[短編]星空への誘い⑤
時間の経過が分からなくなる程の時が流れて、私達はお互い同時に離れた。宇宙空間のような、ずっと時間が止まっているようなこの場所に、私達がいる理由。これからそれを知ると同時に、彼との別れも迫っているのだと薄々感じていた。
「では、行ってきます」
「お気をつけて」
ただ記憶を見るだけなのに、彼のどこか遠くへ向かう人に対してのセリフ。覚悟を決めながらも少しの不安が駆け巡る。それでも無理矢理深呼吸をすると、踏み出した瞬間、記憶が私の中に大きな波のように押し寄せてきた。
頭の中に流れる中世の豪邸。まるで有名なロミオとジュリエットのような世界観に、私は今までと同じく他人事のようでいた。
それが、急に崩れた。私は私で、私じゃなかった。この頃に戻ったかのように、彼と出会って、恋をして、愛を誓った。
それと同時に、海に溺れているかのような、もがいてももがいても抜け出せない感覚に息苦しさも感じていた。
私達は、周囲に反対された末、大きな崖の上にいた。生まれ変わっても、また出会えるであろうことを何故か私達は確信していた。
そこで、視界が一気に暗転する。恐怖を感じていると、不意に温かさに包まれた。はっと意識が明確になると、私は元の場所にいた。うずくまっている私を、彼が抱きしめていた。
私が顔を上げると、不安そうに彼はこちらを見つめている。
「もう……大丈夫ですよ」
私は微笑んで言った。
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