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十一月の星々(140字小説コンテスト第3期)応募作 part2

part1 part2 part3 part4 part5 結果発表

月ごとに定められた文字を使った140字小説コンテスト。

今月の文字は「保」。

11月30日までご応募受付中です!
(応募方法や賞品、過去のコンテストなどは下記をご覧ください)

受賞作の速報はnoteやTwitterでお伝えするほか、星々マガジンをフォローいただくと更新のお知らせが通知されます。

応募作(11月6日〜12日)

投稿日時が新しいものから表示されます。

11月12日

せらひかり @hswelt
冬になった。マフラーを巻いて喉を保護する。あまりに寒いと、狼だった頃の記憶を思い出した体が、勝手に狼に戻りだす。こんなに美しい声と足ヒレを手に入れたのに。これを狼の毛皮と交換した誰かさんも、時々は魚に戻っているようだ。そんな日は元の自分のまま、心もとない気持ちでブランコをこぐ。

械冬弱虫 @Wimpy_keter
さよならは強い。わたしは弱い。宙ぶらりんは愛おしい。好きとも嫌いとも言葉にしないあなたに甘えている。勝手に好きでいる。10年前、「あそぼ」って言ったら「おう」って言ってドタキャンされて。きっと嫌いなんでしょ。今更紳士然としてさあ。嫌いになってやろうと思ったのに。保留中。

いくと @hushimiikuto
並木道の赤いケヤキの葉は緊張を保っている。
私と彼の距離も一定で、等速直線運動を続けている。
バスプールで別の路線に乗るまではふたりの道が逸れることはない。
ふとむき出しの手を彼に包まれた。
それは熱く湿っていた。
それが決定打だったのだろう。
並木道の緊張は解け、赤い雨が降り注いだ。

pokazo @pokapoka_pokazo
大切に、大切に保護してきた彼らのことが、私は本当に愛おしい。試練も多く与えた、それでも彼らは強く生きてきた。歴史というものには興味ないが、人類の生み出す芸術というものは何故こんなにも美しいのか。今も新たな作品は生まれているはずだ。嗚呼、科学さえ発達しなければ。滅ぼさずに済むのに。

足立ネコ(サイトからの投稿)
大好きだった先輩が死んだ。卒業旅行の月山で雪崩に巻き込まれて死亡した14人の1人だ。絶望と虚無に襲われた。食べることも眠ることもままならない。疲弊していった。そんな時、学校の玄関にいる保護犬の桜を撫でてみた。毛がふさふさで思わず抱きしめた。暖かい。次から次へと涙がしたたり落ちた。

足立ネコ(サイトからの投稿)
保元平治の乱は1156年と1156年に起こった。平清盛の権勢を盤石にしたが、滅びへの第一歩だとその時誰も知らなかった。盛者必衰の琵琶の音が響いてくる。人は何故、権力や名声を欲しがるのだろうか?質素な暮らしの人々に心よせてみる。極貧の人々も同じ人間だと思うと胸がつまされる思いだ。

イマムラ・コー @imamura_ko
入り口で手続きをした後検査をして回る。終わってから結果を待つ間が怖い。名前を呼ばれ受付に行く。「胃に疾患ありです」そう言って無事不健康保険証を渡された。2×××年、病気を持たないと許されない時代。友人は症状がなく再検査を言い渡され別室へ連れて行かれた。それ以降友人との連絡は途絶えた。

佐倉もえぎ @usumoegicolor
「……忘れてた。」
先程まで、柿の実を模した可愛らしい和菓子が乗っていた器を前に、ほんの少し後悔する。写真を撮っておけば良かったと。保存さえすれば、あの甘美なお菓子を画像だけでも誰かと共有できたのに。
決意する。
周りからどう思われても良い。太っても良い。
「もう一つください。」

tomdai @phototomop
この国の奴らは、俺たちの生活を保護する気なんてさらさらない。そのくせに商売繁盛のためと俺たちをこき使う。俺たちが路上に捨てられた飯にありつこうとすれば追い払う。俺たちは新宿の街をウロウロするばかりだ。もはや居場所はない。なぜだ!俺たちが狸だからか!お前らこそ化け狸のくせに。

足立ネコ(サイトからの投稿)
皆既月食を観るために、キャンプ用の椅子を中庭に持ち出し準備万端。街灯からも遮られ絶好のの観測スポットだ。月だけが主役。寒い。ジャンパーの前を締めて保温する。刻一刻と月は欠けてゆく。だがスマホのレンズでは欠けた部分が赤みがかって写る。気づけば塀の上に猫が一匹。嗚呼お前も月の客か!?

