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第5話 地雷だらけ? 現地での面接

※マガジンで週刊連載の5回目です

いよいよ転職活動スタート!

1 転職エージェントのウェブサイトに掲載されている求人情報を検索
2 応募したいものを見つけたら、準備した履歴書と職務経歴書を細かく修正
3 お問い合わせフォームから連絡
4 転職エージェントのオフィスに行って担当者のカウンセリングを受ける
5 担当者から連絡があり、面接の日程が決まったらひとりで行く

現地での転職活動は、だいたいこんな流れ。

日本にいたらメールのやりとりだけしかできないけど、転職エージェントのオフィスを直接訪問したり、会って話ができるのが最大の強み。

数社の転職エージェントに同時に申し込んで、内定が出るまで何度も何度も面接を受け続ける。

そして落ち続ける…。

分かってる。海外就労未経験の28歳フリーターがいきなりシンガポールで転職したいというのにそもそも無理がある。最初からうまくいくわけない。

覚悟はしていたけど、エージェントから「今回はご縁がなかったということで。次の面接アレンジしますね」という不採用の連絡が届くたびに、自分を否定されたようで落ち込む。

面接を通過しないのはたくさん理由があったけど、ひとつは無理やりステップアップを目指したという点。

具体的には、接客業の経験を活かせる接客業以外の職種に応募して面接を受けていた。

営業
事務
受付
電話オペレーター

日系企業の日本食レストランや販売スタッフなら、すぐに働けたかもしれない。でもどうしてもイヤだった。日本で働くのと変わらないか、それより大変な環境に決まってる。

連日のように届く不採用通知はツラいけど、海外転職の魅力であるユルい働き方を実現することは最優先事項だった。

そうは言っても現実は厳しい。担当者が私に紹介してくれる求人情報は、日系企業のサービス業がほとんど。「シンガポールではサービス業以外に挑戦したいんです」とはっきり伝えていたのに。

「面接行ったら即採用、ってわけじゃないんだし。シンガポールの働く雰囲気を知るいい機会だから行ってみたら?」

最高の面接練習の機会が面接!

ししもん師匠の言葉はやはり偉大。

担当者からサービス業の面接を打診されるたびに不満な顔をしていた私は、この一言で俄然やる気になった。

練習の機会と割り切ってみようと決めても、全く手応えがない面接が続くと不安と焦りがつのっていく。ホントに内定なんてもらえるのかな?

さらに強烈な面接官に当たった時はダメージが大きすぎて、ふらふらと帰りついてホステルの狭いベッドで死んでた。

シンガポールでいきなり転職活動、予想以上にツラい…。10社以上、連続不採用。

そのなかでも衝撃を受けた面接はこんなカンジ。

今となったらネタでしかない面接x3

1 物流会社の3対1面接

日本人顧客を担当する仕事の面接。

物流に関する様々な業務、とエージェントから言われた。

この業務内容の曖昧さが日系企業の特徴だなあ、なんて感じる。

オフィスを訪問すると、3人の面接官が待っていた。面接スタート。

まず女性が日本語で説明してくれた。彼女は人事部で、隣の男性2人はシンガポール人の部長と責任者とのこと。

じゃあ自己紹介からお願いします、英語で

英語で!!!

女性に言われて、ガッチガチになりながら3人に英語で自己紹介をした。

すかさず彼女は2人に英語で追加説明を加える。はっきりと聞こえてる英語がとても流暢で、しょぼい自分と比べてしまいますます自信がなくなる。

それから女性の質問には日本語、そのほかの2人からの質問には英語、なにか話すたびに3人は英語で相談している。そして3人ともずっと表情が硬い。

日本人の前で英語を話すのは本当に緊張する。さらに英語と日本語と、切り替えながら会話をしているのでずっと混乱しっぱなしだった。

せめて彼女が私に英語で話しかけてくれてこちらも英語で応える、みたいに英語で統一してくれたらもう少しできたかもしれないのに。いや出来なかったか。

翌日、エージェントから不採用の連絡。そうですよね、手応えゼロでした。

最初の方に受けた面接だったので、日本語でも英語でもあわあわしっぱなし。私が人事担当者でも、あんなにビビって話す人は採用しないだろう。

しかし慣れとは強いもので。

面接を落ち続けた最後の方は、堂々と英語で自己アピールができるようになっていった。

2 日本人夫婦の圧迫面接

ショッピングモール内の店舗で、日本製品を販売する仕事の面接。

指定されたオフィスで面接スタート。夫婦で会社を経営していると男性の方から説明され、その後は女性に質問責めにされた。

なんでシンガポールで働こうと思ったの?
言っておくけどうちは厳しいから
店舗に数箇所カメラが設置してあって、常に監視してる。マイクもつけてあるから、無駄なおしゃべりしてたら注意するから覚悟してね。

