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育つ絵。

引出しの中にはだいたいいつも描きかけの絵があって、時折思い出したように描く。
キャンバスなんて大層なものではなくて、ただの厚紙の切れ端。
もしかすると、落描きに近いかもしれない。

以前は、けっして人に見られたくないものだった。
見た人が不愉快になるかもしれない。
内心バカにしているかもしれない。
描きながら、誰かがやってきたらすぐに、さっと隠せるように描いていた。
だから私の絵はちいさい。

びっしりと空間を埋めるように描いていたこともある。
余白を恐れるかのようなびっしりと描き込まれた絵を見ると、誰が描いたかわからぬ絵でも気になってしまう。

けれど、いつからだろう。
空間が怖くなくなった。
空間をどうやって残そうか考えるようになってから、詰まっていた息もすこしずつ、流れるようになって。

「紙に描く」と「ものに描く」は違う。
紙の上は自由だ。
ペン先がどこへ行こうと、自分だけが許せばいい。
描かれた「もの」は誰かが身に着ける、誰かが使う。
人の動きと共にある絵。

ものをつくるということはきっと、誰かのことを考えるということ。



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