もちこ(サイトからの投稿)
小学生の時に言ってしまったあの場面の記憶を未だに保持している。
その日、友達が自分以外の人と楽しく笑っているのを見て嫉妬をしてしまった。自分への自信のなさからだろう、
子供ながらにひどいことを言ってしまった。あの子の、悲しそうな目で笑顔を作ってる顔が残っている。いつも笑顔だった。

槇島ロジ @logibako
保護者参観に行った。父親は私ひとりで「誰のお父さん?」という声も聞こえたが、肝心の娘はまるでこちらに興味ナシ。よく観察していると、彼女が見ているのは黒板か先生か、ある特定の男子だけ。夕食の時に小声で訊いたら「お母さんには内緒ね」と言われた。いつもの参観会ではどうしているんだろう。

槇島ロジ @logibako
保湿クリームをお徳用ボトルのノズルから手に大量に出し、腕や足にこれでもかと塗りたくる。こんな非力なクリームをなぜ使い続けてきたのかと問われれば、においをアイツが好きだと言ってたから。単にそれだけ。もう一度ノズルを押すとプスッと気の抜けた音だけがして、もう空になるよと教えてくれた。

槇島ロジ @logibako
保健室の先生が初恋の相手だと言うと、キミは笑った。「その次は看護婦さんだったとか」「正解」「男のひとって優しくされるとそれを好意だと思っちゃうから」バカなんだよ、男って。明日までの書類を残業までして手伝ってくれるキミにこんな話をしているのも。さて、キミの言葉をどう受け止めようか。

槇島ロジ @logibako
保護色の機能を持つ魔法のコートを手に入れた。羽織るだけで透明人間になれる。私は早速それを着て、隣に住むイケメンと一緒に彼の部屋に入った。ネクタイを外してバスの湯を張り始める。ああ、もう満腹。すぐにでも逃げ出したいけど今、私が扉を開けたら幽霊とか苦手な彼はこのアパートから引越を…。

槇島ロジ @logibako
保線工事を終えた仲間の浮かない顔にワケを訊くと、同棲していた恋人が出ていったのだという。「彼女の実家がこの路線にあってさ。自分を振った女の安全を守っちゃう男って一体、なんなんだろうな」それで今日の作業が特に念入りだったのか。「下りがあれば上りもあるさ」オレは彼の肩をポンと叩いた。

11月11日

今河みのる(サイトからの投稿)
 昼下がり、奈津子は保健室で本を読んでいた。ここだけが心の拠り所だ。
「熱心だね」
仕切り越しに男子が話しかけてきた。
「ただの読書だし」「それも勉強さ」
会話が弾みかけた頃、先生が戻ってきた。
「誰かいるの? 」「え…」
空のベッドの側で、いたずらに風がカーテンを揺らしていた。

今河みのる(サイトからの投稿)
 塀から出て目に飛び込んだのは、刺すような空の青だった。
 武志は幼少期から暴力に明け暮れていた。その度に金で保釈されてきたが、遂に途絶えた。親への殺人未遂で捕まったのだ。刑務所は、虐待が当然だった家庭よりずっと豊かだった。
 空を見上げると、口笛がこぼれた。真の自由を祝って。

今河みのる(サイトからの投稿)
 爽やかな朝に反して、貴也の家は騒々しかった。また妻がパンを焦がしたのだ。仕方ないから米を炊いた。
「全く俺がいないと何もできないって…保護者じゃねぇぞ」
そうつぶやくと貴也は出社した。暫くして、妻が気づいた。玄関にはぽつんと弁当が一つ。
「全く私がいないと何もできないんだから」

今河みのる(サイトからの投稿)
 姥捨山の風習は、友紀子の村にも存在した。
瀬田家から寄贈された書物に記されていたのだ。
「資料館の目玉にしよう」
学芸員として胸が躍ったが、ハッと手を止めた。
滲んだ墨から伝わる無念さ。そこには息子から母への思いが詰まっていた。
友紀子は、書物をそっと開かずの保管庫にしまった。