面接の冒頭から、圧迫というか威嚇と言うか、高圧的な話しぶり。女性の口調も表情も、話せば話すほど険しくなっていく。

なんかこわい。自分の口元にぐっと力を入れてこらえて必死に考えるけど全然思いつかない。

厳しくするのには理由があって、うちのスタッフには成長してほしいの
あのお店で働いてたんだ、素晴らしい経験を積んだんだね、って評価されるくらいに鍛えてあげたい

すいません、でも私は鍛えられたいんじゃないです。働きたいだけなんです。

頭の中が本音でいっぱいになる。

うちの会社を踏み台にされたくないのよね

とどめの一言の破壊力。

そんなこと言ったら、私だって会社に捨て駒にされたくない。誰だってそう思ってるに決まってるじゃん、誰も言わないだけで。

隣で聞いてる男性は、どんな思いなんだろうか。表情からは何も読みとれない。私も同じような表情だったんだのかもしれない。

面接というか、仕事に対する情熱を一方的に語り続ける女性の話をさえぎるわけにもいかず、適当な相づちを入れていた。

結果はもちろん不採用。ものすごく疲れた。

3 電話面接でのロールプレイング

メーカーの電話対応の仕事の面接。

一次と二次は電話面接で、どちらもホステルの外のベンチで電話を受けた。

一次面接は人事担当のシンガポール人スタッフとの英語での会話。面接を落ち続けた甲斐があってか、英語面接もだいぶ慣れてきた。でもやっぱりつたない発音や言い回しを使う自分が恥ずかしい。そのうえ電話での英会話!

緊張したけど、自分の英語版職歴書を目の前に準備して、その中の単語を駆使してなんとかやりとげた。

強烈だったのは翌日の二次面接。求人を出しているチームのリーダーだという女性との電話。こちらは全て日本語での会話だった。

志望動機や自己アピールなど、お決まりの質問事項が終わったあとに待ち受けていた急展開。

では、電話対応の適正をチェックするためにロールプレイングを行います。私はお客様、あなたはスタッフだと思って話してください。
お客様はオンラインショップで革の財布を購入し、無料の刻印サービスも注文。到着した商品を見ると、刻印が間違っていました。この商品は親友へのプレゼントとして購入したもので、翌日の送別会で贈るつもりでした。親友は海外へ引っ越すため、送別会以降に会う機会はありません。
このお客様からの電話に、あなたならどう対応しますか?

いきなり超難問! 

間違わないでよ刻印!!

やるしかない、日本のおもてなし魂を遺憾なく発揮しようじゃないの。スタッフになりきって答えた。

「まずはこちらのミスを謝罪、商品は無料とし、新しく刻印しなおした商品をご友人の転居先へお届けします」さあ、どうだ?

でも直接手渡ししたくて、受け取り日を指定したんです。それじゃ意味がないです

むむ、そうきたか。それなら

「そうですね、大変申し訳ございません。それでは商品券をメールでお送りしますので、すぐに購入できるものを代わりのプレゼントにご用意いただく、というのはいかがでしょうか」

この商品が欲しいっていつも友人が言ってたんで、コレじゃなきゃだめなんです

「そうですよね、重ねてお詫び申し上げます。」敗北感でいっぱい。

沈黙。

なにか言わなきゃと思えば思うほど、何も言葉が出てこない。

下手なこと言うと逆効果だし。えっと、えええっと…。

「はい、ここで終わります。ありがとうございました」と、しばらくの沈黙の後に言われた。

終わった。いろんな意味で。

結果はまたまた不採用。今でも気になるんだけど、あれホントなんて言ったら正解だったんだろう。

心が折れて、持ち直して、また折れて

こんな面接を受け続ける日々。ちょっと変わった面接担当者に遭遇するっていうのは日本での転職活動と変わらない気がした。

それよりも克服しなければいけないのが実践での英語。特に日本人の前で話さないといけないのはめちゃくちゃ恥ずかしい。

なんだよ、全然うまくいかないじゃん。ダメじゃん私。

あんなにはりきって、絶対やってるって意気込んでたのに。現実は連続不採用、悔しくて情けなくて狭いベッドで毎晩ぐじゅぐじゅ泣いていた。

「あんたなんかいらない」って社会全体から言われている気分になって絶望する。

それと同時に、この会社に入りたいな、この人と一緒に働きたいな、と思う会社にも出会えなかった。だから不採用でホッとした気持ちも少しだけあったのも事実。

たった1社、たった1人でいいのに。内定を就労ビザを私にくれる企業に出会いたい。

涙でヒリヒリする目を閉じて、寝て起きてまた面接を受けに行く日々のなかでもがいて苦しんでいた。


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