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就活ガール#136 課題解決した経験を聞く質問

これはある日のこと、キャリアセンター前のカフェで同級生の美柑に就活相談をしていた時のことだ。

「なぁ、この前面接で課題解決した経験を聞かれたんだけど。」

「そうなんだ。それで?」

俺の質問に、美柑がゆっくりと顔をあげる。

「頻繁にっていうほどではないけど、たまに聞かれるよな。」

「そうね。あとは自己PRとかガクチカにおいて、聞かれてなくても答える人も結構多いわ。」

「どういうこと?」

「例えばガクチカにおいてサークルの話をすると仮定するじゃない。」

「うん。」

「で、サークルをやっていくうえで新入生がなかなか入会してくれないという問題があるとする。それに対してまずSNSで宣伝するという解決策を考えて、それを他のサークルメンバーに伝えてアイディアをブラッシュアップしたり賛同を得たりする。それで実際にSNSを始めた結果、入会者が始める前の2倍になった。みたいな感じのガクチカよ。当然最後に、そこから学んだこととか入社後に活かしたいこととかを付け加える必要があるけどね。」

「なるほど。課題を見つけて、それを解決したっていう話でガクチカを構成するのか。」

「ええ。最近流行してる書き方ね。」

就活で流行というのがよくわからなかったけれど、そういえば一昔前は噛めば噛むほど味が出るスルメ人間とか、粘り強い納豆人間が大量発生していたという話を聞いた。誰が何のために作り出しているのかはよくわからないけれど、就活での言い回しにはやりすたりがあるのは事実なのだろう。

「どうして課題解決型が流行ってるんだ?」

素直に思ったことをぶつけてみる。別に課題解決型でなくても、よい書き方はあると思う。それに、そんなに都合よく課題解決を経験した学生ばかりではないだろう。あまりにもこれがテンプレ化しすぎると、嘘だらけのガクチカになってしまい、それは採用する側にとってもあまり好ましくないのではないか。

「そりゃあ、課題解決力が重要だからよ。仕事なんて課題解決の連続でしょ。そもそもビジネスを始める理由って、金を儲けたいっていう動機もあるだろうけど、それだけじゃ続かないことも多いわ。やっぱり、世の中にある課題を解決したいってところから始まることが多いんじゃないかしら。」

「移動を便利にしたいから車を開発したり、他人といつでもコミュニケーションを取れないと不便だから携帯電話を開発したりっていう感じだよな。」

「ええ、メーカーだけじゃなくてサービス業も大体そんな感じよね。家事をする時間がない人が増えたから家事代行サービスが生まれたりとか。」

「うん。でも、重要な能力ってそれだけじゃないだろ。どれも重要だから順番を付けるのは難しいけど、コミュ力とかやる気とかストレス耐性とかの方が重要なんじゃないか? 実際、企業の採用ホームページとかを見ても、やっぱりコミュ力とか積極性だとかの方が書かれてる割合が多いと思う。」

「ええ、そうかもね。課題解決力はどんな仕事でも必要だけど、比較的そうじゃない仕事ってのもあるわ。例えば企画職と経理職だと、どちらが課題解決力がより求められるか、差は明確でしょう?」

「たしかに。経理でも業務フローをわかりやすくしたりミスを減らすための工夫をしたりっていうのは必要だろうけど、そうはいっても課題解決力が一番重要とはなりにくいだろうな。」

「そうね。業界単位で見ても、例えばインフラ関係とかは、課題解決以前にまずは必要な設備を安定してミスなく提供し続けることが何より大事で、他のことは二の次なんじゃないかしら。」

「詳しくはないけど、たぶんそうだろうな。」

「そうよね。だから音彦の言う通り、課題解決力は必ずしも最重要じゃない。」

「じゃあなんで課題解決型のエピソードが流行るんだ?」

「それはね。課題解決力の有無はエピソードの中身からでしか判断できないからなのよ。」

「どういうこと?」

「例えば、接続詞や助詞、助動詞の使い方を見れば、論理的に物事を考えられる人かどうか、ある程度分かると言われてるわ。」

「そうなんだ?」

「ええ。AI分析とかでも使われる手法ね。エントリーシートや録画面接では気を付けてみて。」

それが課題解決の話とどう関係あるんだろうという感じでポカンとしている俺をよそに、美柑は説明を続けた。

「適性検査をすれば学力がわかる。もっというと、幼少期から勉強を頑張って真面目に続けてこられる人間かという性格まである程度はわかるわね。それから、面接をすればコミュニケーション力がある程度はわかる。情熱を持った人間かどうかも、態度や言葉選びからなんとなくわかるわね。」