今河みのる(サイトからの投稿)
 木の枝にひっかかった風船が、自身と重なった。
保育士を続ける十和子は、結婚12年目になる。子どもはいない。
何で私だけ…。同級生の出産祝いを届けた後、ふと公園に立ち寄った。
「あれを誰かがとってくれたら、吹っ切れそう」
 二時間後、十和子は街中を歩いていた。赤い風船を片手に。

せらひかり @hswelt
保留音が響いている。通話はなかなか再開されない。人間を出してくれと頼むと、人工知能は悩んだようだ。コールセンターに人間はおらず、過去のセンターに繋ぐことにしたらしい。保留音がたまに変わる。十年前の流行曲、二十年、三十年前、それから。やっと繋がった先に、まだ元気だった頃の君が出る。

茉弥(サイトからの投稿)
昼下がりのお風呂場。静寂を保った空間を水音が切り裂く。数時間前までいた雑踏を思い浮かべ、泡を落とす。湯につかりながらこの後飲むウィスキーを考える。午後休を満喫するための私のルーティン。髪を乾かす時間が惜しい。風が心地いい。今日くらいはいいか。さて、何を飲もうかな。

いえろー @86001yellow
幼馴染みは一途だ。この3年、同じヤツに告り続け、今日で6連敗。どうせまたあそこだろう。昔よく遊んだ公園の木製の滑り台の下。覗き込めば膝を抱えた幼馴染み。俺は小さな頭にぼす、と手を乗せた。「逃走した女子高生の身柄を確保。罪状は失恋」「うっさい」幼馴染みは恨めし気に俺を睨んで、泣いた。

あめ @QzJe8ZdUJCy9Miw
雨のガーゼが匂う日に、背骨を積み木みたいにして遊んでいたら、私は人の形を保てなくなってしまった。いやに透明になっていく私は、まるでクラゲだ。背骨を積み上げる単調な音が響く中、私は何となく3つほど背骨をポケットに入れた。私は窓の所に座って、海を眺めながら人である数時間を噛み締めた。

あめ @QzJe8ZdUJCy9Miw
歯のような花が咲き、その内の1本が虫歯だった。可哀想にと保護する。捕まえるのに噛まれて大変だったが、なんとか捕獲し歯医者に連れて行くと、「こんな患者は初めて見る!」と驚かれた。私も怖気付いている。なんとか治療が終わって、毎晩歯を磨いてあげると懐かれた。今では大切な家族の一員です。

MEGANE @MEGANE80418606
私の通っていた学校の保健室の天井には、妖が棲んでいた。姿は見せず、老いた声だけで保健室を訪れる生徒たちに「調子はどうだ?」と聞いてくる。私は毎回「最悪だよ」と答えていた。卒業式の日も保健室で寝ていると「調子はどうだ?」と聞こえてきた。「ぼちぼち」私の答えに、妖は嬉しそうに笑った。

久寓 @kuguu_
ひよこを飼い始めた。可愛いけれど今にも消えてしまいそうだったから、僕は毎日「君は強い」「そのままの君で最高だ」と話しかけた。

そのせいなのかどうなのか、体は大きく逞しくなったのにいつまで経ってもなぜかにわとりにならない。自己肯定感が高いのは良いが、少し過保護すぎたのかもしれない。

久寓 @kuguu_
ここでいつものように“保身”に徹すれば波風立てずにすむんだろう。
でも、私はあえて噛み付くことに決めた。

こんな私をすきだと言ってくれる人がいるから、必要以上に自分を貶めたりしない。大切な人を大切にしたいから、もう無責任に許容はしない。
あなたにも、私自身にも、誇れる私で居たいのだ。

11月10日

迷路メィジ @Akumademeiji
今日も、私の世界は歪んでいる。保護シートの下は、ひび割れた画面。この小さな箱の中に、私の世界全てが入っている。いっそこの体も箱に溶けてしまわないだろうか。呼吸を忘れた私は、いつの間にか手の中のものを落としていた。
明日には、また亀裂の増えた画面で、世界に眉をひそめるのだろう。

メイファマオ @molmol299
保管庫に残してあるもの。
捨てたいけど捨てられないもの。
捨てたけど戻してしまうもの。
愛情は失せ憎悪は残り。
それでも消せないものを何と呼べばいいのだろう。
バラバラにして瓶に詰め保存液に浮かぶ貴男を見つめ。
いつか来る終わりを待ちながら。
保存されてしまった情を持て余す惨めな私。

