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クスクス笑う貴方を私ならもっと上手に愛せるのに

私の好きな人は友人の彼氏だった。

その人の背は電車の吊り革程度で
襟付きの服を着ない首元はやけに色気があった。

友人から彼の話を聞く。
あんなところが嫌だ、もっとこうして欲しい。
…私だったらもっと上手に愛せるのに。

愚痴という名の惚気を永遠と聞かされた
駅前のファミレスのドリンクバーは何種類もあったが
いつも決まって飲むのは好きでもないアイスコーヒー。
貴方が好きだと友人が教えてくれたから、

その人は友人と私の共通の先輩で
どちらかと言えば人気のない先輩だった。
(それが好きな由縁だと気づいたのは燃え殻さんのラジオを聴いていた火曜の深夜のこと)
話し上手でお酒も強い人気者の先輩の影に隠れて
馴染めていない私とも端の方で日本酒を水にすり替えて
クスクスと笑いながら話してくれたのが
脳の右端から離れない。

それでさ〜こないだなんてめっちゃバカにした様に笑ってくんの!
擬音語に表すならクスクスって感じ!腹たった〜!

そんな私にとっては残酷な、彼の笑顔エピソードは
アイスコーヒーの時ではなくホットの時にして欲しい。
熱いコーヒーを啜って口に火傷をつくって
心の痛さを誤魔化せるから。

やっぱりあの時の顔して笑ってるのかな。

私は知らないけどこの子はあの色気のある首の下や
黒子の位置なんて把握してるんだろうか。
私ならスケッチで大きさまでメモしそうだ。
でも数値化したり可視化したりするのすら勿体ない
気がしてただ眺めてしまうのも想像に容易い。

大学を出て疎遠と言うほどではないが、2月に一度程度に会う頻度が落ちた友人から最近連絡がきた。

別れちゃった〜

大学時代はニコイチの様にいた私たちは、比較されることも比例する様に多くあった。
人懐っこい性格の彼女。
落ち着いた雰囲気の私。
モテる彼女。
モテない私。
けど私がいないと彼女は単位すら危うくって
大抵私が親しくなった男性を彼女が射止めて幸せをゲットしていく。
私がいないとダメだったんだなとこの時も真っ先に思ってしまった。だからモテない。、、はぁ

アイスコーヒーの好きな電車の吊り革くらいの貴方は
私に別れちゃったとは送ってくれなかった。

理由は単純。
彼が好きなのは彼女で彼女の親友が私で、振ったのは彼女の方で、喧嘩別れをしたそうだったから。
こうして彼と私の距離も徐々に開いてSNSを介してしか生存確認を出来なくなった。
彼女の彼速報を聴けなくなったから。
あれは私にとっては誰かの眠れない夜を支えるラジオくらい大事な物だったんだ。

駅前のファミレスに用はなかったが行ってみた。

何の気無しに仕事の残りを会社に片付けにいき、
お昼をコンビニのサンドイッチで済ました土曜日の15:12
私はあの駅前のファミレスに彼女も彼女の話す彼も無しで入ってみた。
ドリンクバーを取りに立ってアイスコーヒーを入れて席に座って、思わず何してるんだろうってクスクスと1人笑って今度は私の好きなルイボスティーを入れて席に戻って
目の前のアイスコーヒーを目の前の席に置いてみた。

そこにいつか座ってくれる貴方にこの話をして
クスクスと笑ってもらうために。

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