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Knight and Mist第七章-2 ダンジョン②

「セシルが戻って来たかな?」

ハルカが音の方を見て言った。

その口をイーディスが塞ぐ。

それから真剣な顔で、

「おい、こいつを戻すぞ。お前は枷を嵌めておけ。静かにな」

イーディスが声を落としてハルカに指示する。

ハルカは音のする方を注意深く見ながら、慎重に枷を嵌めて、鍵はポケットに隠した。

「誰かな?」

「来るのはここに閉じ込めたヤツに決まってるだろ。倒れて意識のないフリをしておけ」

ギイイとずいぶん大きな軋む音がして、それから何人かの足音が響いた。明かりが入ったのか、地下牢がうっすら明るくなる。松明の音も聞こえる。

ハルカはイーディスに言われたとおり、慎重にその場に倒れた。床が不快だったがこの際仕方がない。

ぞろぞろとやって来たのは、黒ずくめの一団だ。そのうち一人だけ胸にペンダントをかけていた。ルビーの色をしたクリスタルのようなものに何かしらの魔法陣が描かれているように見える。高価な護符アミュレット、といったふう。

皆さまざまな髪色だが、その男だけ髪の色が黒。つまり魔導師はこの男だけということだ。

「よく見ろ。お前たちにも見えるか?」

魔導師の男が背後に控える人間に言った。

「よくまあ《焔の騎士》を捕らえましたね」

一人が言い、魔導師の男がしかめっ面をした。

「そちらではない。間抜けめ。そこの女だ。よく見ろ」

取り巻きの一人がハルカの横に膝をついてジロジロと見た。

「髪色が黒に近いーー魔導師ですか?」

「何を言っている。濃い魔力によって周囲の空間が歪んでいるのが見えないのか。あまりそばに寄らないほうがいい」

この間ハルカとイーディスは気絶したフリだ。

イーディスは魔導師の男が近寄って来たら飛びかかる腹積りにみえたが、魔導師の男は近寄ってこない。

「アレはほぼ魔霧ミストと同じモノだ。用心せよ。今から調べるぞ」

「こちらの娘は?」

「放っておけ。今は使いどきではない」

ハルカはイーディスを見てーーイーディスはやめろ、というように首を小さく振ったので、ハルカは運ばれるがままにまかせた。

ハルカは何人かに担がれ、運び出されることとなった。枷が嫌な音を立てジャラジャラと鳴る。

と、そのとき、

「ぐがっ!?」

ハルカを担いでいた男が一人、変な声をあげて倒れた。

次の瞬間には二人が倒れていた。

ハルカは床に落とされ、周囲を見渡す。

ようやく事態を察した集団が、

「《焔の騎士》だ!」

一人めは鎖で首を折られ、二人めと三人めは鎖についた鉄球で頭を打たれたらしい。命はなさそうだ。

「こいつ、気を失ったフリをしていたな!」

一斉に剣を抜く音。

イーディスはニヤリとした。

「暗闇の奇襲は得意なもんでね! ハルカ!危ないから寝てろ!」

イーディスの素早い動きでひとりの剣を叩き折り、蹴りで壁までぶっ飛ばす。

壁にめり込む轟音。

そこに背後から剣を振りかぶる男。その鳩尾に掌底で一撃。その男は数人巻き込んで吹っ飛んだ。

「へい、いっちょあーがり。あとはお前だけだな」

息の上がっているイーディスと、不敵に佇む魔導師。

「なかなかのものじゃないか。西の野蛮な国の人間はやはり野蛮だな」

「その野蛮な国の力を借りねーと帝国にやられる立場の大国サマが何を言ってんだか。誰のせいで俺らが戦っていると!?」

「それは君の故郷を焼き払った帝国のせいだろうよ。我々は関係ない」

「……死ぬ覚悟はできてんのか」

「もとより。しかし死ぬのは今日ではないがな」

「名前だけ聞いといてやろう」

「名前などない」

魔導師は言い捨て、剣を構えた。

「そーかよっ! 哀れだな」

低く言って、イーディスは鉄の鎖を構える。

「枷を外すとは、誰か内通者がいるな?」

「こんなふるくせーもんで俺を縛れるとでも?」

一瞬生じる睨み合い。

そしてーー

重力ギガ・インパクト

「ぐあっ!」

突然イーディスが見えない何かに押し潰されるように倒れた。

「これが重力を操る魔導だ。田舎者め」

吐き捨てるように言い、それから大声で

「ここを片付けろ! あの男・・・は拘束だ! あと人をよこしてくれ」

「クソッ……クソッ!」

「その女はデシール王国の将軍だ。使い途はあるから生かしておけ」

イーディスが柱に括り付けられる。

ハルカはなすすべもなく再び担ぎ上げられる。

(ーーどうして私には戦う力がないの?)

運ばれながら無力さを痛感するハルカ。

(なんとかしなきゃ、今なんとかしなきゃ。誰もアテにしちゃいけない。一人で戦わないといけない)

脳裏によぎるごうっという炎をはらむ風。

そのとき、

(ーーその道は、貴女を滅ぼすかもしれませんよ)

どこからか、いつか聞いた言葉が聞こえて来る。

(滅んでも構わない、力がほしいーー!!)

「まずい、おい、その娘を眠らせろ」

魔導師が指示し、ハルカは気を失った。


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