大殿篭 猫之介 (おおとのごもりねこのすけ) @ponkotsu_mt
散りばむ星が瞬きもせぬ天球を二本のレールが貫く。車輪で磨かれた鋼鉄は星の光をはじき、均等に並んだ枕木を繋ぐ平行線は楽器のように美しかった。事実、ハンマーで叩く音色は木琴や鉄琴を想わせた。耳を当てがうと一番列車の鼓動が近づいて来る。銀河鉄道の保線員は作業を終い、流れ星で家路につく。

すゞ乃 @myk714sz
ひとのかたちを保てないほど、あなたのことが恋しくて、あなたの傍に居たいから、わたしはこうして息をする。
想いは脳を破壊する。滾る血も凍る涙も何もかも全部あなたのものだ。
それが受け入れられたなら、今すぐここで消え去ってもいい。それが受け入れられぬから、風吹く海辺に佇んでいる。

藤和 @towa49666
保安官は子供の頃の憧れだった。煤けた西部劇の画面の中で銃撃戦をする姿を見て、ああなりたいと思った。そして今、町の交番で警察官をやっている。たまに事件はあるけれど、銃を出すようなこともなく平和な日々を過ごしている。保安官の銃撃戦はあこがれたけれども、今になっては平和な毎日が一番だ。

富士川三希 @f9bV01jKvyQTpOG
道端には人を傷つける言葉が転がっている。その道中で猫に出会った。保護とは、外からの危険・脅威・破壊などから庇い守ること。この家に居ればカラスに突かれることもないし乱暴する人間もいないから安心だ。私は安全を提供する。あなたは安らぎを提供する。保護されたのは果たしてどちらだったのか。

碧乃そら @hane_ao22
私は早産で生まれ、一ヶ月以上保育器に入っていた。輸血もしてもらったと母に聞かされていた。写真に残る新生児の私は、何本もの管に繋がれ痛々しい。けれど大きな病気や怪我もなく成長できた。思春期特有の希死念慮に苛まれた事もあるが、私は知っていた。この命は尊く、無駄にしてはいけないのだと。

五十嵐彪太 @tugihagi_gourd
白くてふわふわの卵が美しく装飾された保育器の中で眠っている。わたしが産んだのだ。こんなにやわらかなのに強烈な痛みを伴った。「本当に育つのかな……」哺乳類のはずのわたしが卵を産んだ理由はわからない。医者が言う。「初めに鼻が出てくるでしょう」夫は頷く。たまごがぽにょんと伸びをした。

よつ葉 @Kleeblatt3939
二千年の昔から少しのズレもなく保持され続けた古の言葉。春を言祝ぎ、夏を崇め、秋を喜び、冬に祈る。それらは神々と人が会話をしていた頃の言葉だった。今や祈りの言葉しか残っていないこの音と言葉を引き継ぐために、耳鳴りがしそうなほどに静かな祈りの間で、父が唱う美しい音に私は耳を澄ませた。

星雲(サイトからの投稿)
母が死んだ。一昨年も前のことだ。未だに仏壇に手を合わすことができない。父は母の仏壇に手を合わせている。そうして母の死を受け入れ、自分を保つ事ができるからだろう。私は未だに仏壇に手を合わす事が出来ない。死を未だに受け入れていないからだろう。そう他人事のように考え、自分を保っている。

北江将土(サイトからの投稿)
返品保証期間は二か月です。と書かれた紙をみてから俺は家に届いた一つの円形の機械を見た。これは最新のVRゲームで使う機械だ。例えどのような別れや勝てない敵があったとしても、俺はそのVRゲームの中で戦いたい。もう誰も失わないように。

11月9日

なつか @natuka_recipe
そろそろ形を保てなくなっていた。吹き荒ぶ風にあまたの礫は狂喜乱舞し飛び交って、街中あちこち蜂の巣だらけ。骨がガタガタ鳴る。湧く血も躍る肉もない。涙などあろうはずもない。骨はガタガタ鳴り響く。嗤い声は闇に消え。やがて静かになっていく。跡形もなく崩れて失われ、ひっそり土へと還るだけ。

