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【日本神話⑥】白兎と恋の試練

 ヤマタノオロチ退治後、日本神話(出雲神話)では、スサノオとクシナダヒメの子(または子孫)の大己貴神(オオナムチノカミ)が主人公となってお話が進みます。オオナムチは後の大国主命(オオクニヌシノミコト)のことです。出雲大社に祀られている神様です。そんなオオナムチですが、旅の途中、海岸で傷だらけの白兎を見つけました。

「因幡の白兎」で知られる鳥取県鳥取市の白兎海岸(2014年6月18日撮影)

 この地に住んでいた白ウサギは、洪水が起きた時に竹の切り株に乗ってしまい「於岐島(おきのしま、隠岐島とは別)」に流されてしまいました。そこでウサギは、海の和邇(ワニ=サメのこと)たちに「私のウサギ族とワニ族のどちらの数が多いか、比べてみようじゃないか」と騙して一列に並ばせ、その背をピョンピョンと渡って陸へ帰ろうとします。サメたちはこれに怒って鋭い歯でウサギの皮を剥いでしまいました。

 オオナムチには腹違いの兄神が複数おり(八十神)、美しいと評判の因幡国の八上姫(ヤカミヒメ)に求婚しようと出雲国を出た途中、この海岸を通りかかりました。そこで傷だらけで泣いているあの白いウサギを見つけました。兄神たちは「海水で体を洗い、高尾山で風に当たりながら寝ているがよい」と意地悪を言ったので、ウサギはさらに傷を悪化させてしまいました。

 兄神たちの従者のような立場で遅れてついてきていたオオナムチは、ウサギを見つけると「池の真水で体を洗い、身干山で蒲の穂(花粉が薬用に使われる)にくるまって寝ている様に」と助言しました。その通りにしたウサギの傷はみるみるうちに回復しましたとさ。

白兎海岸を正面に鎮座する白兎神社(同日撮影)
白兎が体を洗ったとされる白兎神社境内の御身洗池(同日撮影)

 さて、傷を回復させたウサギはオオナムチに対し「あなたこそ、ヤカミヒメを娶るのにふさわしいでしょう」と告げます。ウサギから事の顛末を聞いたヤカミヒメも兄神たちの求婚を断り、オオナムチと結婚することを選ぶのでした。

オオナムチの求婚を受けるヤカミヒメとそれを見守るシロウサギの砂像(同日撮影)

 以上、オオナムチの優しさが伝わる「因幡の白兎」でした。このことから、白兎は恋のキューピットであり、白兎神社や白兎海岸が恋人の聖地といわれる理由です。

白兎神社の社殿(同日撮影)

 これでめでたし!と言いたいところですが、オオナムチへの試練は続きます。ヤカミヒメをとられた兄神たちが黙ってはいませんでした。ある時は手間山で「イノシシを追い出すので崖下で捕まえるように」といい、大きな焼石を落としてオオナムチを殺し、神の力でよみがえったのも束の間、今度は木の割れ目に挟んで殺す。オオナムチは母神の力で再度甦ると、木の国(紀伊国=和歌山県)へ逃れました。

黄泉の国へと続く島根県松江市東出雲町の黄泉平坂(2014年3月22日撮影)

 それでも兄神たちは追っ手を差し向けました。オオナムチは今度は根の堅洲国(黄泉の国)へ逃げます。黄泉の国はスサノオが治めてました。スサノオはオオナムチの素質を見抜くと、客人用の部屋へ案内しました。

 そこでも試練が待ち受けていました。毒蛇、ムカデ、鉢がオオナムチを狙いますが、スサノオの娘の須勢理毘売(スセリビメ)の助言で難を逃れます。スサノオは草原に矢を放つと、それを取ってこいと命じます。その間にスサノオは草原に火を放ちました。しかし、オオナムチは野鼠の助言で穴の中に身を隠し、火が収まった後に見事に矢を持って帰ってきました。

 ここでようやくスサノオは母屋で宴席を設けてオオナムチをもてなしました。酒に酔ったスサノオは眠りかけた際、髪の毛の虱を取るよう命じます。オオナムチはスセリビメの助言を経て虱を取るふりをしてスサノオの髪の毛を柱に縛り付けると、隙を見てスセリビメと一緒に母屋を抜け出て地上の国へと戻りました。

 スサノオは驚いて起き上がると、髪の毛を縛った柱が倒れて母屋が倒壊してしまい、オオナムチを逃してしまいます。しかし、スサノオはオオナムチたちの背を見送りながら、地上の国で兄神たちを追い払い、国づくりを大成させるよう激励したのでした。

白兎神社の遠景(2014年6月18日撮影)

 というわけで、最初は優しいだけだったオオナムチでしたが、数々の試練を乗り越えて成長していきます。神々の試練というのも、世界の神話でよく見られますね。メソポタミアのギルガメシュ王やギリシア神話のヘラクレス、オデュッセウスなどなど。英雄が英雄として成り立つ根拠として、こうした試練を乗り越えた強い力だったり、イエスもそうでしたが、病を治す優しい心も必要のようです。心技体そろってこその英雄でしょうかね。

白兎神社にたくさんあるウサギの像(同日撮影)

 ドジな白兎が出てくることに愛らしさも感じます。何を比喩して白兎なんでしょうね?出雲の王が村の子どもの病気でも治したのでしょうか?擬人化した動物を案内役に登場させるのとか、昔の人の発想力に頬が緩みます。単純に面白いですしね。日本だと当たり前なんでしょうけどね。よくよく考えてみれば、ほほえましいぞ、日本人。

 まぁ、黄泉の国からスセリビメと脱出して結婚するオオナムチなのですが、因幡のヤカミヒメはどうした?ってツッコミもいれたいところですが・・・一夫多妻とか各国の王女との政略結婚なんてのも歴史の常ですし・・・「英雄、色を好む」ということでしょかね?

白兎海岸と白兎神社↓

表紙の写真=白兎神社前の大国主命と白兎の像(2014年6月18日撮影)

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