないケースが多いので、いかに日本の宇宙技術を提供して彼らと一緒に成長していくのかということも、非常に重要なテーマになると思います。

竹上さん宛の質問をピックアップします。
小型ロケットは日本の狙い目だとおっしゃっていますが、ロケットはそもそも量産化が難しいので大型化していかないと儲からないと思います。
小型でも量産化できて儲かるような、そんなところを支援する制度も考えていただきたいという要望がきています。
もしコメントがあればお願いします。

竹上氏:
今回SBIRをやるときに、我々は基幹ロケットをやっているので、そこの住み分けだけは意識していたのですが、 実は、公募要領にどんなロケットでもいいですよ、と。
最初は小型だけに限定するとか、スペックを示すとか、いろんな議論がありました。それらを全部取っ払って、とにかくビジネスで勝てる提案をしてくれたら、なんでもいいということで、公募要領を見ていただければスペックに対する記述は一切ないです。
結果的に上がってきたのが、比較的小型なロケットだったと思っています。
まずは小型ロケットでビジネスを展開していく事業者を5年以内にしっかりと育て、その後は当然ながら量産化に向けた大型化というのは、一部の企業で構想されているところもあると認識しています。
そのフェーズになったときにしっかりと技術を見極めて、必要なプログラムを必要があれば作っていくのかなと思っています。

青木氏:
産業化や出口も見据えながら、ぜひ積極的に動いていただけると良いと思います。

本日は打上げや輸送に集中して議論してきましたが、打上げや輸送以外で日本として注力すべき分野はどこでしょうか。

石田氏:
色々な分野があります。
日本は尖った技術がいくつかあって、衛星の分野だとレーダー系の衛星やハイパースペクトル関係、 カーボン系のモニタリングするための衛星。
その技術を起点にマーケットを作っていったら面白いと思います。
月関係は政府がアルテミス計画に入っていることもあり、民間企業の動きも非常に増えています。
ここも日本の注力分野としてトライしていくと良いと思います。

青木氏:
最後に、石田さんから一点告知があります。

石田氏:
私は2015年からSPACE TIDEという団体を運営しており、宇宙業界を盛り上げるためのカンファレンスやスタートアップの支援を行っていますが、11月に東京でイヤーエンドイベントを開催します。
ぜひ皆さんも遊びに来ていただければと思います。

青木氏:
宇宙は最初からグローバルで戦える数少ない産業は宇宙だと思っています。
国際協力もしながら、日本として勝てる分野を見つけつつ、 市場の成長に日本としても乗っていくことを、皆さんと一緒にやっていければと思います。

宇宙サミットトークセッション動画はこちら

※本記事はカンファレンスでの発言を文字に起こしたものです。
編集の都合上、言い回しを調整している場合がございます。

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