藤咲沙久 @saku_fujisaki
「現状維持って、走り続けることなんだって」
 ソファに沈みながら、君が眠たそうに言う。昨日テレビで聞いたそうだ。僕はなるほどと思った。
「確かにそうだね」
 綺麗な卵焼きを喜ぶ君。酷い寝癖を嘆く君。全部可愛くて、毎日好きになる。好きになり続ける。愛は保たれ、昔のまま維持されていた。

藤和 @towa49666
折りたたみ式のかまどとクッカーを、リュックに詰め込んで電車に乗る。今日はいつも行くキャンプ場でのデイキャンプだ。着いた駅からキャンプ場までの間にあるスーパーで食材と水を買って歩いて行く。冬に差し掛かったこの時期は寒すぎず、しかし保冷剤も必要無くとても楽だ。外飯するのに良い季節だ。

酒匂晴比古 @sakoh_haruhiko
チャールズ・リンドバーグの墓は、ハワイのマウイ島の東岸の町ハナに建っているそうだ。残念ながら、ぼくはまだ行ったことないけど。そこはきっと、朝から晩までずっと、澄んだ青い大気が保たれているんだろうね。ビバ、人生。木星イオ・ベースにて。

酒匂晴比古 @sakoh_haruhiko
「新大久保にはどのように行ったらよいでしょう?」「電車かバスかタクシーか自家用車かレンタカーか誰かのクルマに乗せてもらうかバイクか自転車か三輪車かキックボードかローラースケートか馬か駱駝か牛車か徒歩か、そんなところです」「ほかには?」「このVRヘッドセット、お貸ししましょうか?」

五十嵐彪太 @tugihagi_gourd
静寂の部屋に振子、大小の歯車、動かない鳩。そして大量の時計。「ここは何だ?」と聞くと「宇宙保時室。時間を見張っている」
「見張りを止めるとどうなる?」
「時は動きを止める」
「ウソつきめ」
時間泥棒ロボの背中から竜頭を引っこ抜いた。チクタク音、時が息を吹き返したのだ。鳩も飛び去った。

久保田毒虫 @dokumu44
幸せを探しに外へ出た。意外にもすぐ見つかった。天気の良い午後の日の公園。ベンチに座って空を見上げる。雲一つない青空。なんて良い景色だろう。小鳥たちは囀り、それはやがて歌になる。なんて良い音色だろう。これこそがきっと幸せなんだ。私は願った。どうぞこの幸せが保たれますように、と。

モサク @mosaku_kansui
マサキは蒸し器の中に保温されていた肉まんを手渡され戸惑う。お金を持っていないし、下校途中にコンビニに寄るのは駄目だと言われているのだ。「バイトしてるのうちの部の先輩だよ」高校受験を控えた先輩は、引退前もマサキを気にかけてくれていた。「あ、母さんの豚まんと同じ味」お腹がほかほかだ。

東方 健太郎 @thethomas3
元気にしてた?うん、まぁまぁね。あの頃は素直になれなかった。保ちゃんは、こともなげにそう言い放った。あたしなんか、今でもまったく素直になんかなれない。また久しぶりにご飯でも行こうよ。保ちゃんのこういうところがいやだったし、よかったんだ。ご飯になんか行けるわけない。ばかじゃないの。

きり。 @kotonohanooto_
だれかわたしを保護してください。このままだと、自分で自分を傷つけ、あやめてしまいそうだから。心の中でけものが暴れ回って、そんな自分自身と向き合えず、いま必死で逃げているけど、自分だから逃げられない。こわい、つらい、かなしい、どうしたらいいんだろう。だれかわたしを保護してください。

11月8日

佐倉もえぎ @usumoegicolor
僕は息を呑んで彼女の動向をそれとなく窺う。今日は計画実行日だ。彼女の命を金に変える。いかにも小説のような計画を決めたのはいつのことだっただろうか。感傷に浸りそうになるが、頭を振る。僕は保険金が欲しい。いざ、というところで窓から望む光が目に飛び込んできた。あぁ、血のように赤い月だ。

pokazo @pokapoka_pokazo
保護者が迷子の彼を迎えに来たのは、館内放送をしてすぐのこと。「お父さんがお迎え来てくれたよ」と私が言うより早く、少年は全力で飛びついていった。男性は微笑みながら「かくれんぼ、次は君が鬼をしなさい。お父さんを決して見失ってはいけないよ。」と、泣きじゃくる少年の頭を優しく撫でていた。