「そうだな。」

「でも、課題解決力はそうじゃないのよね。エピソード内容からでしか読み取れないわけ。」

「なるほど。たしかに。面接でこういう態度や話し方をすると課題解決力があることがアピールできますっていうのは聞いたことないな。」

「でしょう。話し方とか文章力、言葉選び、ジェスチャー、そういうものから読み取ることが難しいのが課題解決力なの。だから、エピソード内容自体でアピールしないと、課題解決力をアピールする場が全くなくなっちゃうわ。」

「面接だと採点項目が能力別になってたりする場合もあるらしいから、アピールする場がないとゼロ点になってしまうな。あ、今自分で話してて気づいたんだけど、もしかしてこの前、『何か課題を見つけて解決しましたか』って面接で聞かれたのは、採点項目にあるから喋って欲しいっていう意味だったのかな。」

「その可能性は低くないと思うわ。面接官としては、喋る機会を与えてあげるのが仕事だからね。『採点不能』だと自分が仕事をしてないっていうことになってしまう。学生がガクチカなどの中で自然に話さなければ、面接官側から尋ねる必要があるってことでしょうね。」

「なるほど。とはいえ必ずしも親切に聞いてくれるとは限らないから、自分から喋る学生が多いってことだな。」

「ええ。あくまでも課題解決力は採点項目の一つに過ぎないから、必ずしも課題解決型じゃなくてもいいんだけどね。まぁ無難な回答の一つってことでしょうね。」

「なるほど、わかった。ありがとう。」

「ちなみに、ガクチカでチームプレイが求められるのも同じ理由よ。」

「なるほど。グループディスカッションがある企業は別かもしれないけど、なければ協調性とかチームワークを調べる方法は、エピソード内容しかないもんな。」

「ええ。それに、グループディスカッションをやったとしても、所詮は初めて会った人と数十分協力するっていうだけのミッションでしょう?」

「うん。同じ人と長い期間協力し続けるのとは全然違う気がする。」

「ええ、私もそう思うわ。」

「他にもエピソード内容でしか判断できない能力ってあるかな?」

「新卒だとそこまで求められないとはいえ、業務スキルや経験はそうでしょうね。プログラミング経験があるとか、インターンで営業経験があるとか。そういう業務に直結するスキルや経験はエピソード内容からしか読み取れないわ。」

「たしかに。」

「あとは後輩や部下を指導する能力とかもそう。」

「あ、たしかにバイトの話をすると、たまに『後輩に指導することもありましたか』って聞かれることがある。」

「ええ。将来的に出世すると部下たちを指導する能力が必要になってくるのはもちろん、場合によっては新卒1年目から非正規社員や業務委託先などを監督する立場になることもあるわ。だから、自分より立場の弱い人たちにどう接するかという能力を重視してる企業はそういう質問をしてくるでしょうね。」

「就活生が嘘をついてバイトリーダーになったことにするのも、一定の合理性があるってことなんだな。」

「そういうこと。サークルのキャプテンとかもね。そこまで考えて嘘をついてるかはともかく、経験の積み重ねとして、それらの話がウケるということが先輩たちから何年もに渡って伝わってるんでしょうね。」

「なるほどね。何気ないものでも実は結構意味があるんだなぁ。」

「ええ、意味を理解してるのとしてないのでは同じエピソードでもアピールの仕方が全然違ってくると思うし、色々考えてみるといいわ。」

そこまで話したところで、今日は解散となった。面接官は、業務上必要な様々な能力について、それぞれ採点しているらしい。そうすると、できるだけ多くの採点項目で効率よく点数を取っていくために、自分の言動がどの項目の加点要素になるのかを意識しながら話すことが重要だ。課題解決力や協調性以外についても、それぞれどうやってアピールしていくのかを改めて考えてみたい。なんだかゲーム感覚で就活を楽しめるようになってきているなと思いながら、一日を終えるのだった。

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