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大昔ここは海で、地震で山になったんだ、だったらまた海にもどることもあるのかな、(※東日本大震災についての記述があります)


こんにちは

最近は雨続きですが

あんなに嫌いだった雨が
自粛期間中には好きになりました

天気がいい日には
何かしなきゃと焦ってしまい

何もできないことに
罪悪感をいだいたりなんかして

でも
雨が降れば

雨なら仕方がないと
何もしない自分を許せちゃったり

人は天気には勝てないものですね


今回、ご紹介するのは
天童荒太の「ムーンナイト・ダイバー」です

真っ暗な海に
一本の光の筋

ずっしりと重たい世界で
光の中だけはふわふわと軽いような

そして
そこに浮かぶ1人の人

とても美しい表紙に目を惹かれ
気づいたら買っていました


タイトル : ムーンナイト・ダイバー
著者 : 天童 荒太 (てんどう あらた)
出版社 : 文藝春秋
価格 : 1500円(+税)
ページ数 : 243ページ


舞台は東日本大震災後の福島県

震災から4年半経つが
福島第一原発付近には近寄ることができない

そこで亡くなった
多くの人々の多くの思い出たちは
いまだに眠ったままになっていた

陸がダメなら海ではどうか

主人公はある人物から秘密の依頼を受け
汚染物質が溶け込む海に潜る

進入禁止区域に入ること
汚染物質により被曝する可能性があること
真っ暗な海に1人で潜ること

多くの危険があるにも関わらず
主人公は潜り続ける

海に流された
人々の生活を拾い集めるために

しかし
「見つけてほしい」という願いがあるのと同時に
「見つけないでほしい」という願いがあることを知る

そこには
今でも愛する人の生存を願う人がいるのだ

遺品という形で所持品が見つかることを拒んでいる人が

一生癒えない悲しさを抱えた
被災者の心情をリアルに描いた物語です


「身のすくむ恐怖が、身が引き裂かれんばかりの悲しみと化し、煮えくり返るような怒りが湧いて、闇雲に叫びたくなり、叫びがどこにも届かないことの空しさに足もとから崩れそうになる。」(25ページ)

「なぜ潜る。聖域かもしれないのに、禁を侵せば、罰せられるかもしれないのに。いや、だからこそ潜るのだ。誰も潜らないから、誰かが潜らなければいけないのだと信じる。」(29ページ)

「大昔ここは海で、地震で山になったんだ、だったらまた海にもどることもあるのかな」(91ページ)

「私の願いというのは、ダイバーの方に、この、夫がしていた指輪を、探さないでほしい、ということです」(131ページ)

「今のようじゃなかった暮らしとか、いまとは違っていたはずの人生とか、こうではなかっただろう周りの人間関係とか、そういったものを、おれはずっと、もう一度つかもうと、あがいてきたんです。でも、水の中にふわふわ浮かんでいるようではなくて、底にしっかりと足をつけて見回せば、おれにあるのはやっぱり、いまの暮らしだし、いまの人生だし、いまの人たちなんだと思う......。」(208ページ)

「いま見る海がいつか山となり、その山の近くに暮らす子どもらが、遊びで土を掘り返し、人々の幸いの記憶を手にするときがあるだろうか。」(241ページ)

ドキュメンタリー

のような感覚

天童荒太さんは
丁寧な取材をもとに物語を語る
作家さんです

だからだろうか

登場人物が
どこかに存在している気がしてならないのです

あらすじを読んだとき
すごい美談のように思っていました

被災者のため
悲しんでいる人のため

素敵な響き

でも
人間の浅ましさみたいな

人の心がハートの形をしているなら
下の尖ったところにたまっているような

そんな重く暗いものも
しっかりと描かれているのです

だからこそ
人間として登場人物を見られたのかもしれません


東日本大震災のとき
私は中学校1年生でした

掃除の時間に
誰かが「揺れてる!!」と言った瞬間
体がぐらついたのを今でも覚えています

同じ中学に通う兄と一緒に帰ったとき
こんなに兄が頼れる存在なんだと気がつきました

たしかに
自分の人生の中に3.11は存在しています

でも
テレビで流れる津波の映像
避難所の風景

そのどれもが
違う世界の出来事のような気がして

テレビで見る映画みたいに
映像の世界以上には考えられませんでした

今でも
被災者の方と同じレベルで
悲しみ
涙することは難しい

でも
そこに人の生活があった
そして今も続いている

そんな実感が芽生えてきました

それだけでも
この本を読んで良かったと思います



東日本大震災が
遠い世界の出来事のように感じる
全ての人に読んで欲しい

そんなことを思いながら
今日はこの辺で失礼します


最後まで読んでくれてありがとうございます


ばいばい。





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