三日月月洞 @7c7iBljTGclo9NE
寺にて。「これが、かの保元物語に記されし血書経ですか」と若い僧がしきりに呟き、それを虐められっ子が障子穴より覗いておった。しかし僧の周囲には何者もおらぬ。無人だ。子が堪らず、「変だよ!」と罵る。途端に僧は天狗の姿となり「奴らへの復讐は、虚しいぞ」と柔らかに笑みて子の懐刃を奪った。

せらひかり @hswelt
保育園で風邪が流行っている。手洗いうがいなどをしても、人々は接触する。接触するタイプの個体しか生き延びなかった過去を思う。植物の頃、恐竜の頃、猿人の頃。「平安時代とか、接触したら感染するから扇で口元を隠したらしいよ」宇宙に出てまで古典に詳しい家族は、子から風邪をもらって寝込む。

せらひかり @hswelt
こんなものでは保定されない。三毛猫は暴れ回る。食べ物を早く持ち帰らないと、仲間が倒れてしまう。カゴに入ったら終わりなのは分かっていた。罠の掛け金を押さえたらいい、その技術を持った奴は猫風邪にやられて動けない。自分には難しかった。目の前が暗くなる。噛みついた相手は、あざやかな笑顔。

今村スイ @tsuduru_0716
温度と湿度の一定に保たれた展示室の中で、私たちは一枚の写真に見入っていた。著名な写真家の撮った、何の変哲もない子どもたちの写真だ。祖母がぽつりと、空襲で全部焼けたと思っていたのにねと呟いた。一枚だけ残っていたなんてね。モノクロ写真の中のおかっぱの女の子が、私たちに向けて微笑んだ。

小雪せと(サイトからの投稿)
保健室、それは私の最後の砦。休み時間の校舎は騒がしい。震える私の手に先生の柔らかい手が重なった。「大丈夫」囁かれた声にゆっくりと顔を上げる。「一緒だから大丈夫だよ」先生は繰り返した。「うん」私は小さく頷く。保温室、でもいいかも。心に広がる先生のあたたかさを、ずっと、覚えていたい。

11月7日

兎野しっぽ @sippo_usagino
便利な時代になった。スマートフォンひとつで、ありとあらゆるデータを保存できる。情報化社会の今、データの取捨選択はその人の命運を分けると言って過言ではない。今日も帰宅をしてすぐに、データの確認作業に取りかかった。
『友だちから◯◯を削除します。よろしいですか?』
彼女はもう必要ない。

大殿篭 猫之介 (おおとのごもりねこのすけ) @ponkotsu_mt
斯様なことは直に相手の瞳を見詰め、己の口から発せねばなるまいと拙者は覚悟を極めた。
「貴殿を大切に幸福にせむと欲する。結婚して呉れ給え」
すると彼女は
「さういふ大事な案件は、口頭ではなく、一言一句漏らさずにメールするのが礼儀でせう。名前を付けて保存する。CCにて両親にも」
と宣った。

北宮華月 @raindfall23
保守的でいながらも、行動をする。そうありたいと思いながらどちらかに偏っている気がする。保険をかけていないと不安で仕方がない。自分を守りながら生きて、決して出しゃばらない。時には前に出て主張することも大切だよと教えてくれた人を思い出して笑みを浮かべる。

五十嵐彪太 @tugihagi_gourd
極小カメレオンが揺れる葉の上でポーズを取る。完璧な保護色に満足しているが、葉が妙に不安定なのが気にいらない。
コノハウオは擽ったい。水流がおかしいと思っているが、それはカメレオンが動くせいだ。
カメレオンが水に落ちたのか、コノハウオが空中に飛び出したのか。見ていたのはお月さまだけ。

Pino @pirooooon
もう、人間の姿を保っていられないんだ。君が無感情に言う。その姿は、確かに人間とは言えそうにない。血と肉の匂い、妙に白い骨の色。だから、言ったのに。安易な拾い物はするな、と。僕は彼以上に何の感傷も持たない瞳で、ポケットの中の十字架を握る。神への祈りは、たぶん、保険にすらならない。

永津わか @nagatsu21_26
暗闇の中。空っぽの宝箱に少年は言葉を失いました。しまった幸福が消えていたのです。どうしよう。もう何にもない。動けない少年の隣に誰かが身を寄せました。幸せは保存できないの、と落ちた涙を拾って渡しました。でも、あったことは覚えているでしょう? 少年ははっとして手のひらを見つめました。

永津わか @nagatsu21_26
さて皆さん。こちらが新たな生命保険です。突然の死に備えましょう。身辺整理の三時間プラン。お別れのできる一日プラン。やり残し解消の七日プラン。必ず手に入る死後の生命。掛け捨てはなし。だって死なない人間はいませんからね。(ただし死因によっては生命形態の保証ができかねます。悪しからず)

久保田毒虫 @dokumu44
「じゃんけんがいちばんびょうどうなのよ、ねぇせんせい?」「大人になるとそうでもないよ。グーで勝っても『負け』って言わないといけない時もあるんだ。大人の世界は、必ずしも平等が保たれてる訳ではないんだよ」せんせいはそれを「ホンネトタテマエ」っていってたけど、よくいみがわかんなかった。

いえろー @86001yellow
11月6日、私達は同僚に戻った。同じフロアだし嫌でも顔は合わせるけど、社会人同士、近づき過ぎず離れ過ぎず適切な距離を保とうと約束した。翌日、さっそくエレベーターで二人きり。「顔強張ってんぞぉ」脱力感たっぷりの彼の声。変わらないままいられるなら一緒にいてよ、ほんのちょっとでいいから。

ダニー @5FUmQge6xskyxmC
「君への気持ちは、きっと冷める事はないよ」
告白してくれた時、彼はそう言ってくれた。だけど私は知っている。彼はとても移り気で、私への気持ちはすぐに冷めてしまう事を。だから私は冷める前に彼の心臓を取り出して魔法瓶に入れておく事にした。そうすれば、私への気持ちも保温出来るでしょう?

水沢ながる @mizunagaru
自分から見ても、地球の奴らはバカだと思う。戦争の末に地球ごと破壊してしまったのだから。だから銀河連邦の連中に知的生物扱いしてもらえないのだ。仕方ない、今日からここが私の家だ。
星間動物保護施設──宇宙動物園で、絶滅寸前の「地球人」の最後の一匹として、これから私は生きることになる。

碧乃そら @hane_ao22
「あなたの兄、いつ見ても綺麗だねー」「毎日聞き飽きたよそれ」私は窓際の席で親友とお弁当を食べながら、彼女とよく似た双子の兄を見ている。「付き合ってみたら?」「そういうのじゃないの。目の保養なだけ」「ふうん?」だって本当の事は言えないから。私が好きなのは、目の前のあなただもの。

モサク @mosaku_kansui
ミニマリストです。衣替え不要で探し物なし。ストレスフリーな憩いの空間。あの日、耳が拾った彼女の言葉に感謝しよう。整理整頓が苦手な私が何年間も消せなかったアドレスを削除した。「連絡先は分類して保存するの。いつまでも役に立たない人と繋がっていられないでしょ」私は消去リストの人だった。

葉山みとと @mitotomapo
おもちゃの組紐をひたすらに編んでいた。終え方がわからなかっただけかもしれない。それは、いつもどこかしら工事している新宿駅の鬱屈であり、グッドバイの未完の安堵でもある。

 欠落を一目、ぎったん。

 欠落の欠落を一目、ばっこん。

均衡を保ちながら、来たる(来ない)未来を紡いでいく。

はぼちゆり @habochiyuri0202
「それは悪魔だ」娘の保育園の話を聞いて私はそう怒鳴っていた。嫌がる娘に「そいつとは遊ぶな」と叱りつける。その夜、子供の格好をした黒い影が現れ「悪魔と遊べば悪魔になる」そう囁きニタニタと娘の部屋へ。急いで私も向かうと、娘はスヤスヤと天使の寝顔だ。隣には見知らぬ天使が横たわっていた。

11月6日

冨原睦菜 @kachirinfactory
とろけるようなピアノの旋律を身体で紡ぎ出すフィギュアスケート選手は美しい。リンクから遠い2階席の後ろの方。氷上の選手は真珠の湖で遊ぶ妖精のように小さく儚い。その瞬間瞬間を風が流れるように切り取ってずっと見つめていたい。「綺麗な硝子ドームに入れて保存したいな…」そんな言葉が漏れた。

永津わか @nagatsu21_26
鯨の足、鳥の歯、子守熊の尻尾。重い扉が開くと天使たちはほうと息を吐いた。保管されるのは進化の過程。生き残りのために失われた欠片。けれど今日を最後に長らく増えることはないだろうと、特別な計らいで解放された。大天使が恭しく新たな品を置く。見て。あれが人間の脳よ。天使たちは囁きあった。

大殿篭 猫之介 (おおとのごもりねこのすけ) @ponkotsu_mt
私はグランドキャニオンの断崖に架けた四寸幅の板橋を自転車で渡っている。踏み外せば即ち死の緊張感を自分に課し、路側帯の白線に沿って車輪を漕ぐ。
横断歩道を渡る園児たちのお散歩に阻まれ、絶体絶命の危機に見舞われる。静止させた自転車の均衡を保つ必死の形相に無垢な視線が容赦なく注がれた。

秋助 @akisuke0
神様の気まぐれで地球を作り替えるそうだ。「最期なんだから好き勝手やっちゃって。望めば何でも手に入るからさ」次の世界に人類はいらないから慈悲だという。あと数時間で地球は形を保てずに滅びる。何かが劇的に変わると思った。それでも、嫌いな奴は嫌いだし、真夜中に飲むコーラはとてもおいしい。

いえろー @86001yellow
恋愛には保険をかけている。呼べばいつでも駆けつけて、失恋後も次が見つかるまでの間に穴埋めになる人材。「今日だけはどうしても行かれない」「口答え?じゃあもう要らない」アプリで次を探すもめぼしいのはおらず、気晴らしにショッピングに出た。街の片隅、見つけたのは口づけを交わす本命と保険。

成陽高校文芸部 @seiyoliterature
「本年度は人が運ぶのを止めにします」
11月、衝撃の通達が出た。まぁ一理ある。住民にバレたときのトラブルは毎年絶えないし。

ただ早めに言って欲しかったな。親トナカイに「子の安全は必ず保障します」と頭を下げたばっかだ。

今年は良い子も悪い子も、黒い物影ことドローンがお届けするようだ。

Jasmine(サイトからの投稿)
心と体のバランスを保つために、仕事と習い事の両立をしている。空手、英語、そして仕事。他人からみたら「忙しいそう」「大人なのに毎日遊んでいるなんて」と思われるかもしれない。たが、習い事は多くのことを挑戦させてくれる。1つの課題を克服できたとき幸福感に包まれる。だからやめられない。

Jasmine(サイトからの投稿)
保健室が好きだった。優しい先生が、手当てしながら話を聞いてくれる場所。ふかふかのベットに消毒のにおい。身体測定で1年間で1番背が伸びて表彰された時は、嬉しかったな。でも、大人になった今、保健室は使えない。自分でなんとかしなくてはならない。嗚呼、あの頃の温かい雰囲気が懐かしい。

すゞ乃 @myk714sz
紛うことなき保身。彼のためだとか君のためだとか口々に出任せを放り投げて、僕は生きている。胸の底から沸きあがるもやもやとした温い何かに名前を付ければ確かに愛で、それを他でもない僕が認めなければエゴとなる。君はどうだい。僕のこの保身は、愛だろうか。それとも一体、エゴであろうか。

イマムラ・コー @imamura_ko
君が転んで膝をすりむいてべそかいて保健室へ行った時、美人の先生に絆創膏を貼ってもらったね。「男の子が泣いちゃダメよ」って言われて真っ赤になってた君。君はあの先生が好きになったのかな?傷が治った後も保健室へ行ってたね。でもあの先生は結婚するんだ、僕とね。君の担任の僕と。ごめんね。

月夜野出雲 @Tukiyono_Izumo
小学生の頃、白衣が予防接種のイメージと結び付いていて怖いとしか覚えていませんでした

中学生の頃、部活で怪我をしてお世話になり怖くなくなりました

高校の頃、昼休みによくお喋りしたり悩みを聞いてもらったりしました

大学の頃、一生懸命勉強して

今は保健室の先生になりました

三日月月洞 @7c7iBljTGclo9NE
遥か昔、月読命は保食神をお斬りになられた。保食神が口よりお出しになった豪華な御馳走で月読様をもてなそうとなさった事が逆鱗に触れてしまった為だ。だが、最も若き《令和の神》はその話に納得がいかない「人間は直ぐ我ら神々で時に無礼な創作をしよるから」月読様はお答えになる「口出しは、野暮」

part1 part2 part3 part4 part5 結果発表

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